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プロローグ

 さて、仏教説話的な解釈を鵜呑みにするならば、転生後に何になるか、あるいはどのような運の巡り合わせを迎えるかは前世の功徳によって決まるらしい。



 え?突然何の話かって??


 その疑問は脇に置いて、もう少しだけ変な思索と愚痴に付き合って欲しい。



 さてさて、六道輪廻、いわゆる仏教的世界観の転生システムの範囲においては、高く徳を積めば天界に入って仙人やら、天魔やらにも為れるというわけで、逆に悪徳を積めば地獄で懲らしめられた揚句に修羅の道に放り込まれてしまったりするわけだ。


 さて、ここで、疑問なのだが、悪魔に転生してしまうというのは正直前世の功徳をどう評価された結果なのだろうか?



 俺は一時思考を停止し、天を仰ぎ見る。そこには見慣れた蒼い空は無い。赤茶けた空間が遠大に広がっているだけだ。その赤い空間に千切れた大地ともいうべき、平面的に広がった鉱物の塊が幾つも漂っている。緩慢なスピードでそれらがてんでバラバラに進んでいる様は、空に浮かぶ雲に似た印象を与える。


 俺がいるのも多分そんな大地の一つなのだろう。見渡す限り雪のように真っ白い大地だ。尤も、水晶のような白色の鉱物に覆われているので、雪の様な優しい柔らかさは無いわけだが。俺はそんな大地の中にぽつんと突き出ている割れた岩の上に座っていた。熱くも冷たくない、ただゴツゴツした岩肌を感じ取りながら再び思考に沈み、眼を閉じて集中する。前世の自分について正確に思い出そうと努めているのだ。



 人間だった。地球という星に住んでいた。日本人だった。仏教徒だったのも確かだ。寺にお布施をした記憶があるからな。仕事は・・・赤字垂れ流しの零細ベンチャー企業の経営をしていたんだった。自己破産まで秒読みだった気がする。独立してもやっていけるはずだという傲慢を盾にして、勤めていた職場の人間関係から逃げ出したのだ。自分が社長ならそんな事を気にしなくて良いだろうという恐ろしく安直で甘い発想による決断だった。思えば、何時まで経っても俺は幼稚な精神性を脱せなかったな。・・・ああ、俺が突然死んで、きっと会社と取引先には迷惑をかけただろうな。申し訳ない。あれ? そう言えば、なんで死んだんだっけ? まさか、業績不振に苦悩して自殺? 俺そんな人間じゃなかったと思うが。



 俺は眼を開くと、ゴロリと仰向けになる。頭上では丁度、青色の鉱物を多量に含む大地が通り過ぎようとしていた。俺の知っている空の色に近い。しかし、近い分、あの透明度の高い澄み切ったという形容詞が似合う空との対比が明確に迫る。ここは元いた世界では無い。俺は死んだのだ。



 死んだのは確か人を庇ったからだ。転がり出たボールを追い掛けて子供が大通りに飛び出して、そこに迫るトラック、子供の背を突き飛ばす俺。後は自明。妙だな。俺の記憶が正しければ、俺は自分の命まで捨てて他人を助ける様な高尚な人間では無かったと思うのだが。


 まさか、偶然ふらりと立ち寄った月はじめの寺の説法で、講師が捨身慈悲なんて説話を臨場感たっぷりに説いていたのに感化されてなんて事もあるまいし。そう言えば、あの日はなんだか自暴自棄な気分だったような?


 まだ、記憶があいまいだな。

 というか、おかしくないだろうか。まさに捨身で人を助けたのに、天国やら天界やらという光に満ち溢れ花咲き乱れる楽園に転生するどころか、こんな訳の分からないゴツゴツした空間に悪魔として転生するなんて。


 ん?なんで、俺は俺が悪魔に転生したと認識しているんだ?

 この知識は一体?


