仲間
気がつくと俺は白い部屋に1人で椅子に腰掛けていた。
どこだここ?あれ、俺なんでこんな所にいるんだっけ?
なんとなく椅子から立ち上がって白い部屋の壁に触れた。
ズズッーッ。ん?何の音だ?
ガコンッ!
へ?と言った瞬間壁が俺に向かって迫って来た。
つ、押し潰される!てか、熱っ。
見てみると床が燃えている。
な、な、な、どうなってんだこれ?!?
てか、熱っ、潰れる、熱っ、潰れる!
うわあぁぁぁぁ〜〜!!
「うわぁっ熱い潰れる!」
叫んだ勢いでガバッと勢いよく起き上がる。
昨日寝る前にいた部屋に、寝る前に見た天井。
ゆ、夢か……。
最近変な夢ばっか見るな。
ふと横を見ると、俺のベットにもう1人と1匹。
コイツら……。
とりあえず2人とも殴り起こして、俺達は育成所の食堂に来ていた。
値段の違いで合計3箇所の食堂があるらしく、もちろんお金のない俺は、1番安い食堂に来ていた。
安いと聞いた割に食事の種類も多く、さすが軍直轄の食堂だ。
少し時間が早かったからか、300人ぐらい入りそうな食堂にはちらほらとしか人が居なかった。
「たくっ、何で俺のベットで寝てんだよ?!死ぬかと思ったんだぞ。てか狭いし、暑苦しいんだよ。」
俺は今朝の事についてコイツらに怒っていた。
「大丈夫だよ。チエルが死にそうになっても僕が守ってあげるから。」
ログはまた真剣な顔で言ってきた。
「いや、そう言う事じゃ無いんだよログさん。君のせいで死にかけてるんだよ?そこちゃんと理解してくれるかな?」
「チエルの言う通りデシ!ログが入って来ると狭くなって寝れないデシ!」
「お・ま・え・もだよ、ダチュラ!」
「そう言ったって仕方ないデシ!俺様ベットないデシ。」
「虫は……床で寝ろ!!」
ダチュラがショックで泡を吹いて泣いた。
そんなダチュラをログがよしよしと撫でて慰めている。
「ダチュラ、じゃあ僕のベットで君が寝るのはどうだい?君も広々使えるし、僕とチエルも、君がいない分広々使えるからすごく良いと思わないかい?」
「なるほど〜!やっぱりログは天才デシ!」
「納得するなよ!100歩譲ってダチュラが俺のベットで寝るのは仕方ないとして……、お前は自分のベットで寝ろよ。」
100歩譲ったら俺はイモ虫と寝ることを許してしまえるのか……なんて冷静に、俺は自分の言った事にショックを受けた。
そんな俺を横目に、ログは誰でも悩殺スマイルで言い放つ。
「そんなカリカリしなくても、別に友達なんだからいいでしょ。」
だ、ダメだコイツら……。話が通じない。
ログの友達の認識もよく分からないし、コイツもしかして友達いないのか?と、友達のいない俺が心配になったのだった。
朝食を済ませた俺達は、1度部屋に戻って戦闘服に着替えてから、集合場所のホールに向かっていた。
「今日はテストって言ってたけど、一体どんな事するんだろう……。筆記とかだったら俺マジでヤバイな。」
「今回は魔物と戦うための収集だから、主に戦闘のタイプや能力について、個人の能力を把握する程度の事しかしないと思うよ。」
「うわぁ〜。どうしよう。俺戦闘とかほんと無理なんだよ。まともに持った事あるの桑ぐらいなんだよな。」
1番弱いとか、何も出来ないとか、そんな事ないよな……。
「チエルは何も出来なくても大丈夫だよ。僕がいるからね。」
そろそろさらっと流せる様になってきたログの言葉を聞き流して俺は考えた。
俺が例え弱いと言っても、今回の収集で1万人は来てるらしいし、その中だったらきっと俺より出来ない奴も1000人ぐらいはいるだろう。
よし、なんとかなる!筈だ。
ホールに着くとすでに結構な人数が集まっていた。
「おおっ。やっぱり1万人ともなると多いなぁ。迷子になるなよ。」
「チエルじゃないからそれはないデシ。」
……背中に引っ付いてるだけのくせに、ちくしょう。
するとログが後ろから言ってきた。
「チエルは知らないの?ここにいるのは3000人ちょっとだよ。」
「え?そうなの?」
「神都には育成所が3箇所あるんだよ。」
た、確かに1万人もこんな建物に入るわけないか。
てか、三箇所もあったなんて初耳だ。
「オラよ兄ちゃん!どこ見て歩いてるんだよ。」
なんか聞いたことのある声……。
少し先で、いつものチンピラ5人組が眼鏡でひょろっこいグリーンのモサモサ頭の青年を囲んでいた。
アイツらも変わらねぇなぁ……。
「ひっす、すいません。すいません。」
「すみませんじゃすまねぇんだよ!お前は大貴族のアレックス・レモンポール様にお怪我をさせる所だったんだぞ!」
「すいませんっ。で、でも少し肩が当たっただけですし……。」
見ると5人の背後にレモン色の長髪をひとまとめにした目つきの悪い男が立っていた。
その男はモサモサ眼鏡の前に出て言った。
「余は大貴族であるぞ。一般民如きが触れて良い存在ではない。罰としてお前の家族の税を30%引き上げとする。」
むちゃくちゃだなアイツ!
