【第六話】ノックアウト
翌日、懲罰房の扉が開き看守が鉄のバーを外した。足の感覚がなく立ち上がる事が出来なかった。
両脇を看守に抱えられる形で独居房へと移された。
看守に連行されながら約束の時間に医務室に入った。
中島は男を椅子に座らせて治療を始めた。
「また、ひどい傷を負ったのね。私から所長にやめさせる様に話をするわ!
それでもダメだったら弁護士に相談すると脅しをかけるから。」
ホセは何も答えなかった。
監獄に送り込まれて6日目、ホセの元に面会人が現れた。
看守2名が現れ鉄格子の扉を開け、ホセを面会所へと連行した。
電子制御の扉を抜けると左右に広がる廊下へと繋がっていた。
廊下を左に曲がりその先のエレベーターに乗り込んだ。
目にする情報を細心の注意を払い拾い集めた。
エレベーターを操作するには看守が持つ専用のカードが必要であった。
カードリーダーからカードを読み込み1階へと上がっていった。
エレベーターを降りて突き当たりの部屋がVIP用の面会室だった。
鈴木と名乗る弁護士は面会に訪れ、弁護団の動きや会社の状況を事務的に伝えた。
すぐに何らかの措置がある様ではなかった事から、ホセの苛立ちが随所に見受けられた。
結論から言えば、釈放の目処が立たなかったのだろう。
この弁護士は忠誠を誓う言葉と根拠のない期待を持たせる言葉だけを並べていた。
監獄内での虐待について聞いてくる気配もなかった。
金だけ搾取していく使えない弁護士に、ホセはこう吐き捨てた「他の人間をよこせ、お前はクビだ!」。
時計を覗き込んだ看守が面会時間の終了を告げた。
次の日も変わらぬ食事だったので、ホセはカメラに向かって
いつになったらマトモな飯が食えるのか尋ねた。
「今朝になって当局が貴様の資産を差し押さえる事を決定した。
よって有料喫食の契約は白紙となった事を伝える。以上!」
ホセは暴れ狂う様に独居房を駆けずり回った。
「盗人猛猛しいとはこの事だ!俺の金だぞ~。返せ!」
個人資産の半分以上は通貨の安定している、この国に移している事もあり怒りがおさまらなかった。
「本当に貴様の金か?」小松が鉄格子の向こう側で笑いを浮かべながら立っていた。
「元はと言えば不正で手に入れた金だろうが。なんにしろ金が無い奴に俺は便宜をかける事はできない。」
小松は鉄格子越しの近くに来るようにと指を動かした。
ホセの耳元まで近寄り囁いた。
「口座に金が入るのを楽しみにしていたんだぜ俺は。事前の準備にも手間が掛かっている。
ここまでの費用は安くないぞオイ!」
そう言ってホセの頭を鉄格子に押し付けた。
「これは不当な行為だ、この様な事を決して許してはいけない。私は必ず奪われた金を取り返す。」
「外国の資産や隠し財産はどうした?」
「こ、この中にいる限り動かす事が出来るわけないだろう。」
「クソが。」そう言って小松は手を離した後にホセに唾を吐きつけた。
小松は振り向き電子制御の扉を開け、気だるそうに首の骨を鳴らしながらホセの方へ振りむいた。
「ひとつ貴様に伝えておこう、もう静かな独居房生活ができると思うなよ。」
ホセはしばらく失った資産の事で頭がいっぱいであった。
しかしこれ以上余計な事を考えても無駄だと悟り神への祈りと瞑想を始めた。
次の日ホセは、新聞の広告欄に組織からの伝言を見つけた。
「ようやくか。」そう言って新聞を投げ終えると右の拳を左手で受け止めた。