懇親会パーティー
転移部屋(俺が勝手に名付けた)から出ると、つい数時間前まで何もなかった小綺麗で広いだけのホールが、綺麗に飾り付けられていた。
立食式にいくつも置かれている丸いテーブルを囲んで、沢山の人がそれぞれに話をしている。
一般民も参加できる様で、美しいドレスやタキシードを着込んだ人の姿もちらほらと見えた。
「あ、チエルくーん!ログさん!こっちですよー。」
ホールの入り口近くで、すでに待っていたルイスとマークルが俺たちに気づいた様で、大声で手を振りながら駆け寄ってきた。勿論大声で手を振っているのはマークルだけだけど。
「少し遅かったな。来ないのかと思ったぞ。」
ルイスが少しピリピリした様子で言ってきた。
「ごめん、ごめん。でも、あんなテストの後で俺がここに来れたことが奇跡だよ。多分ログが起こしてくれてなかったら、明日まで寝てたな、俺。」
そう言って俺は大きな欠伸をしてみせた。
「ほらね、言ったでしょ?ルイスは時間にうるさいんだよ。ちょっとぐらい良いのにね。」
ログもわざとらしくため息をした。
「うるさいとはなんだ、うるさいとは。」
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて。せっかくのパーティーなんですし、美味しいご飯でも食べましょう。あ〜、僕お腹減ったなぁ。皆さんとご飯なんて嬉しいなぁ。」
マークルが、少し機嫌の悪くなったルイスをなだめる様に慌てて間に入ってきた。
マークルはパーティーを楽しみにしてたみたいだったし、確かにここで喧嘩をしたってしょうがない。
「まぁ、でも俺も約束時間に遅れた事は確かだし、ごめん。次からは気をつけるよ。」
ルイスもハッとしたようで、
「……俺も、つい熱くなってしまった。確かにチエルにしたら大変なテストだったしな。自分本意になってしまった、すまない。」と、謝った。
「そうそう。ルイスはすぐに熱くなるんだから。」
「言っとくが、お前は別だからな。」
そう言ってルイスは、ログの背中をバンっと叩いた。
皆んなの雰囲気が和んできた所で、俺達はテーブルに向かう事にした。
今日は特別に雇われたのか、普段は見ないホールスタッフがあちらこちらに見えたので、1番近くにいた男性に声をかけて、空いてるテーブルへと案内してもらう。
時間が遅かったこともあるのか、スタッフが申し訳なさそうに案内したのは入り口近くの壁際のテーブルだ。でも、こっちからしたら人も少ないし、静かでゆっくりできてちょうどいい場所だった。
「人も少ないしゆっくり話せそうでちょうどいい所ですね。さ、ご飯、ご飯。」
そして、マークルはさっそく食事の置いているテーブルをキョロキョロと探し始めた。
「チエル君、一緒に皆さんの分の食事をとりに行きましょう。」
俺も何か飲み物が欲しかったので、マークルと皆んなの分の食事と、飲み物をとりに行くことにした。
「じゃあ、適当に何かとってくるよ。」
「僕も行こうか?」
「ログさんも来たら、ルイスさんが1人になっちゃうじゃないですか。ここで、待っていて下さいね。じゃあ、行ってきまーす。」
そう言って、マークルは俺の背中をズイズイと押してテーブルを離れた。
「い、いてててて。ど、どうしたんだよ、マークル。」
するとマークルがごめんなさい、と背中を押していた手を離す。
「いえ、ただ、チエル君と少し2人で話しがしたかったんだ。」
「話?」
「うん。朝の時本当にありがとう。僕、今までそんな風に僕を助けてくれた友達なんて居なかったから。と言うか、友達がいなくて。最初はここに来た事も、後悔しかなかったんだけど、今は本当に良かったと思ってるんだ。こんなに、親しく接してくれたのは生まれて初めてで。改めて、僕と、と、と、友達になってくれませんか?」
マークルは声を震わせながらそう言った。
俺だって、今まで友達って呼べる奴なんてルーチルぐらいしか居なかった。
