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クロスワールド  作者: えりぞう
第一章 旅の始まり編
16/50

入隊


 はぁ、はぁ、はぁ。

 ここまでくれば流石に追ってきてるなんて事は……いやいや、アイツなら簡単にできそうだな。

 俺は恐る恐る自分の走ってきた方向をそーっと振り返る。


 良かった、大丈夫そうだ。あの軍服はいないみたいだし、無事に撒けたみたい。

 ふぅ、でも焦った……。

 おそるべし神都!おそるべしイケメン!

 きっと顔が良いから、あんな風にして今まで簡単に女でも男でも落としてたんだろう。

 恐ろしい奴だ。

 まぁ、俺はそうはいかないけどな!


「うぅ〜ん。頭がクラクラするデシ。」

 リュックの中に詰められていたダチュラが目を覚ました。

「お、お前大丈夫か?」

 ダチュラはモソモソとリュックから這い出てくる。

「大した事はないデシ。それよりもお腹が減ったデシ。」

「お、おぅ。お前凄いな。だいぶ吹っ飛ばされてぞ。」

「あのくらいでやられる俺様ではないデシ!と言うかチエル、アイツらはどうしたんデシ?」

 あのくらいでって、お前はすぐにやられて伸びてただろ……。

「ま、まぁなんとか逃げ切れたんだよ。そんな事よりも飯食いに行こうぜ。運良く市場についたみたいだし。」

 あんまりアイツの話はしたくないし、とりあえずダチュラには黙っとくか……。

 ダチュラも飯が食える事に必死で屋台の方に釘付けだし、ちょうど助かった。

「よし、じゃあダチュラ、気を取り直して色々みてまわるか!」

「おーぅ!俺様リゴン飴が良いデシ!」

「ははっ、お前は本当にリゴン飴が好きだな。」

 そうして俺達は美味しそうな匂いに惹かれるまま市場に駆け出した。




 チエルが走り去った後の路地裏で、男(軍服)は未だ1人で残っていた。

 殴られたほっぺをさすりながら、チエルが走っていった方を眺める。


 すると、後ろから声をかけられた。

「あ、あの、これ落としてますよ。」

 平手打ちされた時に落ちたのだろう帽子を青年が拾って差し出してきた。

 目が大きく、中性的な雰囲気の可愛らしい子だ。

「ありがとう。」

 男は礼をいって帽子を受けとる。

「あ、あの、すみません。さっき少し見てたんですけど……。」

「どうしたんだい?」

 青年は言葉を詰まらせながら、

「あ、あの、ぼ、僕でよければどうですか?」

 と、顔を赤く熱らせながら言った。

 軍服はそんな青年を見て、その肩をポンと叩いて微笑んだ。

「ごめんね。……僕は男には興味ないんだ。他を当たってくれ。」

 え、でもっ……と言いかけた青年を無視して男は歩き出す。

 男はポケットから1つのバッチを取り出して笑みを浮かべた。

「チエル、か。僕から逃げられると思わない事だね。」

 そして、人で溢れる大通りに姿を消していった。




「やっぱり、リゴン飴は最高デシ〜〜!」

 ぺろぺろと赤い飴を舐めながらダチュラが俺の肩で叫ぶ。

「おまっ、ちょっと、唾飛んで来てるんだけど。マジでやめろよ。」

「はははっ。お兄さん達仲がいいねぇ。」

 リゴン飴を売ってる屋台のおばさんが、俺の分の飴を作りながら言ってきた。

「俺様とチエルは切っても切れぬ仲なのだ。」

「なんだそりゃ。勝手に言ってろ。」

「素敵なパートナーじゃないか。」

 そう言って出来上がった俺の分のリゴン飴を渡してきた。

 うん。甘くて美味い!