 あ、


 ああ、


 思い出した。とんでもなく不愉快な事を思い出した。



◇◆◇◆◇



 子供を庇って死んだはずの俺は、次に意識が覚醒した時、網の中に居た。


 どうなっているんだという疑問が浮かぶと同時に、頭上からグェグェ、ゲォゲォと変な鳴き声が聞こえてくる。見上げた俺は更に混乱した。その鳴き声を発したと思われる生き物は、俺の何倍も大きく、顔が鰐のようで、所々から鳥の羽毛が生えており、漆黒のローブを羽織っていた。そんなのが2匹いて、片方が俺の入っている網についている柄を握っているのである。どう見ても、構図としては怪獣に捉えられた人間という役回りだ。あまりのことに、俺は何の行動も起こす事は出来なかった。死んだという自覚は不思議と明確に持っていた。ここが三途の川の関所なんだろうか。


「ハナコ様。魂、捕まえた。英雄の魂、釣れた。グェグェ。」

「ハナコ様。自分の命犠牲にして人救った魂。捕まえた。ゲォゲォ。」


 こいつらしゃべれるのか。2匹の怪獣のダミ声と鳴き声に対して、美しく清らかな声が答えた。


「あらあら、二人とも、また勝手に何やってるの。英雄の魂が必要なのは明後日だってさっき教えた所でしょう。ほんと、鳥頭よね。」


 網目の隙間から清らかな声の方へと目を向ける。この時、俺は無意識に声の質から美少女を連想してしまっていた。本当に玉のように響く良い声だったのだ。妄想してしまった俺を責めないで欲しい。おかげで、その声の主が真っ白なドレスにケバケバしいピンクのフリルをあしらった格好で、頭部に乗っかっているのが人間では無く、象の頭であるのを見た時のショックと言ったら・・・。しかも、2匹の怪獣よりもさらに背が高い。


「ハナコ様のお手伝い。グェグェ。」

「・・・捕まえちゃったもんはしょうがないか。」


 ハナコ様と呼ばれている象の怪獣が網の中に手を突っ込んできた。巨人の手が俺を摘み上げる。手が象の蹄じゃなくて良かった。などと益体も無い事を考える。俺は圧迫感に苦しみながらも、されるがままだ。なぜか少しも抵抗する気が起きない。


 圧迫感から解放されると俺は巨大な机の上に降ろされた事に気付いた。足元に広がるのは、長方形の広大な大理石の床である。ただし、床であるのは僕にとってであって、例の3匹の怪獣の腰から下がその床より下にある事を考えれば、ここが彼らにとっては卓上に当たると想像するのは難くない。

 見上げると遙か高くに白い天上があり、見渡すと全ての家具が巨大である。不思議の国のアリスや旅行記のガリバーもこんな光景を見る事になったのだろうか。僕は自分の背より大きい蜜柑を見上げた。


「ちょっと、この魂。異世界のものじゃない。あんた達ほんとうに何やってんのよ。」


 咎めだてる美声に振り向けば象の怪獣が虫眼鏡で俺を観察している。あまり良い気分では無い。しかし、異世界なんて台詞が出てくるとは・・・。三途の川の関所かと思ったが違うな。たぶん臨死体験だ。俺のラノベ脳が死の間際に煩悩を糧に勝手に作りだしている夢なのだろう。きっと、この夢が終わる時が本当に俺が死ぬ時なのだ。・・・いや、それはおかしいな。なにしろ、俺は既に死んでいるはずだし、あの重症でこんなに長い時間夢を見させるほど脳機能が維持できるとは思えんし。とすると、ひょっとして。


「もしかして、閻魔様ですか?」


 俺は自信満々に尋ねる。真実は一つ。気分は小さくなった名探偵だ。しかし、象の怪獣は俺の質問に眉を顰める。勿論、俺は驚いたよ。象に眉があったんだからな!! それにしても、ご機嫌斜めの様子だ。間違った推理のようだ。生まれ変わっても探偵業につくのは止めておこう。


「閻魔? なにそれ? 私は愛と勇気と友情の女神ハナコよ。」


 象の怪獣はとてもジャンプな女神だった。ジャンプな女神ならこうもっとヒロインチックな女神様でも良かったと思うんだが。残念ながら、象だ。象なのだ。いや、象が嫌いなわけじゃない。他の動物でも多分同じ反応だったはずだ。