「それだけはご勘弁下さい!!」
モサモサ眼鏡が泣いてうったえた。
皆んな面倒事には関わらまいと、見て見ぬふりをしている様だ。
「アレックス様がそう仰られたんだ!それだけで済んでありがたいと思いやがれ!」
そしてリーダーがモサモサ眼鏡を殴ろうと拳を振り上げるのが見えた。
「げほっ……。」俺は見事に腹にリーダーのパンチをくらい倒れこむ。
「チエルっ!!!」
「大丈夫デシ?!」
ログが慌てて寄ってくる。
「お、お、お前……。」
リーダーは急に出てきた俺を見て驚いた様だ。そして駆けつけたログを見て震えだす。
「君……どうして……。」
俺の後ろのモサモサ眼鏡も驚きで身動いだ。
アレックスと言う男が殴られた俺を見て不快そうに顔を歪ませる。
「おやおや、ヒーロー気取りのお友達の登場ですか。雑魚どうしで仲良しこよし。暑苦しくて、見苦しいですね。これ以上私を不快にさせないで下さいよ!」
そして膝をつき、しゃがみこんだ俺の顔めがけて蹴りを入れてきた。
バシッッーー。
「……いい加減にしろ。」
蹴りを片手で受け止めたログがアレックスを睨みつける。
「おやおや、これはこれは落ちこぼれ貴族に拾ってもらって、厚かましくも貴族を名乗っているログ君じゃないか。」
「僕の事はなんと言おうと構わない、でもチエルに手を出したらーーお前を殺すぞ。」
「最近少しばかり魔物との戦いで功績をあげているからと言って、拾われ物の分際で調子に乗るなよ。これだから貴族の嗜みを知らないゴミは嫌いなんですよ。まぁ、ゴミはゴミとつるんでいるのがお似合いだがな。」
そう言われて、蹴りを受け止めていたログの指にギリギリと力が入る。
「くっ…… 、」と、アレックスの顔が歪んだ。
「ログっ!もういいから……っ。」
俺は殴られた腹を抑えながら、ログを止めに入る。
「両方そこまでだ!」
そんな張り詰めた空気を裂く様に、凛々しい声が響いた。
俺達の周りに集まっていた人混みの中から、右腕の竜を模したタトゥーと燃える様な赤い髪、その髪と同じ赤い鱗で覆われた小さなドラゴンを肩に乗せた青年がログと、アレックスの間に入ってきた。
「やめるんだログ、1度落ち着こう。手を離せ。」
そうしてログの肩に手をおく。
そこでハッとしたのか、ログがゆっくりとアレックスの脚を掴んでいた手を緩めた。
脚が自由になり、よろけながらログから距離を取るアレックスの身体をリーダーが支える。
「大丈夫ですか、アレックス様!」
「……っルイス。大国貴族の貴方がどうしてここに。」
「少し訳があってね、今はエレナの所に居させてもらってるんだ。だから今は小国側の立場としてここに参加している。……それより、今はこんな争いをしている場合ではないだろ。この場で貴族の権威を振るう事は禁止されているはずだ。君の父上に今回の事を報告されたくなければ、これからは少し態度を改める事だ、アレックス。」
そう言われたアレックスはリーダーの支えを振り払い、鋭い眼光で俺達をにらみつける。
「私とて大層に事を構える気はない。この様な者達を相手にしていても私の品位が落ちるだけだからな。お前達、いくぞ。」
そして、クルッと背を向けてアレックスとチンピラ達は人混みの中に消えていった。
「大丈夫か?」
ルイスと言われた青年が俺達の方に向き直った。
「な、なんとか……。」
俺はログに支えてもらってふらふらと立ち上がる。
「俺はドラゴン使いのルイス、そしてコイツは相棒のファングだ。よろしくな。それにしてもログ〜、お前にしては随分と短気な行動だったな!珍しい、どうしたんだ?」
「うるさいな、ほっといて。」
「なんだ、なんだ〜?」
ルイスがログをおちょくる様に言うと、ログは顔を反対に背けた。
ログは一見クールに見えるけど(もちろん見えるだけだが)、ルイスは正反対で少し接しただけで太陽の様に明るい人だと思わせる雰囲気があった。
「あ、あの〜。」
今まで後ろで黙っていたモサモサ眼鏡が出てきた。
「本当に、ありがとうございました。まさか僕なんかを助けてくれるなんて思ってもいませんでした。」
俺達に深々と頭を下げる。
そして俺の前にきて、俺の手をギュッと握った。
「殴られた所大丈夫?そして本当にありがとう。僕はマークル。もし良ければ君の名前を教えて欲しいんだ。」
マークルの眼鏡の奥の瞳がキラキラしている。
「まぁ、殴られたり、蹴られたりはある程度慣れてるから。俺はチエル、よろしくな。」
そしてお互いに握手する。
これが友情の芽生えた瞬間ーー?なんて俺は感動に浸った。
するとルイスが、
「間に合わなかった俺も俺だが……。どうしていきなり前に飛び出して行ったんだ?止められるならまだしも。」
「い、いやぁ。身体が勝手に動いてて。でも、マークルは少しぶつかっただけみたいだったし、税金がどうとか、こんな時に言ってる場合じゃない話だっただろ?それにここに集まってるのは皆んな仲間のはずなのにって……それで俺も頭に血が上って、気づけばって感じかな……。」
「仲間……か。確かにチエルの言う通りだな!」
すると、ログが俺とマークルの握手していた手を振りほどいてから俺の肩を抱き寄せて言った。
「……チエルはお前と違って優しいんだ。」
「ログ、ちょっと暑苦しいんだけど。」
俺はログを押して引き離す。
その様子を見てルイスがふーんと笑っていた事を俺は知らない。