 代金を払おうとした時に、後ろの人混みをかき分けながら近づいてくる声が聞こえた。


「どいた、どいたー!」

「怪我人だ!道をあけてくれ〜!」

 ミュミュの引く車に布が被せられた人と警備兵が乗っていた。

 その周りにロバ馬に乗った守護兵が守るように車を誘導している。

 車に乗っている警備兵は大粒の涙を流しながら叫んでいた。

「すみません、すみませんっ、。コロニ先輩っ、もうちょっとで診療所に着きますから、ごめんなさいっ。」

 そしてあっという間に道の向こうに消えていった。

 俺が車が走って行った方をボーっと見ていると、おばさんが言ってきた。

「ありゃ、オアシスの警備兵だね。」

「オアシス?」

「地上からここまで上がってくる道に設けられた安全地帯みたいなものさ。そこを警備する兵があぁやって魔物や、精霊、獣なんかにやられる事があるのさ。」

 フォンさんが上がって来たって言ってたあの道か!やっぱりとんでもない道だったんだ。

「お兄さん達も収集で来たんだろ?無理しないでおくれよ。」

 そう言っておばさんはリゴン飴とは別に色々な色の飴が入った巾着を渡してくれた。

「これは?」

「サービスさ。これから始まる厳しい訓練や、任務の間にでも食べない。」

 確かにあんな光景も、もぅ他人ごとじゃないんだ。

 今まで少し忘れかけていた気持ちがまた込み上げてくる。

 俺だって、生きて帰らないと……。

「そうですよね。俺、頑張ります。ありがとうございます。」

 決心と共に飴を受け取り、リュックに詰める。

 そして俺にとって1番重要な事をおばさんに聞いた。

「あの〜、新兵育成所ってどっちでしたっけ?」




「な、ない!ない!どこにもない!」

「何してるんデシ?宿にでも忘れたデシ?チエルはおっちょこちょいデシなぁ。」

 俺達は新兵育成所の門前でリュックのをひっくり返していた。


「おい、坊主バッチはあったか?」

「…………。朝にはあったんです。ホントなんです!信じて下さい〜。」

 俺は泣きながら門番のおっさんにすがりついた。

「信じるも何も、一応あれは1度回収しなくちゃならねぇんだよ。本人登録し直さねぇと、悪用されちまう可能性があるからな。」

「そ、そんなぁ〜。なんとかなりませんかぁ〜。」

「まぁ、最悪再発行できるが……ちぃと金がかかるぜ。」

「い、いくらですか!?」

 そう言うと、門番のおっさんは指を1本立てた。

「1000リーフ?」

 よし、それならなんとか払える。

 するとおっさんは首を横に振った。

 ……え?

「その100倍だ。」

 う、嘘だろ……。

「給料から天引きだな!がっはっは!」

 そんなぁ〜。俺が何したって言うんだよ。

 ダチュラ、お前今笑ってるけど結果お前の飯が減るって事だからな……覚えとけよ。


 俺が地面でヘタレこんでいると、建物の中から1人の男の人が出てきて門番に耳打ちした。

 そして、その男の人が再び中に戻って行くのと同時に、門番が俺に笑いながら声をかけた。

「良かったな!坊主!」

「な、何がですか……。」

「まさかのな、お前と同じ新人入隊兵の奴が街でバッチを拾ったらしいんだよ。お前オレージー村出身だったよな。だとしたらそのバッチで間違いないはずだ。」

 それを聞いて俺は立ち上がる。

「ほ、ほんとですか!!」

 おっさんは親指をグッと立ててウインクした。ちょっと、キモい。

「じゃあ、ここの入隊用紙に出身村と名前を書いてくれ。」

 出された紙に村と名前を書き込む。

「それじゃ、説明するからな。今この瞬間からお前は神都新人兵となった。今回の収集で集められた兵には、こちらで住む場所を提供している。人数がなんせ多くて、この建物では収まらんのでな、この建物からバッチで転移できるようになってる。最初は俺が連れて行ってやるよ。食事は食堂で取れるが、任務以外だと自由に外でとってもOKだ。備え付けの物以外で必要な物は所持金か、給料で買え。それと、ちょっとこちらで問題があってな……。明日、入隊式をする予定だったんだが、明後日に延期になった。そのかわり、明日は個人の能力を把握するためのテストを行う事になったから、支給される服に着替えて、朝食後に育成所のホールに集合だ。」

 そこまで一気に言い切ってから、おっさんは立ち上がって門を開けた。

「そいじゃ、お前の部屋に行くか。」


 建物の中に入ると、いきなり広い空間に出た。

「思ってたよりも、広いんですね。」

「おぅ、ここが言ってたホールだ。遅刻すんじゃねぇぞ。」

 おっさんは脇の廊下を進んでいき、1つの扉の前に来た。

「ここが、お前の部屋がある建物につながる扉だ。」

 そして扉を開けると、中は人が10人ほど入れるスペースと、床に転移した時にもあったような、文字が書かれていた。

 前と同じように文字を踏まないように跨ぐ。

 それを見て、おっさんが笑いながら言った。

「ここの文字は踏んでも大丈夫だが、故意に壊すなよ。」

 そう言ってバッチを取り出し壁にある模様の前にかざす。

 するとバッチが淡く光って、すぐに消えた。

「ほらよ。」

 そう言って扉を開けるとさっきとは違う廊下に出た。

「やっぱいつ見てもすごいよなぁ。」

 廊下の前にある窓から外を覗き込んでみる。

「え?ここって……。」

「キラキラデシ〜!」

「そうさ、ここはマザーホワイトに開けられた穴の側面に建てられた建物さ。」

 窓の斜め下にさっきまでいた神都が見える。灯りがキラキラしていてとても綺麗だ。特に城の周りは灯りが多く、周りを流れる湖に反射して映った城はなんとも言えない美しさだ。


 行くぞ、と言ってまたおっさんは歩き出す。

 いくつかの扉の前を通り過ぎてから、おっさんはある扉の前で立ち止まった。

「ここが、これからのお前達の部屋だ。1つ言い忘れてたが、部屋は2人部屋でな。そいつと仲良くするこった。バッチもちょうどそいつが持ってるらしいから、後で貰っとけよ。」

 そう言って部屋をノックした後におっさんが扉を開けた。

 相部屋……きっとそいつとはこれから苦しい時も辛い時も一緒に乗り越えて行く友達になるんだろう。

 ルーチル以外の初めての友達……。

 少しの不安と期待を胸にれはおっさんに続いて中に入る。

「こんばんは。オレージー村から来ました、チエルです。これからよ、よろしくっ!」


「こちらこそ、よろしく。チエル。」

 どこかで聞いたことのあるような声……。

 ゆっくりと下げた頭をあげる。

「え……。嘘だろ。」

 そこには、小さな丸テーブルでコーヒーを飲みながら微笑んでいる昼間のヤツがいた。

個人的に軍服が出てきたことにより、ソワソワしながら楽しく書かせていただいてます。(((o(*゜▽゜*)o)))

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