少女と小人と大人
ベンチに座る僕の隣で、少女は美味そうにアイスキャンディーを舐めている。
「ねえ、小人って、本当にいると思う?」
少女は僕に訊いた。
「いや、そうは思わないな」と僕は答えた。
とても暑い日だ。
「でも、大人はいるでしょ」
「そりゃあ、大人はいるさ」
「どれくらい?」
「想像できないくらい、たくさん」
「ふうん」
少女は麦藁帽をかぶっていた。
僕は遠くで飛ぶ鳥を見つめている。
「でも小人はいないのね」
「そうさ、小人は、本当はいないんだ」
「ひどい話ね」
飛んでいた鳥は、どこかへ行ってしまった。
もう、どこを探しても見つからなかった。
「あっ、小人!」
不意に少女は叫んだ。
サンダルを鳴らして茂みに近寄る。
「本当よ! 本当にいたのよ! 私、見たもの! 凄いわ!」
少女が指差す方には、しかし何もいなかった。
「どこに行っちゃったのかしら」
「さあね。実は、どこにも行ってはいないのかもしれない」
「そうかな」
「可能性の話だよ」
「残念だわ」
「しょうがないさ」
少女はベンチに戻ってきて、そして、再びアイスキャンディーを舐め始めた。