転移
いつ使う事になるかも分からないアイテムを購入してしまった俺だが、気を取り直して転移魔法陣のある城を目指し大通りを進んでいた。
屋台がズラリと並んでいた大通りも、流石に城の入り口門付近までは並んではいない様だ。
城を囲う塀には蔓が巻きつき赤や白の綺麗な花が咲いていて、石造りの城とその隙間から見える庭をより一層引き立てていた。
俺たちはマスターに教えてもらった通り門を通ってから右側にある建物に向かった。
城と同じ敷地にはあるが円柱形の別の建物の前に何人か並んでいるのが見える。
「お、あそこかな?」
「俺様ドキドキしてきたデシ。」
ダチュラは俺のリュックに引っ付いたまま、体をクネクネさせた。
近づいて行くと、1人の兵士がこっちに向かって歩いてきた。
「君も神都に向かうのかい?」
「あ、はい。」
「ここの魔法陣は私用目的では使用できない事になってるんだ。あくまで収集に応じてくれた人々の通行手段なんだが、大丈夫かな?」
「大丈夫です。」
「了解した。それじゃあ、バッチを持って列の後ろに並んでくれ。一度に2人移動できるから、君ともう1人揃ったら向こうに移動させるからな。」
と、親指でグイグイっと建物を指して言った。
するといきなり、
「俺様がいるデシ!忘れてもらったら困るデシ!」
忘れられたと思ったのか、いきなりダチュラが肩まで上がってきた。
ダチュラは怒ってるけど、まぁ確かに、背中のリュックに引っ付いてたら見えないよな……。
「おおっ!オトモがいたのか。悪かった、悪かった。じゃあ君達2人で向こうに行ってもらうよ。」
「そうデシ!俺様が少し離れただけで心細いチエルは泣きながら俺様を探しに来るデシ!一緒に居てやらないとダメなんデシ。」
「はっはっは。それは心強いオトモだな!」
「お、おまえなぁ……。」
ほんとコイツすぐに調子にのるよな。
よし、今日のコイツの晩飯抜きにしよう。
なんて言ってる間に後ろからも数人こちらに来てるのを見た兵士は、
「じゃあな、頑張ってくれ!」
と言って、また説明をしに歩いて行った。
俺たちは言われた通り、列の最後尾に並ぶ。
少しずつだけど列が途切れない程度に続々と人がこちらに歩いて来ている。
思ったよりも早くに自分達の順番が回ってきた。
「はい、じゃあバッチを貸してくれるかい?」
建物の入り口にいる白いローブを羽織った男性にバッチを渡すと、バッチが一瞬ホワッと光ったように見えた。
「はい、ありがとう。通っていいよ。」
「あ、はい。」
俺が不思議そうな顔で見てたせいか、ローブの男性はにっこりしながら答えてくれた。
「これはね、このバッチが偽物でないか、魔法で解析してたんだよ。神都へ行くのに楽しようと偽物を持ってくるやつが出てきてね。それの確認だよ。」
「な、なるほど。」
「すごいデシ。」
「それじゃあ、この先にある扉の中に魔法陣と送ってくれる人がいるから指示に従ってね。」
扉を開くと中は窓1つない狭い空間で、その床の真ん中によく分からない文字で丸く何かが書かれていた。
「それでは、その文字を踏まないように円の中に入ってください。」
部屋の隅にいた女性が俺たちを円の中に誘導した。
踏むなと言われるとうっかり踏んでしまいそうで、恐る恐る入る。
「それでは神都に転移させます。着いたら、向こうにいる者の指示に従ってください。」
そう言って女性が手を前に差し出した瞬間、床の文字が光り出した。
「おおぉ!」
ーーお?
瞬き一瞬の間に光は消えてさっきと同じ場所に立ったままだ。
「あ、あれ?」
「お疲れ様です。」
さっきと同じ場所に立っている女性が声を掛けてきた。
「え?なんもなってないんだけど。」
「皆様そう言われます。もう、ここは神都ですよ。」
……ええええぇぇぇ!!
