ハイダウェイ
店の中に入ると、さっきのエプロンのおっさんがカウンターの空いている席の机をトントンと叩いて俺を見ていた。
ーーここに座れって事だよな。
カウンター下にある籠に荷物とダチュラを置いて腰かける。
あたりを見回してみると、中はそんなに広くないが奥にあるテーブル席の方は満席のようだ。俺ぐらいの若い男が数人で楽しそうに飲んでいた。
「ほらよ兄ちゃん。さっきは災難だった様だな!ガハハハハ!」
エプロンのおっさんは俺の前にコーヒーを、隣に座っているさっきの酔っ払いには酒を出した。
「あ、ありがとうございます。」
「まぁ、これも社会勉強だわな!俺はここの酒場“ハイダウェイ“のマスター、ハンスだ、よろしくな。所で兄ちゃんはあんまり見ない顔だな?」
「あ、チエルです。まぁ、この街には初めて来ました。この街にはって言っても、村から出たのも初めてだったんですけどね。宿を探してる途中で絡まれちゃって。」
「そうか、そうか!引きこもりが出てきたところを狙われたんだな!ガハハハハ!よくある事だから気にするなよ!」
励ましてくれてそうだけど、あんまり嬉しくない励まし方だ。
てか、よくある事なのかよ。これからは気をつけよう。気をつけても弱いからきっとどうもできないだろうけど。
「もしかして、兄ちゃんもこれから神都に行くのかい?」
自分のタバコに火をつけながら、マスターは聞いてきた。
「はい。村がちょうど魔物に襲われてしまって。村からは俺だけなんですけどね。」
「そうかい。若いのに、苦労かけるな。奥で飲んでる連中も神都に収集のかかった奴らなんだよ。もしかしたら死んじまうかもしれないだろ?だから思いで作りにこうやって集まって飲んでんのさ。」
そうだったのか、どうりで店の雰囲気にしては若い奴が多いと思ったんだ。
でも、自分一人じゃないと思うと少し心強くなる気がする。
「それにしてもぉ、本当お前弱いな。お前みたいな奴はぁ、すぐ死んじまうぜぇ?それに珍しいオトモ連れてるんなら、そのままじゃ取られちまうぞォ。」
いきなり、さっきまで横で飲んでたおっさんが口を挟んできた。
すんごく酒臭い、本当にどんだけ飲んでんだよ。
てゆうか、やっぱダチュラって珍しかったんだ。
俺は足元で寝ているダチュラを見た。
まさかあんなふうに向かっていくとは思わなかった。
コイツ、少しは良い所あるな……なんて考えていると、
「お前そんな言い方してやるな。村に引きこもってたんだんだからしょうがないだろ。それでも、国のため出てきたんだから十分だろうよ。」
それを聞いてマスターが俺のフォローに入ってきた。
ありがとう、マスター。
「意味ねぇ、つったんだよ。こんなの風が吹いただけで死ぬぜぇ?」
そう言ったかと思うといきなり、クククと笑い始めた。
そして、
「だって、コイツレベル5だぜ!!お前ん家のちっこいガキでもレベル10あるっつうのに!あ〜腹いてぇ、お前天然記念物かよ!ギャハハハハ!!」
ガーン。
やっぱ俺ってすごく弱かったのか。
改めて他人から言われると悲しくなる。
俺がカウンターでうなだれていると、マスターもやれやれと言った様子で、
「ここでは日常的に魔法なんかが使われる。その分地方の村よりレベルが必然的に上がりやすいのさ。それにレベルだけなんかで強さの全てが測れる訳じゃねえだろ。」
なぁ、とマスターが酔っ払いを、見た。
「確かに、レベルはあくまで目安の一つに過ぎねえ。何に特化しているのかで、強さも全然違うからな。でもな、レベル5ってお前……小鳥か、産まれたてホヤホヤか?ギャハハハハ!!!あ〜、喉つる!笑い過ぎて喉つる!」
「はぁ。お前、もう少し人の気持ちを考えろ。」
このおっさん、マジで腹立つな!!
言いたい放題言いやがってぇ〜〜!
流石に今すぐってわけにはいかないけど、そのうち訓練して一発殴ってやるからな!
「ちなみに、マスターでレベルいくつなんですか?」
「俺か?俺は昔、神都で専属の猟師をしていてな、魔物調査の為の捕獲チームに入ったりしてたんでな、レベル80って所だ。」
「80⁈……って強いのか?俺より凄いのは確実だけど。そう言えば俺、何にも分かってないんだよな。自分のレベルもずっと平均よりちょっと低いかもぐらいで思ってたし。」
まさか子供より下だったとは……流石にショックだ。
話を聴きながらもマスターが俺の飲み終わったコーヒーを下げ、新しいコーヒーを出してくれた。
「レベルは後々嫌でも上がってくから今の数字は気にすんなよ。まぁ、一応言うならば、一般民なら30あればだいぶ強いな。それ以上は故意に鍛えたり、訓練しないと上がらねえな!神都で説明があると思うが、神都では強さや功績、元々の地位なんかで9つの階級に振り分けされてるんだよ。人ではレベル200が頭打ちと言われている。100超えるだけでも相当強いんだがな。これからお前たちがなる下級兵で30〜50って所だな。その他の種族でも500が限界、しかしそれを超えた神と言われる存在もいるんだよ。それが白界の守護神と言われている7人のホーリーナイトだ。その中の一人は元は人だったなんて噂もある。存在自体見たやつがほとんどいないから、どうとも言えねぇんだがな。」
俺にはスケールがでか過ぎて、あまり実感が湧かなかったけど、守護神なんているんなら村が襲われた時来てくれれば良かったのに、なんて思ってしまう。
まぁ、もう過ぎてしまった事なんだから言ってもしょうがないんだけど。
はぁ……と、ため息がでる。
「あんまり、レベルだけを気にするな。要は今の自分か何をできるかしっかり分析して動けるかどうかだ。相手のレベルだけ見て調子に乗って突っ込んで行ったザマがこれだよ。」
と言って、マスターは左脚の裾をめくった。
ふくらはぎに、何かに引き裂かれたような跡が三本、ミミズ腫れになって残っていた。
「そ、それって、。」
「捕獲調査の時にな……。その場ですぐに治療できる状態じゃなくてな、傷は治ったが、もう猟師は続けられる状態じゃなくなったんだよ。だから今はただの酒場のマスターさ。ガハハハハ!」
ただのって、今でも充分強そうだ。
「過ぎたことは悔やんだってしょうがないからな。」
「自分に何ができるか……かぁ。」
ルーチルの時はともかく、これからはひっそりと保身的に動かないとリアルに死ぬもんな……。なんて、その時は他人事のように考えていた。
気が着くと酔っ払いはカウンターを枕にして、イビキをかいて寝ていた。
そんな酔っ払いを見て、マスターがブランケットをかけながら、
「まぁ、コイツもコイツで色々苦労してんだ。本当はすげえ奴なんだがな。」
と、笑った。
「所で兄ちゃん宿探してたんだろ?うちの二階も宿やってるから泊まってくといい。安くしとくよ。」
「あ、ありがとうございます!助かります。」
そんなこんなで、無事宿も見つかって結局、明け方までマスターの武勇伝やら世間話なんかを聞いて過ぎていった。




