新人兵実力把握テスト
「皆、注目せよ!!」
俺がログを必死で引き剥がしているのを、ルイスが笑いながら見ていると、ホールの二階からせり出したバルコニーから声が聞こえ、その直後3人の人影が姿を現した。
1人は白銀の鎧を纏った騎士で顔まで鎧で覆われているため性別の区別はつかない。
残りの2人は戦闘服を着た男女だ。
中央に立っていた戦闘服を着た男が一歩前に踏み出た。
服の上からでも分かる鍛えあげられた肉体が、彼の肉体の強さを物語っている。
……俺だったら瞬殺でやられるんだろうな。
「私は今回の収集による新人兵の育成を任された育成所所長〈権天使〉のアンドレアスだ。今から君達にはいくつかのテストを行ってもらう。そこで大まかに個人の能力を把握し、これからの訓練内容や配属先の参考にさせてもらう。」
その言葉を聞き辺りがざわつく。
すると俺から少し離れた所にいた男が発言した。
「配属先って、このテストでいい結果を残すと前線に配属させるという事ですか?それならば手を抜く人も出てくるのでは?」
「確かに、力ある者には前線に出てもらうことになるだろう。しかしリスクの代償として配属された者には神都から階級を授与される事になっている。さらにそこで功績をあげた者には貴族位を与えられる可能性もあるという事だ。」
それを聞いて周りにいた人達は騒ぎ出した。
階級って言葉もつい最近知った俺にはよく分からない話だ。
「ねぇ、ルイス。階級ってそんなにすごいのか?」
確か王国の貴族って言ってたルイスに聞いてみる。
「まぁ、そうだな……。後で詳しく教えてやるが、下から2番の階級〈大天使〉の称号を貰えるだけで一般民の生活レベルは、各国の首都を基準として今の倍にはなるだろう。」
今いちピンとこない。
うーんと首を傾げている俺を見たルイスは
それなら……と、
「まぁ、毎日好きな物を3食食べられる生活が補償されるって感じかな?」
と親指を立てて言った。
な、なるほど、それはすごい。
「静かに!それでは時間も惜しい、今から30組の100人ずつに分かれて、それぞれテストを行う。今からこちらで勝手に組み分けしテスト会場に転送する。そこにいる試験官の指示に従うように。」
そう言うと、所長の左側にいた戦闘服の女が杖を上に掲げた。
その杖がピカッと光った瞬間ーー、俺達は森の中の開けた場所にいた。
ふと横を見ると、ログもマークルもルイスもいる。
ザックリと固まって転送されたみたいだ。
ここは……神都じゃないみたいだな。
ついに始まりそうな雰囲気に、
「ぼ、僕、頭も悪いし戦闘も、魔法もダメだし、正直ダメなんだろうなぁ。」
マークルは、はぁと横でため息をついた。
それを聞いたダチュラが、
「そんなのチエルも一緒デシ!やる気出すデシ!」と慰めた。
コイツ本当に俺の事バカにしてるよなぁ……。
でも、
「やれるだけの事をやるしかない。」
自分にも言い聞かせて、拳を握りしめて気合を入れる。
背中のダチュラも鼻から息を出してやる気まんまんな様子だ。あれが鼻なのかは知らないけど……。
「注目!この組は私が指揮をとりますにゃん。」
そう言って俺達の前に出てきたのはさっきいたのとは違う女の人だ。
短く切りそろえた髪と少しつり上がった大きな目、そして頭から生える獣の耳にユラユラと揺れる長く細い尻尾。
可愛い……。
横を見るとマークルもその子を見て顔が火照っているような気がする。
なぜが、俄然やる気に満ちた瞬間だった。
「私はこの組の指揮官、モナです。まずは身体能力を測るテストを行いますにゃん。テストはここから向こうに見える山の麓まで走って行くことにゃん。」
ニコッと笑った彼女の指す山は俺からするとはるか彼方。
う、そ、だろ?どれだけあるんだよ!