「ねぇ、なんで私の顔見て落胆してるのよ? 死にたいの?」


 あ、あれ? なんか女神様怒らせちゃった? 変だな。表情には出したつもりが無かったんだが。女神にはこっちの心情がバレバレなのか。まずい。すこぶるまずい。なんか脅迫されたし。いやでも、俺もう死んでるし。気にすること無いか。


「ゴキブリにでも転生する?」

「すいやせんしたーーー!」


 俺は華麗に土下座を決めた。あんなのに転生させられるなんて悲し過ぎる。女神の溜息が頭上から聞こえた。


「はぁ。まあ、いいわ。本来の予定では明後日、私が勇者を支える使徒の魂を釣りあげるつもりだったんだけど。折角私の眷属が一生懸命お手伝いしてくれたことだし。異世界の知識で勇者を支える使徒ってのも有りかもしれないわね。アンタが使える奴ならこのまま使徒にしちゃいましょう。」


 お、なんか風向きが変わってきたぞ。これはよくラノベである勇者召喚のお話か。まあ、勇者じゃなくてその仲間に為るだけみたいだが、それでも使徒とか言ってるしな。チート能力貰って異世界無双ウハウハ生活が出来るんじゃなかろうか。出来れば、対人コミュ能力上昇とかいうスキルを付けて欲しい。あと、現実逃避回避スキルなんかも是非欲しい。っていうか、剣の才能とかそういうの要らないから、精神系スキルか能力が欲しい。切実に。武術の才能とかも欲しいけど、何かで挫折した途端折れてしまう気がしてならない。俺は願いよ届けと念じながら、土下座の姿勢から顔を上げて女神を見る。すると、女神の右手が俺の体の上に広がって光っている事に気付いた。


「パーソナル・レコード」


 女神が呟くと、俺の体が光り始める。キュルキュルと異音が聴こえ出す。そして頭や背中から何かが飛び出していく感覚。なんだ? 俺は跳ね起きて、肩越しに後ろを振り返ると映画のフィルムのようなものが続々と俺の体から複数吐き出され続けていた。ええっと、これってもしかして・・・。


「アンタの人生が映ってるのよ。」

「やはり・・・。って、プライバシーの侵害です。止めて下さい。女神様。」

「フンッ。」


 俺の切羽詰まった懇願は女神の象鼻から放たれた鼻息で消し飛ばされる。どことなく嗜虐的な笑みだ。


「ええっと。斎藤九頭男。享年35歳。ふむふむ。子供を助けて死亡。英雄の資格ありかしら。会社経営者。リーダーの資格もありかしら。」


 女神の表情が明るくなったような気がした。だが、俺は無表情だ。無表情に成らざるを得ない。


「ん? ・・・オタクサークルで出会った女の子と親しくなっていくうちに、その仕草から勝手に両想いだと思いこみ、社長の肩書きを振りかざせば問題無いと過信して、自信満々に一張羅来て薔薇の花束持って告白したら玉砕。現実に打ちのめされて絶望しフラフラした足取りで往来に差し掛かった所、可愛い子供がいるのに気付いて不審者よろしく声をかけに行ったら、トラックが迫ってるのに気付いて、自暴自棄な気持ちから子供の背を突き飛ばして自分は轢かれた。」

 

 女神と俺の目が会う。女神は無表情だ。目が冷たい。氷のようだ。もっとも象の表情なんてよく分からないが。そして俺も無表情である。


「会社はリーダーシップが発揮できず、倒産寸前。社会人に為っても親の脛を齧ったままで過ごす。先祖の墓参りにも碌に行かない。日常生活でも大した善行もせず。片思いの女性の趣味に付き合っているうちに男の娘趣味に目覚めて、同人誌を買いあさる。好物は猫耳メイドのショタ。」


