【第八話】待ち人
週末の午後に面会予約が東京プリズン宛に届いた。
再び弁護士の訪問との事だったが名前はロベルトと記されていた。
看守たちは今度こそ人権派の弁護士がやって来たぞと口々にしていた。
日本の資産が差し押さえられている事から
どうせ人権派弁護士が利用しに来ただけだろう、と。
小松はホセに余計な事を言わぬ様、面会日まで指導に精を出していた。
数日後、ホセは再び面会室へと足を運んだ。
中にはスーツ姿の白人男性がアクリル板越しの椅子に座ってホセが現れるのを待っていた。
長身で恰幅が良くしゃくれた顎が特徴的であった。
今回は規定時間を前に両者が共に席を立ち面会終了となった。
その時の様子を看守の田村は後にこう語っている。
「私はこの男がどうせ代理人の男に本国から政治的圧力を要請する様に依頼するのか
人権侵害を伝えるのかと思っていたが、まったくそんな事はありませんでした。
むしろ家族の事を気にかけている内容でした。面会終了の時間を迎えました。
たしか対面越しにロベルトという男が左の拳を突き出し、
声をかけた後ホセが頷いたくらいの事でしょうか。
外国の挨拶だったのか、何だったのかそれはわかりませんでした。」
独居房に戻ったホセは瞑想をしながら声を聞いた。
声といっても神の声では無い。
ホセだけに声は聞こえた。
東京プリズン釈放の為に何をするべきかを。
ホセのインプラント奥歯は着脱可能で、奥歯の中にはICチップが内蔵されいた。
無線でデータを受け取る事で新たな内容に書き換える事が可能である。
しかもコツ振動を利用して音声データーを再生することも可能だ。
スーツの男が同じ組織の諜報員で、メッセージを届けにきた事のサインに気づいたホセは
このロベルトに対して理解したことを伝えデータを受け取ったのである。
このやりかたはホセも長年組織内で繰り返し行ってきた。
音声を確認した男はしばらく考えた。
大きく深呼吸をした後に体を洗いヒゲを剃り、そして神に祈りを捧げた。