横を見るとマークルも目が死んでいた。
「騎乗出来るオトモに乗ったり、魔法の使用は禁止としますにゃん。目印として途中にあるゲートをくぐりながらゴールを目指して下さいにゃん。ゴールにはわかりやすい目印があるのでそこまで頑張ってください。それでは、よーいどんにゃん!」
唐突に、そしてなんとも可愛い掛け声とともに、地獄のテストが始まった。
彼女の掛け声を聞いてあわてて俺達は走り出す。
「うおりゃぁぁぁ!階級は俺が頂くぜぇー!」
「負けてられるか!俺もだ!」
周りにいる体格の良い野郎達はやる気に満ちた声を出し、ものすごい勢いで走り出す。
この段階で、とてもじゃないけど追いつける気がしない。
その時、隣を走っていたルイスがログに言った。
「なぁ、ログ。このテスト勝負しないか?」
「はぁ?嫌だよ。僕はチエルと走るから。」
するとルイスが分かりやすくため息をついた。
「はぁ、じゃあしょうがないな。1番は俺が貰うとするか。チエルもきっとヘナチョコに守ってもらうよりも、俺みたいなたくましい男に守られた方が嬉しいに決まってるしな。1番もチエルの隣も俺が貰っとくか。」
とわざとらしく言って、スピードを上げた。
すると、ログが
「ちょっと待ちなよ。なんだか聞き捨てならないね……。誰の隣を貰うって?」
その声にルイスがニヤリとした。
「本気を出す気ないお前には関係ないね。じゃお先に〜。」
そう言ってルイスは信じられないスピードであっという間に森の中に消えて言った。
「ムカつく。どっちが上かはっきり教えてあげるよ。」
ログが俺の隣でそうボソッと呟いた瞬間一瞬の砂煙と共にログの姿が消えた。
すでにヘタリ始めた俺には突っ込む余裕も、砂煙を避ける余裕もない。
マークルと二人で咳き込みながら、
「俺達は、俺達のペースで行くか……。」と、遠い目で頷きあった。
マークルは内心、ルイスさんはログさんの使い方が上手いなぁ……と少し感心していた。
「ゼェ…ゼェ…ゼェ。つ、着いた。」
どれぐらいの時間走り続けたかは分からないが、なんとかオレはゴールにたどり着く事が出来た。
確かに指揮官の言った通り、ゴールには分かりやすく〈お疲れにゃん!ゴール!〉と言う文字が大きく宙に浮かんでいた。
少し先にゴールしたであろうマークルも地面に仰向けに倒れてゼェゼェしていた。
「皆さんお疲れ様ですにゃん!少し休憩したら次のテストに移るにゃん!次のテストは崖登りにゃん。」
そう言ってまた可愛い笑顔で、30mはあろう絶壁の崖を指差した。
……し、死ぬ。
「次は身体を強化する魔法やスキルの使用は構いませんにゃ。出来るだけ早く登れるように頑張って下さいにゃん。」
うおぉぉぉぉ!俺だってやってやるさ!
ものの5秒ほどでてっぺんに到着しているログやルイスはもぅ、見ない事にした。
俺はヘロヘロの身体で崖にしがみつく。
勿論、身体強化もスキルもない俺は自分の力だけでなんとか崖に食らいつく。
マークルも途中で吐きながら登っていた。
「チエルー!無理しないで、落ちそうになったら助けに行くから〜!」
なんて崖の上からログが声をかけてくる。
くぅ〜、ほんと羨ましい。
そしてその余裕さが腹立つなぁ、なんて思ってた俺は途中で力尽きて崖から転落。
見事、地面に落ちる前に俺を上から見ていたログがキャッチし助かった。
そして、あまり休むまもなく次のテストに。
崖の上は広い湖になっていた。
よく見ると、湖のほとりに丸太がズラリと並んでいた。
「次はここでテストですにゃん。次はこの丸太を攻撃してもらいますにゃん。魔法やスキルを使って攻撃しても、お供を使って攻撃しても良いですにゃん。これは1人ずつ見ていくので、並んでくださいにゃん。」
「よーし!俺の鍛えた筋肉をとくと見るがいい!丸太わりなら得意だぜぇ、うおリャァ!」
筋肉ムキムキの男が自信満々に丸太に蹴りかかった。
バキッ!
「〜っ、イッテェェ!!」
しかし丸太ではなく、男が地面に倒れた。
「丸太の数を削減するために丸太に魔力を流し込んで高度を上げていますにゃん。」
言い忘れてたにゃんなんて、言ってる指揮官はやっぱりかわいいけど、こんなの武器も使わずにどうやって折るんだよ……。
その後も順番の来た人達が魔法で攻撃してみても、ムキムキの人が攻撃しても、拳法使いが攻撃しても、オトモのモンスターが攻撃しても丸太が倒れる事は無かった。
「では、次の方どうぞにゃん。」
「先に俺が行くぞ。」
そう言って、ルイスが前に出た。
丸太の数メートル前で止まり、自分の肩の上のファングを撫でた。
「ファング、頼んだぞ。」
そう言った瞬間、ファングが肩から飛び立ち丸太に向かって突っ込んだ。
そしてそのまま、鋭く尖った牙で丸太を噛み砕いた。
バキッ、バキバキッ!!
「うおぉぉぉぉ!すげぇ!」
周りにいた訓練兵達が倒れた丸太を見て称賛の声をあげた。
す、すごい!
ダチュラも目を輝かせてファングとルイスを見ている。
「カッコいいデシーー!!」
「やっぱさすがルイスだなぁ。本当にかっこいい!」
俺のその言葉を聞いてログがピクリと反応した。
「……次は僕が行くよ。」
ログは倒れた隣にある丸太の横にスタスタと歩いていく。
そしてそそのまま、力任せに丸太に蹴りかかったーー様に俺は見えた。
バキッーーヒュッ、ドヴウゥゥン!!
丸太に蹴りかかった様に見えた次の瞬間、折れて蹴り飛ばされた丸太がその先にあった森の木に激突し何十本もの木をなぎ倒しながら飛んで行った。
「!?!」
もはやルイスを除いた皆んな、声にならない。
ログはニコニコで俺のそばに戻ってくる。
「どう?僕の方がかっこよかったでしょ?」
少し体調悪いので、次の投稿が遅れるかもしれません。
すみません汗