 女神と俺の目が遭う。女神は無表情だ。目が永久凍土だ。俺は涙目だ。というか、泣いた。ひとしきり泣いた。




「さてと。こんな変態屑人間を使徒になんか出来るわけ無いわね。ゴキブリ決定。」

「ちょ、待って下さい。ゴキブリだけは勘弁して下さい。改心します! 来世では善行積みます!」

「フンッ」


 女神に鼻で笑われる。俺は必至だ。


「ハナコ様を崇めます。ハナコ様を崇拝するように布教しますよ!」


 やけくそで言ってみたのだが、意外にも効果があったらしく。


「本当でしょうね。」

「勿論、本当です!!」

「・・・。そうね。こんなド変態の親不幸の屑人間でも勇者の鞄持ちぐらいは務まるでしょう。ダメもとで使ってみるくらいは問題無いか。」


 女神は少し考え込む。荷担ぎの役回りなんてモブも良い所だが、それでも人間だ。ゴキブリじゃないなら何だっていい。場合によっちゃ、荷担ぎ会社を興してみるのも有りだな。お願いだ。ああ、女神様!

 俺の願いが通じたのか、どうか。女神は徐にどこかから巨大な判子を取り出した。見ると、印には『使徒』と彫ってある。それを女神はナイフで削り始めた。幾ばくかの時が流れて女神の作業が終わる。俺は勿論、静粛にしていた。女神の作業音を謹聴し、慎ましく控えていた。女神が削り終わった印には新しく『罪徒』の文字が彫られている。


「罪徒?」

「今、速効でアンタにふさわしい呪いを作ってあげたの。感謝しなさい。」


 いや、感謝しなさいって言われても。呪いですよ。呪い。因みに、その呪いとやらは誰に行使するんですかね? え? 俺? あはは、やっぱ、そうですよね。ええ、ええ、分かっていましたとも。


「使徒は勇者の仲間。罪徒は、勇者の奴隷よ。勇者が視界内で使徒化と唱えると同時に、隷属化魔法が働き、罪徒は勇者の奴隷になる。素晴らしいアイデアでしょう。」

「え、なんで奴隷なんかに。普通に仲間じゃダメなんですか?」

「フンッ」


 女神は鼻息荒く、逃げ出そうとする俺を片手でひょいっと取り押さえると、鮮血の様なインクをべったり付けた罪徒の印を俺の腹に押し付けた。俺はあっと悲鳴を上げる。熱い。腹に火傷を負わされている様な。叩きつけられるような、切り裂かれる様な。そういった苦痛の感覚が数十秒続く。

 気付くと、俺は解放されていた。まだ腹部から痛みが走る。呼吸が中々整わない。腹には赤々と罪徒の文字が光る。


「もしこれで、アンタが可愛い女の子にでも生まれ変わって、勇者が鬼畜漢だったらどうなるのかしらね。」


 嫌だ。想像したくも無い。というか、痛みのせいで、まともに思考する気力が無い。

 ドS女神は俺がすっかりしおらしくなっている事に満足したのか、随分と機嫌よさげな表情だ。


「20年後、正確にはクリフォト暦3320年に魔王が誕生するわ。そして、同年、魔王討伐の為に勇者を召喚するように神託が下る事になっているのよ。あんたは、勇者が召喚されたら会いに行きなさい。そして、奴隷として扱き使って貰うのね。ああ、逃げようとしても無駄よ。勇者には誰が罪徒で、どこに居るか分かる能力を与えるつもりだから。あ、それとも、勇者の所に強制転移出来る能力ってのもありかしら。そっちの方が良さそうね。」


 勇者にそんな能力与えられたら逃げられないな・・・。お先真っ暗だ。俺には勇者が優しい人間である事を祈る事しか出来ない。俺は罪徒うんぬんについては諦めた。今考えてもしょうがない。呪いの判子を押されてしまった以上、勇者が召喚されるその時まで手の打ちようが無いだろう。


「あの、この罪徒の呪いは魔王を勇者が討伐したら消えるんですか?」

「勇者が魔王を討伐した後、元の世界に帰ったら消えるわ。」

「え、と言う事は、もし勇者がこっちの世界に残るとか言い出したら・・・。」

「勇者が生きている内はずっと勇者の奴隷ね。」

 

 オーマイガッ!勇者帰れ。直ぐ帰れ。どうやら俺の任務は勇者にホームシックになる呪いを掛ける事の様だな。フフフ。・・・ハァー。勇者が人徳ある人間である事に期待するしかあるまい。


「ま、使えない奴を勇者の所に送り込んでも仕方ないし、ちょっとしたギフトをあげましょう。」


 突如、女神が優しげな表情を作る。

 え? もしかして、荷物持ちでもチートになれんの!? 運び屋の無双伝説の始まり!?