空に向かって叫んだ記憶も新しい……。
でも、村を出てダチュラやログと出会って、思えばどれだけ嬉しかっただろう。2人ともちょっと変だけど。
「こっちこそ。改めてよろしく。てか、俺はもう勝手に友達だと思ってた。」
俺がそう返事すると、マークルは目を輝かせながらガッツポーズをした。
「僕にもついに友達が出来たんだ。これはお母さんに報告しなくちゃ。」
「あはは。報告って……。大袈裟だな。それ、ログにも言ってやると喜ぶと思うよ。アイツも友達いなさそうだし。」
そう言うと、ログは顔の前であわあわと、手と顔を振った。
「と、とんでもないよ。僕なんかが、そんなこと言うなんておこがましいよ……。なんたってあの2人は貴族なんだし。こうやって、話せてること自体本来ならありえないことなんだよ。」
「俺、あんまり貴族とかって分からないんだけど、そう言うもんなの?気にしすぎだと思うんだけどなぁ……。」
「チエル君はすごいね。実は僕なんて、あの2人と話する時、気に触る事を言ってしまったらどうしようって、ビクビクなんだもん。でも、いずれ自分にもう少し自信がついたら、2人にも言ってみるよ。」
「マークルがそう思うなら、それで良いと思うよ。俺なんて、ログと初めて会った時にアイツの顔面平手打ちしてるもんな……。も、勿論ログが悪いんだけどな。」
それを聞きてマークルが驚いた顔をした。
「ええっ!?や、やっぱりチエル君はすごいや!もしかして貴族なの?普通、貴族にそんなことしたら死罪だよ?!」
それを聞きいてビックリするのは俺の方だ。
「えぇっ!?お、俺は貴族じゃないよ。そ、そうなの?知らなかった……。」
「「…………あはははははは。」」
まぁ、今更ビビったってしょうがない。
きっとログなら大丈夫だろう!
……大丈夫だろう。大丈夫……だよな?
「まぁ、とりあえず、美味しそうなもの片っ端からとりに行きますか!」
「そうだね!」
そうして俺達は、豪華な料理が並ぶテーブルへと足を進めた。
マークルが大皿にこれでもかと、器用に料理を盛り付けていく。
俺は人数分のカクテルをもらって、マークルが取り終わるのを待っていた。
「そ、そんなに食べられるかな……。」
「大丈夫ですよ。僕は全然食べられるんで!」
美味しそうに盛り付けると言う概念を捨てた、只々上に料理の積み上がった皿を、両手に器用に持って、マークルが俺の横を歩く。
「2人とも、お腹をすかせて待ってるでしょうね。」
待ってるかもしれないけど、その皿を見たらきっと食欲は落ちるに違いない。
ふと、自分達のテーブルがあった辺りを見ると、人だかりができていた。
な、何かあったのか?
「キャ〜ッ!ローズライト家の御子息ログ様と、スタンアイボリー家の次期当主ルイス様よ!」
「お二人とも、こんな所にいらっしゃるなんて!少しでもお近づきになりたいわ!」
「貴女、何言ってるのよ。私が先に声をかけるわ!どきなさいっ。」
そう言いながら、次々に女性達が俺達のテーブルと言うか、2人に集まっていく。
「なんか、すっごい戻りにくいな。」
「だ、だね……。2人ともかっこいいし、あんな所見ると、やっぱり貴族なんだなって思っちゃうよね。住む世界が違うと言うか……。」
見ると、ルイスは話しかけてくる女性達にいつも通りな様子で話をしている。少し困ってそうにも見えるけど。
ログはと言うと、話しかけてくる女性を完全フル無視で、もはやこの場で1人でいるかのような態度だ。
それでも女性達はめげずに話しかける。
こっちから見てると、ある意味双方すげぇ。
「ルイス様はたくましくも、明るくて、あの笑顔がなんとも可愛いわ!」
「ログ様のあの何事にもなびかないクールな所が素敵なんじゃない!」
もはや戦争だ……。
皆んな、ログが変態だって知らないのか?
ルイスはともかく、顔に騙されたらダメなんだぞ!と、俺は内心思っていた。
うらやましい……なんて、思ってないんだからな!
