オリーブ
ーードンッ。
「いってぇ〜。」
ぶつけた額と鼻頭が痛い。
よく分からず、上体を起こして目を開ける。
ん?
俺の下で戦闘服をきた女の子が、顔を真っ赤にして目を見開いていた。
見たこともない様な黒い髪に赤い髪飾りをした可愛らしい女の子だ。
あまりの可愛さに、ポーッと見つめる俺。
すると、
「ちょっと、その手離して、早くどくアル!」
彼女は恥じらいながらも、怒った様子で言ってきた。
その手?
みると、俺の右手がちょうど彼女の胸の上に乗っていた。
というか、胸を掴んでいた。
「ごごごご、ごめんなさい!!」
慌てて手を引っ込めて、立ち上がる。
俺も気が動転して周りも見ずに立ったものだから、体重をかけて踏ん張った足の下に一緒に飛ばされたナババの皮があった事に気づけなかった。
「あ。」
そして案の定、俺はまたバランスを崩して倒れる。
「きゃっ。」
しかも顔面から彼女の谷間に向かって。
ログとルイス、マークルが慌てて俺のもとによってきた。
「2人とも、大丈夫か?」
ルイスが、放心している俺を引き剥がして起こす。
彼女はログが差し出した手を払い、自分で起き上る。
それを見てたマークルが、
「チエル君。なんて羨ましい展開なんだ。」と、ボソッと言ってるのが聞こえた。
起き上がった彼女は見るからに怒った表情で、未だ放心して真っ白になっている俺と、俺の肩を揺さぶるルイスの方に歩いてきた。
「ちょっと待ってあげてください!気持ちは分かりますが、チエル君は、わざとしたんじゃないんです。」
マークルが俺達と彼女の間に入って来て、俺を庇う。
そんなマークルと俺達をキッと睨みつけた彼女にマークルがヒッーーと声をもらしたが、彼女はそのまま俺達を素通りして、この状態を後ろで見ていた女性達の前に立った。
ジィッ〜と女性達を睨みつける女の子。
「ちょっと、あんた何なのよ。ぶつかったのはあのチンチクリンでしょ?」
ログの取り巻きの1人が女の子に突っかかっていった。
チ、チンチクリン……。
すると女の子が、
「うるさいネ。さっきから……。周りの迷惑も考えられない女が男に好かれるわけがないアル。」と、声を震わせながら言った。
「だから別に私達は迷惑なんてかけてないじゃない。ぶつかったのはアイツでしょ?それとも、召集された貧民風情が教養を受けて育った名家の私達相手に文句でもあるわけ?」
と、ドレスを着込んだ女が、その子の前に出てきて言った。
「そうですわ!私達のお陰で貴女もパーティーに出れてるのに、頭が高いのよ。1度痛い目にあった方が良くって?」
「変な喋り方だし、よほど田舎もんなんでしょ?今のうちに実力差を叩き込んであげるわ!」
次々に女性達が女の子に突っかかる。
マークルはその様子をガタガタ震えながら、
「お、女の人ってこ、怖い。」
と半泣きで見ていた。
言いたい放題言われて、下を向いて肩を震わせている女の子を見て、ログが慌ててフォローに入った。
「ちょっ、もう落ち着いて!許してあげて!ね!」
「そうですよ!大勢が1人になんて酷すぎます!」
マークルも一緒にフォローすると、
「マークル、あの、そうじゃなくて……。」
と、ログがそっぽを向いた。
え?と、マークル。
次の瞬間ーーーー。
激しい爆発音と共に、女性達の後ろに位置するホールの入り口付近の壁が吹き飛んでいった。
爆風に飛ばされて、崩れた破片がこちらにも降ってくる。
「キャアアァァァァ!」
女性達だけでなく、パーティーに参加していた皆んなが突然の状況に混乱する。
何事だ!?と警備兵が慌てて崩れた壁に集まるのが見える。
見たところ怪我人はいない様だ。
まだ混乱が残る中、平然とした様子で立つ2つの影。
額と腰に手を当てて、軽くうなだれた様子のログと、うっすらと煙の上がる右手を前に突き出して立つ女の子。
え?まさか……。と、思った矢先。
「そんなに痛い目に合いたいなら、お望み通り消し炭にしてやるネ!それと、私の前であまり身分の話はしない事ネ!私は比べられる事が大嫌いアルネ!」
と女の子がキレて、再び突き出した右手の平が光りだした。
青ざめた顔で震えだす女性達。
「そこまでだよ。オリーブ。これ以上は、お父さんも怒るんじゃない?」
と、ログが彼女の手首を掴んだ。
オリーブと呼ばれた彼女は、ログを一睨みしてから掴まれた手を振り払う。そして、そのままの流れで左手でログの鳩尾を殴った。ドスッーと鈍い音がして、ログがお腹を抑えた。
「元はと言えばあんたが悪いネ。これで今回は許してやるアル。」
そう言って、彼女は下がった。
「ごめん、ごもっとも。」
「大丈夫ですか?!お前は動くな!」
遅れて状況を把握した警備兵が、彼女に銃を向けて囲んだ。
彼女はそんな状況にも全く動じずに、ふんっーーと、腕を組んで顔を背けた。
「すまない。今回は私達のせいだ。責任は私にある、彼女を離してくれ。」
ルイスが警備兵に声をかけた。
「ル、ルイス様!し、しかし。」
「僕からも、お願いするよ。今回は僕達の責任だ。彼女もこれ以上は決して何もしない。離してやって欲しい。」
ログもそう言うと、警備兵は銃を下げ青ざめている女性達を連れて下がっていった。
去り際に軍服を着た1人の男が、