「暗黒の軍勢に対して有効な、聖属性になる祝福を与えてあげるわ。感謝しなさい。」

「有難う御座います。」


 俺は直角に礼をする。まずは聖属性か。それは確かに魔王討伐には必須の能力だな。他に何が貰えるんだろう。あ、運び屋だから四次元ポケットとかかな。できれば、コミュ力を上昇させるスキルを。俺は礼をしながら待つ。ひたすら待つ。女神はそれ以上何も云わない。

 あれー、おかしいな。これだけ? これだけなの? 

 俺は頭をそろりと上げる。


「あの。」

「何か?」

「ええっと・・・、祝福はもう頂けたんでしょうか?」

「ええ。アンタがお辞儀してる間に手をかざして擦り込んどいたわ。」


 あ、なるほど。黙ってたのは祝福を与える作業中だったからなんですね。これから、他のチート能力貰えるわけですよね。


「さ、あとは転生させるだけね。」


 女神は当然の如くそうおっしゃる。ええ、ええ、分かってましたとも。そんな落ちだろうって。

 女神を悄然と佇む俺をひょいと摘み上げると、透明な球体のカプセルの中に閉じ込めた。さらに、半球状の台座の上に置く。移動させられる時にチラと見たら、半球状の台座はその下に垂直方向に続く太いパイプが繋がっていた。そして、この台座の横からケーブルが伸びており、どう見てもカジノのスロットマシーンな物体に繋がっている。スロットマシーンの上には『転生機』と表示されている。女神はツカツカとスロットマシーンに歩み寄って、装置から突き出ている円筒に俺から回収したパーソナル・レコードを放り込んだ後、レバーに手を掛けた。装置が軋む様な音を出す。カシャカシャという異音を数回鳴らした後、小型の画面に『カルマ計算完了』と表示された。


「じゃ、いくわよ。荷物持ちか性奴隷に為るんだから足腰の強い部族に生まれると良いわね。甲斐性無しのド変態な親不幸の勘違い屑野郎。」


 反論できないのが悲しいというか、情けないというか。此処まで蔑まれるような人間だとは思っていなかったんだけど。この女神は嫌いだ。言っている事が正しくとも、あんまりだ。

 女神は俺を見向きもせず、レバーを倒す。スロットが回転を始めた。


「ゴーキブリ! ゴーキブリ!」


 突如、女神がなぜか呪詛と共に手拍子し始めた。ゴキブリコールに俺は顔を青くする。


「ちょっ、ゴキブリになったら勇者の荷物担げませんよ!?」

「あら、荷物担ぎだけが勇者パーティーへの貢献ではないわよ。ほら、魔王の城の台所に住みついて魔王の機嫌を損ねさせて隙を作れるかもしれないわ。素晴らしい英雄的行為よ!」

「そんな英雄になんかなりたくねぇー!」

「ゴーキブリ! ゴーキブリ!」

「やめてーーー!」


 俺の絶叫に合わせるかのように、『種族』と表示されている欄のスロットが勝手に止まる。


「はぁ?」


 象顔女神ハナコの間抜けな声が響く。

 スロットの表示は『悪魔』だった。俺が反応する前に女神が腹を抱えて笑い始める。


「あ、あくまって。ぷふっ。よりにもよって悪魔って。ぷふっ。ないわー。強制転移で勇者の前に連れ出されて、いきなり、勇者の経験値にされるとか。ぷふぷふっ。すんごい大貢献。あははは。もうダメ。お腹痛い。苦しい。笑い死ぬ。はははははははは。」


 呆然とする俺は、視界の端に笑い転げる象の怪獣を捉えながら、ガコンッという音と共に開いた穴から球体カプセルごと下に落ちていった。そして、俺は意識を失った。



◇◆◇◆◇



俺は悪魔としての生を受け、この赤茶けた空間に漂う白色の大地に誕生した。



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