はやっ、なんかあっけない。
「扉を出ましたら、その先の部屋で説明事項を書いた紙を貼っていますので読んでからでてくださいね。」
そう言って女性が扉を開けると、廊下の先に1つの扉が見えた。
すごい。確かにさっきとは違う建物の中みたいだ。
言われた通り、向こうの扉に向かって廊下を歩いて行くと、扉の向こうから人の声が聞こえてきた。
すごくドキドキ、ワクワクする。
これから大変な任に就くことになるかもしれない、恐ろしい魔物と戦わないといけないかもしれない。
それでも貰ったプレゼントを開ける時のように俺の心はこれから見る神都に心を弾ませていた。
扉を開けると、椅子と机が並べられた広間に出た。
おおっ、以外に広い。
それに、すごい人だな。
また見たこともない生物を連れてる人や、人間以外もいる。
多分あの耳の尖っているのが噂で聞いたエルフか?
それに、あの背の低くて髭が長いのがドワーフ?
ダチュラも背中で目を輝かせながらキョロキョロとしている。
よく見ると、壁に俺達が出てきたような扉が他にもあって、次々にそこから人が出てきていた。きっと、それぞれの町からおんなじ様に送られてきたんだろう。
大半は一緒に来たであろう人達が一緒になって行動しているみたいだ。
俺みたいに1人でいる人の方が少ないから、ダチュラがいてくれるだけでもぶっちゃけ心強かった。
でも、出来るなら俺もこの先誰かと友達になって、辛い時支え合って乗り越えていける様になりたい。
まぁ、自分から声をかけるなんてやっぱりできないけど。
「ここにいても仕方ないし、さっさと説明事項読んで外にでるか。」
「賛成デシ!」
見ると部屋の出口付近の壁に大きな紙が貼ってあってそこに人が集まっていた。
なんとか人混みを掻き分けて前の方に出ることができた。
内容的には、2日後に入隊式があるからその前日の夜までには新兵育成所で入隊手続きを行わなければいけないと言った事が書いてあった。それまでは自由にしても良いみたいだし、先に育成所に行っても良いみたいだ。でも1度入隊手続きしたらそこから自由に出ることができないみたいだから、それならあと1日は自由に見て回りたい。
とりあえず宿探しだな、と広間から出ようとしたら奥の方で何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「オラオラオラッ。どきやがれ!」
あ、あれは……昨晩俺に絡んで悲しい末路を辿ったチンピラ3人組!!
アイツらも神都に来てたのかよ。
何やら、周りにいる人達に舎弟になれやら何やら言っている。
アイツらもいろいろ懲りないタイプなんだな、なんて思いながら見つかったら面倒くさそうだから俺達はさっさと広間を出ることにした。
チエルが神都に到着したのと同時刻ーー。
カイラスと同じ小国の1つ、シャスタ王国。
その国最大の街、メンドシーノの外れにひっそりと立つ一軒家。
ここは、極々限られた人しか訪れる事がない。
皆、ここの主人をこの世界の異端者として煙たがっているのだ。
彼自身も元々人に媚びたり、群れたり、気を使ったりする事が苦手だった上、家にもあまり居なかったから、そんな事気にもしていなかったのだが……。
そんな普段人気のない家に今日は明かりが灯っていた。
「それじゃあパパ。行ってくるネ。」
可愛らしい顔立ちと、両サイドで綺麗にシニョンにした黒髪、その髪にかけた服と同じ赤い紐飾りが印象的な女の子が男性に声をかけた。
この辺りでは見たこともないような詰襟に、サイドに深いスリットが入った赤地のワンピースを着ており、彼女の綺麗なボディラインを強調している。
それでいて、下に履いた白のスパッツのお陰で彼女の動きを妨げることも無く、見た目よりも機能的に作られていた。
「ああ、気をつけてな。」
パパと呼ばれた男がタバコをふかしながら答えた。
そして靴を履く彼女の背後からキラリと光るバッチを投げた。
「それ渡すの忘れてたわ。」
背後を見てもいないのに彼女はそれをキャッチし袋にしまう。
「面倒事はなるべく避けるようにしろよ。」
彼女は黙って頷くと、そのまま家をあとにした。
あっちからこっちに来ただけの内容ですみません〈汗
GWの加減で更新少し遅れておりますm(_ _)m




