【第九話】ミッション
その日の就寝時間を過ぎた頃、懲罰房へ行くためにわざと騒ぎを起こした。
駆けつけた看守によって取り押さえられて、懲罰房へと連行された。
そこへ遅れて小松も現れた。
ホセは小松が上番勤務するシフトを把握していた。
二人の看守は小松へ暴れた囚人を懲罰房へ入れた事を報告した。
報告を受けた小松は看守二人に囚人の躾を実施するので各自は持ち場に戻る様にと指示した。
他の看守はそれぞれの持ち場に戻っていくと小松は指の関節をならして口元に笑いを浮かべた。
看守からホセへの暴力をやめる様にと医務室での騒動の後、女医の中島から浅田所長に話があった。
今回ばかりは所長も聞き流すことは出来なかったようだ。
小松もしばらくは所長の言う事に従っていた。
「まっていたぞ貴様が騒ぎを起こすのを。」いつかはホセが脱獄をすると疑っていた。
小松の暴力は以前より増していた、罵声を帯びせながら足蹴にした。
「貴様の様な守銭奴は死ぬまでブタ箱がお似合いだ。」と看守が唾を吐きかけた時だった。
鉄のバーが外れホセが立ち上がり、頭突きを小松の鼻柱に叩き込んだ。
油断していた小松の意識を奪った。
「懲罰房へ初めて入れられたあの日、次の時のために細工をしていたのだよ。」
インプラントの付け根はドライバーとして利用できる。
あの日、真っ暗な懲罰房の中でネジの部分を細工していた。
ホセは看守の服を身にまとった。
懲罰房に小松を閉じ込め、目的の場所へと向かった。
途中の部屋には沢山の囚人が収容されていた。
そこには様々な人種がいるのがわかった。
堂々と歩く様に誰一人として囚人が看守の服を着ているとは思わなかった。
ホセの目的は同じく別の独居房に収監されている男の暗殺であった。
その男は大陸の政治活動家で党にとって邪魔な存在だった。
暗殺に成功すれば見返りとして政治的取引による釈放を約束するとの内容となっていた。
先の共産党幹部との密約時に作っておいたパイプを使ってきたのだろう!
党が工作員をこの東京プリズン内に忍び込ませる事は出来ても、独居房のエリアに侵入する事はできない。
なぜならここには要人、著名人しか入れないのだから。
当然、職員の身辺調査も例外なく実施している。
党もホセが諜報部隊のエージェントだったという情報を掴んだいた。
その事からも白羽の矢が立ったのだろう。
ホセはさらに頭の中で様々な思いを巡らせた。
奴らがwin-winなどで済ますはずがない、金銭かなにか必ず余分に要求するはずだ。
大きく深呼吸をした後、目の前のミッションと山積みの課題とをすべて成功させると決心した。
その男が眠る独居房へと侵入して暗殺を実行した。
久々の殺しであったが、特にブランクを感じさせる事は無かった。
ホセは神に祈りを捧げた。