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復帰して即狩りをする

現在世界で最も接続者数が多く、かつ長期間運営が続いているネットゲームが「エンドレス・オンライン」。


「キャラに愛着を持ってもらう」という目的から、アカウントは1人1つだし、1キャラしか作成できないという制約がある。


しかし、このゲームはゲーム内通貨を現実のお金に変換する事が可能なこともあり、ゲーム内通貨を稼ぐための会社も存在していたりする。


開始から30年…ほぼ2年ごとにアップデートされているこのエンドレス・オンライン(EO)はそのゲーム内のシステムも独特だ。


2年のアップデート毎に新しいスキルが実装されるが、「その前パッチ中に取得されたスキル」の統計を取り、取得数の少ないスキルは「新規取得不可」となる。


例えば100個のスキルがあるとすると、2年ごとに10個のスキルが実装される代わりに既存の10個のスキルが取得できなくなる(既に取得している人だけが使える)という感じになる。


この画期的なシステムは古参ほど「自分しか作れない(後から真似できない)スキル構成」にすることが出来る。


自由なステータス、自由なスキルビルドにより自分と同じキャラは存在しない、とも言える。


ただ経済のためにゲームをする者も居れば、現実に居場所が無くネットゲームに自分の価値を見出す者もいる。


あるいはただゲームが好きだったり、コミュニケーションが好きだったり・・・趣味として遊ぶ者も居る。


世界規模で多彩なプレイヤー層による物語が今日も行われているのがこのEOである。






――玄武の塔5F――


塔の通路を歩く全身鎧の男が居る。


本来であれば歩くたびに発するはずの金属音はしない。


『隣の部屋はモブ20匹居る』


男は声を出さず、しかし特定の相手にメッセージを伝える。


『分かった、じゃあ準備しておくね』


返事も声ではないが、女の声で男の頭にしっかり届く。


これは「念話」と言われる連絡手段の一つでEOでは最もポピュラーなコミュニケーション手段だ。


(よし…)


男は短剣を握り、そして部屋に飛び込び、一気に部屋中を駆け回る。


先ほどまでとは逆にガシャガシャと金属音が響き、モンスターが男を認識する。







玄武と言うと亀のイメージだが、この塔は亀型モンスターを中心とした構成となっており、防御力が高いという特徴がある。


モンスターの防御力が高いという事は、特定の装備・スキル持ち以外には「経験値的にまずい」という事になる。


ついでにこの5階のモンスターはグリーンタートル、レッドタートル、アイアンタートルの3種が徘徊しているが、どれもドロップアイテムもまずいため、実装1ヶ月で過疎ったエリアだ。


レベル100上限を120まで上昇させるクエストがある。


このクエストはこの塔の最上階に鎮座するボス「玄武」を倒し、証拠となる「玄武の甲羅」を持ち帰るというものだ。


しかし、そもそもレベル100に到達しているのはサービス開始から20年経過しても約200人しか存在していない。


そのうち、玄武討伐できたものは僅か50人となっており、この50人はWikiにも掲載されていたりする。


ちなみにクエストは月に1度しか受注できず、翌月初日0時に受注制限がリセットとなる。


この受注リセットが掛かる月初を除くと常に過疎って居るエリアがこの玄武の塔である。





部屋中を動き回り、中に居たモンスターを引きつれ通路へ出る。


一般にトレインと言われる行為でゲームによってはマナー違反とされるが、EOでは許容されている。


そもそもEOはPKが許可されており、トレインを利用したPK(MPK)も行われる事がある。


ただし、MPKは成功率が低いのでベテランプレイヤー程行わないわけだが。


男が手をモンスター達に向け…


タウント!


そう念じた瞬間、モンスターに赤みの掛かったエフェクトが一瞬発生する。


タウント…挑発スキルの1つで指定したモンスターとその周辺のヘイトを一気に上昇さることで他者に矛先が向かないようにする盾役のスキルだ。


EOはモンスターも思考を行うが、基本的には「モンスターにとって厄介な存在」に対して優先的に攻撃するように設定されている。


例えば盾役を回復する役のプレイヤーが居ればモンスターの攻撃の矛先はその回復を行うプレイヤーに向かう。


そのため、盾役として動くプレイヤーは「ヘイト」を重視しなければならず、ヘイト管理を目的とした挑発スキルやターゲット維持させるスキル等を取得する必要があるわけだ。


『もうすぐ着く!』


男はモンスターの攻撃をかわし、あるいは短剣で弾きながら進む先に一人の女が立っていた。


『オッケー!』


女はニヤっと笑いつつ弓を上に引き…そして矢を放った。


アローシャワー!


放たれた矢は落下する時に数多に分裂しモンスターたちへ降り注ぐ。


降り注がれた矢を受けながらも、立ち止まった男を狙ってモンスターは攻撃を仕掛ける。


が、それらは全て回避あるいは短剣により弾かれる。


その間に更にアローシャワーが降り注がれ、20匹のモンスターは全滅した。


「このペースで倒せりゃ経験値効率は良い狩場なんだよけどね、ルー」


男は「ルー」と女に呼びかける。


女のほうも「そうだね、アレン」と応えるが続けて「ドロップは相変わらずショボいけども」と付け加える。






その後もアレンがトレインして、ルーがアローシャワーで仕留めるという狩りを延々くり返していた。


アローシャワーはEO開始時に存在していたスキルだが何度目かのアップデートで新規取得不可となった、今では珍しいスキルである。


初期ではこのようなまとめ狩りと言うのは流行していなかった上に弓を利用するスキルは単体攻撃が優れていた事もあり「モンスターハウスに突っ込んだ時に悪あがきする目的」で取得する人が多かった。


その後、より範囲の広い攻撃が出来るアローレインというスキルが登場したことで廃れてしまったわけだが…。


ところがこのアローシャワー、敵防御力無視の仕様があり、尚且つアローレインよりもクリティカルが出やすいという能力があり、玄武の塔のように防御力の高いモンスターに対しては実は効率の良いスキルであった。


もちろんスキル説明文にも掲載されていたが、初期はこのような高防御力モンスターは居なかったため重宝する事はなかったわけだ。


クリティカルはEOにおいて攻撃ダメージを2倍にする効果を持つ。


本来であれば1000しかダメージが出せないとすると、クリティカル時には2000のダメージを叩きだすことが出来る、という感じだ。


「もったいないよね、アローレインは基本威力と範囲は良いけど…」


ルーはモンスターから出たドロップアイテムを収集しつつ言う。


「まあ、実装時にはこんな化けるとか分からなかったしなー」


アレンの言うとおり、このアローシャワーはその後実装されたアイテムやスキルを併用する事で必ずクリティカルが発生させる事が出来るようになっている。


勿論この事実はネット上には流れていない、と言うかそもそも「既に入手できないスキル」も含めると大量の組み合わせが出来てしまう。


そのため、スキルの併用に関する情報は基本的に流れないか、もしくは「最新のパッチ時点で取得できるスキルでの組み合わせ」ぐらいになる。


「さて、もう少しだけ続けるか」


「うん、でも久しぶりだから結構疲れるね」


アレンとルーは立ち上がり、モンスターを求めて動きだした。

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