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スマホに潜む疑惑

作者: 楠樹 暖

「今日は飲み会なので夕飯は要らないから」

 家内は「ふーん、そうなの?」と素っ気なさそうに返事をし、興味なさそうに猫とじゃれ合っていた。でも俺には分かっている。興味がないふりをしているときは実は興味津々だということを。

 今日の飲み会に興味があるのだろうか?

 まさか飲み会じゃなくて、女と食事にでも行くのかと疑っているのだろうか?

 いろいろと考え事をしながら会社へ着くとスマホを家に忘れてきたことに気がついた。仕事の電話は会社に掛かってくるし、まぁいいか。

 その日の業務が終了し、いよいよ飲み会となった。

「いやー、今日、家にスマホ忘れてきちゃって」

「えっ? でも、飲み会前に先輩にLINEしたら既読になりましたよ」

 後輩のスマホの画面を見せてもらうと確かに俺宛のメッセージが既読になっていた。つまり、俺のスマホでこのメッセージを読んだ人間が居るということだ。

「俺は読んでないぞ。……まさか、うちの家内が読んでいる?」

 スマホにはロックがかかっている。パスコードは誰にも教えていないし、指紋認証も家内の分は登録していない。いったい誰が読んでいるのだろう?

 家に帰ると俺が最後に置いた場所にスマホはあった。

「スマホ触った?」

「触ってないよ。ずっとそのまま」

 スマホのホームボタンを右手の親指で押し指紋認証を実行した。ホームボタンで指紋を読みとり、登録した指紋と一致していればロックが解除される仕組みだ。親指を置いてすぐにロックが解除され、LINEの画面が出てきた。そこには後輩からのメッセージが表示されていた。

「スマホ読んでない?」

「ロックがかかっているし、読めるわけないじゃない。それよりも飲み会どうだった?」

 朝は気にしていないそぶりをしていたが、やっぱり気になっているんだな。

「例の後輩君も来てたんでしょ? あのちょっとイケメンな」

「ん? あぁ、来てたよ」

 なんで、今日の飲み会に後輩が来ることを知っていたんだ? 後輩は本来不参加で、出張の予定がキャンセルされたので急遽参加することになったというのに。

「なんで、後輩が来たこと知ってるの?」

「……女のカンよ」

「いや、俺のスマホを勝手に読んだな!」

「だから、ロックの解除の方法を知らないのよ! 読めないのよ!」

 俺はスマホを机の上に置いた。

「ここに指を置いてみろ!」

 俺は家内の手を掴み人差し指をスマホのホームボタンに押し当ててみた。

 ――何も起きない。

 右手のすべての指と、左手のすべての指を押し当ててもロックは解除されない。

 四桁のパスコードは誕生日や電話番号などの推測しやすいものにはしていないので、家内には絶対分からない筈だ。いったいどうやってスマホのロックを解除したのだ?

 二人の問答を見ていた猫が、とんっと机の上に飛び乗り、話題の中心であるスマホの上に座り込んだ。その瞬間――

 スマホの画面が輝きを増した。スマホのロックが解除されたのだ。

 指紋認証を行うスマホのホームボタンの上にはちょうど猫の肉球があった。

 スマホのロックを解除したのは家の猫だったのか……。

 そういえば、このスマホに機種変更したときに、指紋認証機能を試したくて、面白半分で猫の肉球も登録したんだっけ。すっかり忘れていた。

「ねっ! 私じゃないでしょ」

 つい早とちりで家内を疑ってしまった。

 疑われた家内はカンカンだったが、週末に外食をする約束をしたらコロッとご機嫌になった。もうこれからは家内のことを疑るのはやめよう。

 ちょっと今日は疲れたな。風呂にでも入ってサッパリしよう。


 ダンナがお風呂に入っているのを確認すると、奥さんはダンナのスマホを手に取った。

「おいでー、猫ちゃーん」

「にゃーん」

「ふふ、ダンナの素行を調べるのには、猫の手を借りるのが一番ね」

(了)


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