表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽Gメン警戒中!  作者: 宗谷 圭
1/30

第1話 事件発生

「あああぁぁぁあっ!!」

 深夜一時十五分。閉店後の書店内に、叫び声が響き渡った。叫び声の主は、この店、音妙堂書店の店長である松山裕輔だと、店内に残っていたスタッフ達全員が瞬時に察する。

「店長!?」

「どうしたんですか!?」

 スタッフ達が、叫び声のしたコミックコーナーへと走り寄る。そして、そこに辿り着いた皆が皆、足を止め、呆然と視界に入り込んできた光景を眺めた。

 床に両膝と両手を突き立てた状態で頽れている、店長の松山。その正面には、ごっそりとコミックの抜き取られた什器があった。一時間前、本日最後の店内巡回の際には、古今問わずに人気のコミックがぎっしりと詰まっていた棚だ。今は何も無く、ただ灰色の背面板を晒している。

「おい……今日、こんなにコミック売った覚えなんて無いぞ……」

「今日どころか、雇われて以来一度も無いよ」

「やられた……」

 ざわめくスタッフ達の前で、松山の体がわなわなと震え始めた。そして、ダンッ! と力強く床を叩く。その音で、店員達はハッと松山に注目した。

 そうだ、今一番ダメージを負っているのは、店長の松山のはずだ。これだけ大量の本が、一気に盗まれたのだ。売り上げに響かないわけがない。

 それだけではない。このコミックコーナーの担当者は、他でもない松山自身だ。三度の飯よりも漫画が好きだという松山が、厳選し、時には流通や版元と衝突しながらも品揃えを充実させてきた。いわばこの本棚は、松山の大事な大事な子どものようなもの。コミック本の盗難は、松山にとっては我が子を誘拐されたに等しい事件なのだ。

「畜生……」

 松山が、震える声を絞り出した。その様子を、スタッフ達はただただ、見守る事しかできない。ある者は痛ましげに。ある者は、松山の精神状態を心配して。

「畜生……」

 松山が、再び呟いた。そして、再びダンッ! と強く床を叩き。そして、絶叫した。

「守れなかった……大切な、あいつらを……!」

「……うん。この状況で漫画っぽい台詞を叫べるなら、まだ余裕はあるな。みんな、撤収ー。警察が来ててんやわんやになる前に、閉店業務終わらせるよー。……あ、警察が色々と調べるだろうから、今日は掃除無しねー」

 一気に気が抜けた、という顔で、アルバイトチーフの本木暦はぱんぱんと手を打った。同じように呆れた顔で、スタッフ達はぞろぞろと持ち場に戻っていく。暦は暦で、警察に電話をするためにバックヤードへと向かった。

 だから、誰も見てはいなかった。一人取り残された松山の目が、怪しく輝く、その瞬間を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