【第五話】懲罰房
小松は独居房の中に入るなりホセを激しく壁に突き飛ばされた。
看守は今何をしていたのかと問い詰めたが、ホセは一切答えない姿勢を貫いた。
「貴様は脱獄を企てようといているのか?だったら何をされても文句は言えないなぁ。
この国は甘い、よその国ならとっくに射殺だ。」
そう言うと警棒を叩きつけた。じわりじわりと包帯から赤が滲み出てきた。
ホセも殴り返した。小松の鼻から血が飛び散った。
もう一発殴る手前で他の看守に取り押さえられた。
鼻血を見た小松はキレて何度も囚人を殴った。
小松はホセに対して罰として起床の時間まで懲罰房行きを言い渡した。
扉を出た通路を右に進み突き当たりが懲罰房である。
東京プリズンの懲罰房は半畳にも満たない程の小部屋、
そこで正座の姿勢を懲罰期間が終了するまで強いられるのである。
さしずめ清掃用具入れと言ったところだ。
看守は鉄の長モノを手にして囚人を睨みつけた。
ホセも看守の目から目をそらさず、隙あらば力づくでこの場から脱出するタイミングを狙っていた。
しかし看守の一撃がホセの頭部に捉えると膝からコンクリートの床へと崩れ落ちた。
両脇を抱えられ懲罰房での反省の姿勢にすべく看守に押さえつけられた。
ホセの膝の上には鉄のバーが固定されて物理的に立ち上がれない状態となった。
人生で初めての正座が東京プリズンだった。
「ここから俺を出せ。こんなことをしてタダじゃ済まさんぞ!」
囚人の叫びに看守は表情を一切変えなかった。
扉を閉じると完全な闇の世界となった。
姿勢を変えたくてもバーが膝の上にあって立ち上がる事ができない。
背後はすぐ壁となってるため後方へと移動するスペースはなかった。
5分もしないうちに両足は痛みを伴い正座が出来なくなった。
膝を左右に揺らしてポジションを変えようとするが無駄なあがきでしかなかった。
バーを揺らすが外れる様子はなかった。
暗闇の中で男は考えた。
消灯後も独居房の監視カメラを通して囚人動きは看守に見えているという事や、
看守が来るまでの時間など知り得た情報から脱走のプランを練っていた。
足の感覚が完全になくなってから、ほどなくして懲罰房の扉が開いた。
「幾らだ?」ホセが見上げた先には小松がいた。
「便宜を図ってやると言ってるんだ。」
「金か、金なら欲しいだけやろう。その代わりここから出してくれ!」
「いいだろう。近いうちにお前に面会人を差し向ける。そいつを通じて
俺の口座に振り込む様に話をつけろ。」
バーの上に看守は革靴を乗せた。
「便宜ってやつは金の入金が確認できてから、今日はここでいい夢でもみるんだな。」
そう言うと小松は口笛を鳴らしながら懲罰房を出て行った。