「ルイス様、ログ様、ここではあまりお2人方を貴族として対応する事が難しくなります。あまり、こ戯はなさりませんように。」と、言って頭を下げた。
「あぁ、すまない。」
ルイスがそう言うと軍服は、さっと下がっていった。
「少し目立ち過ぎたみたいだね。場所を変えようか。」
俺達と一定距離を保ちながら、周りでヒソヒソとこちらを伺っている参加者達を見て、ログが俺達に言った。
ルイスはあっけにとられるマークルと俺を、ログはオリーブを引きずって、皆んなで俺達の部屋に戻る事になった。
「なんで私まで連れてこられなくちゃならないアル!」
彼女は無理やり連れてこられた事にイライラしているようで、部屋に着くなりログを蹴り飛ばす。
「だって、君が1番状況的にヤバイんだよ。皆んなあの後で君の横で優雅に食事なんてできないよ。」
確かに、ログの言ってる事は当たってる。
俺だったら、あの後あの場で優雅に食事は無理だ。
「しかも、あの子達には周りの迷惑がなんとかって説教言っといて、自分は会場ぶっ飛ばしてたら説得力0だから。」
ふんーーと、ログの言ったことを流したあと、彼女が俺の前まで来て言った。
「ところで、一応聞くけどさっきはわざとじゃないアルネ?」
……さっき?あ、そうだった。
「ちちちちち、違います!わざとじゃないよ!でも、すみませんでしたーー!」
俺はさっきの状況を思い出して土下座する。
ほんとに不可抗力だった。
「わざとじゃないなら、仕方ないアル。今回は特別に許してやるネ。」
そう言って少し顔を赤らめながらそっぽを向いた彼女は、無茶苦茶に思えて、案外優しい子なのかもしれない。
それから、俺はさっきからずっと気になっていた事を勇気を出して聞いてみる事にした。
「ごめん、ほんと失礼かもしれないんだけど……あのさ、君服の中に何か着込んでる?」
「チエル、女性に対して大胆な事聞くんだな。それはちょっと失礼じゃないか?」
ルイスが若干察したようで、軽く軽蔑の眼差しを向けてくる。
「そ、そう言う意味じゃなくって!な、なんと言うか……。や、やっぱりいいや!」
なんかすごい露骨に失礼な事を聞いてしまったような気がして来て俺は慌てて話を終わらせる。
するとログが悪びれもなくさらっと言った。
「オリーブの胸がなさすぎるんじゃない?」
こ、コイツ言いやがった……と、思った矢先にまたログがしばかれる。
と言っても、見た感じ胸はあったんだよな……。なんと言うか、ものすごく硬かっただけで。
「知ってるだろ?お前、私に殺されたいアルカ?」
「ごめん、ごめん。からかっただけだよ。」
そう言って、ログが俺達の方に向き直った。
「紹介が遅れたよね。彼女は俺と同じシャスタ王国出身のオリーブ。元々彼女のお父さんと僕が知り合いで、昔から付き合いがあるんだ。」
「可愛いのにすごく強いんですね!さっきなんかも僕、何が起こったかさっぱりで。」
「俺もビックリしたよ。もしかして、成績順位3位のオリーブって君の事か?」
確かに3位の人の名前がオリーブだった気がする。
それならあの強さも頷ける。
てか、俺ヤバイ人に突っ込んでいったんだな。
「そうアル。」
オリーブは自慢げに胸を張る。
じゃあ、やっぱり服の中に俺の知る余地も無いような鎧的な何かを着込んでいたって事か?
強い奴はそうやって日頃から身体を鍛えてるとか……。
俺の考えを見透かしたのか、ログが笑いながら言った。
「あははっ、チエル。大体考えてる事想像つくんだけど、それ外れてるよ。彼女はね……サイバネティック・オーガニズム、多分この世界唯一のサイボーグなんだよ。」
サイバ……なんて?
後半ログの言った事がよく分からない。
皆んなも首を傾げてポカンとしている。
「うーん。ざっと言うと、オリーブは人間なんだけど、身体の殆どが機械……人工物なんだよ。だから、普通の人よりも強いってこと。」
すっっっげぇ、ざっと言ったなコイツ。
分かるけど、全然分からない。
やっぱり隣の2人もまだポカンとしている。
「見せてもらった方が早いんじゃないかな?」と、ログが言うとオリーブがニコっと笑って、袖をまくった左手を前に出した。
ウィ〜ンと、初めて聞くなんとも言えない音の後に、ガコンッと音がして、みるみる腕が変形していく。
「ヒィッーー。」
衝撃の光景にマークルが悲鳴をあげる。
そしてあっという間に腕ごと黒光りする剣身へと変形した。
じゃーん!と、自慢げに剣を掲げるオリーブ。
その横でパチパチと拍手するログ。
そ、そんなのありですか?
てか、これいきなり前で見せられて、すごーい!パチパチって……ならないだろ!
事情把握済みの2人とも何、満更でもない顔してるんだよ!
ルイスとマークルに至っては開いた口が塞がってないよ!俺もだけど。
「ね?分かったでしょ?だからチエルが胸が硬いと思ったのは、着込んでるんじゃなくて、そもそも胸が機械だったんだよ。硬いのは当たり前でしょ?」
そう言ってニコリとしたログに、俺たち3人は全くついていけなかった。
ボツボツと、キャラ達が揃って参りました。
書きたい事と文書力が、釣り合わないのが悔しいところです。
ダチュラはどこに行ったかって?
後で回収しに行きます。
書き忘れてた訳じゃありません。
……書き忘れてた訳じゃ……ありません。