俺達は結局、少し落ち着くまで待つことにし、少し離れたテーブルに入らせてもらうことにした。
すると、ホールにいくつかある人物オブジェの上がピカッと光り、巨大なスクリーンにモナさんが写し出された。
「皆さん、こんばんにゃん。パーティーは楽しんでますかにゃん?今日行ったテストの簡易的な順位が出たので、報告するにゃん。人数は1万人。今の所、その中の上位者10人に前線への配置が決定しているにゃん。ぜひ自分の順位を確認して、士気を高めてこれからの訓練に臨んで下さいにゃん。支給されてるバッチに触れると、自分の順位が光って見えるようになってるにゃん。それでは、どうぞにゃん。」
モナさんが消えたスクリーンに、1万人分の順位表が写し出された。
うわぁ〜、いざとなると緊張するなぁ。
マークルも隣でそわそわした様子だ。
俺はバッチに触れて、スクリーンを凝視する。
すると、思った通り下位順位の並ぶ左下の方で文字が光って見えた。
うーんと、何々?
チエル(オレージー村)10000位
え?え゛?ええぇぇぇぇ????!!!!
俺はテーブルに手をついてうなだれる。
てか、泣いた。
さ、最下位。
ちょっと、いや、かなりそんな気がしてたけど、いざみるとへこむ。
見ると隣でマークルも泣いている。
お前も、ダメだったのか……。
自分の順位の近くを探してみると、マークルの名前が9990位の所にあった。
いいじゃん、俺より10位も上なんだし。
まぁあんまり変わんないだろうけど。
「こ、こんなもんだよな。俺たちにしたら頑張ったんじゃない?」
「ですよね……。」
お互いまぁ、そんな良い順位を期待していたわけでもないので、すぐに気を取り直した。
食べかけていたご飯をまた食べようと手を伸ばしたら、また向こうのテーブルから甲高い声が聞こえてきた。
「きゃぁ〜!!素敵ぃ〜!さすがログ様とルイス様!」
「1位と2位なんてかっこよすぎますわ!」
え?1位と2位?ログと、ルイスが?
慌ててスクリーンをみると確かに、1位にログ、2位にルイスの名前が載ってある。
あ、あの2人ってやっぱ本物だったんだ。
てか、そうだよな……。
マークルはまた涙を流しながら、
「か、かっこよすぎます……。」
と、スクリーンに拝んでいた。
3位は、オリーブと名前が書いてある。誰なんだろう?4位にアレックスの名前が書いてあった。アイツもやっぱり強かったんだ。
その下からは名前だけでは誰かさっぱり分からなかった。
その後少しして、中々引いていかない女性達にしびれが切れたのか、帰ってこない俺達を気にしたのかログがその場を離れた。
そして、少し離れたテーブルで料理を食っていた俺達と目があった。
何2人だけで、楽しそうに食べてるの?とでも言いたいような、なんとも言えない目でこっちを見てくるログ。
なんとも言えないのは俺達の方なんだけどね。
「ちょっと、遅いから心配して……」
そう言いながら近づいてきたログの後ろから、ついてきていた女性達が出てくる。
「えっ?ログ様、誰かお連れ様がいらっしゃったの?」
「ログ様に心配して頂けるなんて、どこの女よ!」
「私も心配されたぁ〜い!」
「そんな女許さないんだから!」
口々に言いながら前に出てくる女性達はログに夢中で、気づかないまま俺とマークルを弾き飛ばした。
マークルは投げ出され、床を転がっていく。
俺も隣のテーブルまで弾かれた勢いで突っ込んだ。
自分じゃ勢いがとまらない。
スローモーションの意識の中で、俺が弾かれた先に女の子が料理を食べているのが見えた。
女の子も俺に気づいた様だが、食べるのに夢中だった様で、反応が遅れる。
「ちょっ……チエル!」
「うわぁぁぁぁ!」
ーードンッ。
俺は顔面から彼女の胸元にダイブし、そのまま彼女を床に押し倒した。
風邪のぶり返しと、溜まっていた私事に追われておりました。
少しの間、これくらいのペースで投稿になるかもです。
かけたら書きます!
すみません(泣汗)




