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ステッド子爵家の若様と執事の話  作者: るい
アンドリューの5連休
5/8

アンドリューの5連休③

アンドリューの5連休はこの話で終わります。



その翌日、ロレンスは元子爵夫人の命を受け、自分の培ってきた情報網を駆使してハリエットの事を調べ上げた。


ハリエット・スペンサー


スペンサー伯爵家の長女。


15歳。


スペンサー伯爵はストラスフォード伯爵の娘と結婚したが、ハリエットの出産の時に死別。


スペンサー伯爵はふさぎ込み、事業に失敗し、引きこもってしまった。


その10年後に跡継ぎ問題からスペンサー伯爵は後妻を迎え、一女一男をもうける。


後妻とハリエットは仲が悪いという事はないが、生活は苦しく、伯爵家の体裁を何とか保ち、跡継ぎの長男を一人前にする事で伯爵家の家計は精一杯で、ハリエットと後妻とその娘は伯爵家の女性とは思えない程の暮らしぶりでひっそりと生活している。


ハリエットは社交界にはほとんど顔を出さず、修道院に入る準備をしていると噂されている。


ハリエット本人について分かった事は本が好きで、母の実家、ストラスフォード伯爵に図書室の本目当てでよく出入りしている事ぐらいで、それ以外に大した情報は得られなかった。




ロレンスはその情報を自分の主人に報告した。


「・・・ということです。若様。」


「・・・。」


「どうかなさいましたか?」


「そんな事より僕に報告すべきことがあるだろう?ロレンス。」


「・・・。何でございましょう?」


「とぼけるなよ。御祖母様からクローディアとの交際許可をもらったんだろう?」


「ああ、その事でしたら、ええ。」


「ええ、じゃないだろう?僕の気持を知っていて。」


「ですが、以前、若様はクローディアが私の事を好きになったらご報告すればよろしいとおっしゃいませんでしたか?」


「む?そうだったか?」


「はい。ですから、私は大奥様からクローディアとの交際許可はいただきましたが、クローディアからまだ好きだとは言われていませんので、まだご報告する時期ではないかと思いまして。」


「・・・。屁理屈だ。」


「そうですか?」


「だが、そうか。まだクローディアの気持は掴んでいないのか。」


「・・・ええ、まあ。まだ好きだと彼女から言われてはいませんね。」


「じゃあ、まだ僕にも可能性があるんじゃないのか?」


「どうでしょうね。まあ、クローディアは好きでもない男と出掛けるような女性ではないと思いますが。」


「む。」


「まあ、一生彼女から好きだと言われない可能性もありますしね。」


「そうだな。やっぱりまだ僕にもチャンスがあるんじゃないか。」


「いえ、若様。もうそんなチャンスはないと思われますよ。」


「なぜだ?ロレンス。」


「彼女は好きと口には出しませんがおそらくもう私の事を愛しているはずですから。」


「あ゛?」


「将来結婚をするつもりはないが、子供は産んでもいいといってくれましたからね。」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?」


「彼女は仕立て屋として一生働きたいそうですし、私はステッド子爵家の家令として一生働く。そうなると結婚する事に意味はありませんから事実婚して私の子供を産んでもいいそうです。」


「・・・クローディアが家の仕立て屋になってロレンスと結婚して暮らせばいいじゃないか。」


「ですが、クローディアの事を大好きな主人の元で働くというのは・・・。」


「他人の妻に手を出すほど考えなしじゃないぞ、僕は。」


「く、く、く。クローディアに伝えておきます。」


「何を笑ってるんだ。ロレンス、僕はクローディアの幸せを考えてだなあ!」


「ええ、わかっておりますよ、若様。私は素晴らしい主人の元で働けて幸せです。」


「ふん。ああ、それで何だっけ?ハリエット?」


「はい。気になるのですか?」


「うーん、気になるっていうか、踏んづけたんだよな。彼女の事を。」


「は?」


「床に本を置いて、床にかがみこんでその本を読んでいて、多分、手だったと思うんだけど、軽く踏んづけたんだ。」


「・・・女性が図書室で床にかがみこんでいたんですか?」


「ああ。僕が想像するに、隠れて図書室に来て、誰かに見つからないように床で本を読んでいたんだと思うんだよな。」


「まあ、本が好きだという事は私の調査でも判明していますからね・・・。」


「で、僕も本に夢中で床を見ていなくて、彼女も本に夢中で僕に気付いていなかったと思うんだ。まあ、理由はどうあれ、女性の体の一部を踏んづけてしまったんだからお詫びをしないと、と思ってね。」


「はあ。」


「手紙と一緒に何か本でも贈ろうかな。何がいいか・・・。この前読んだ星座の本が面白かったな。こんな田舎でも売ってるかなあ。」


「楽しそうですね、若様。」


「んー、まあね。だって、彼女、隠れて読んでた本が『天体と時間、距離についての一考察』だからね。

女性としては珍しい選択だろう?どういう女性なのか興味が湧かないか?僕が面白いと思った本をどう読むのか、とかね。」


「そうですね、それは興味深いですね。」


「クローディアはロレンスが幸せにするだろうから、僕は他に幸せにすべき相手を見つけなければならないからね。とりあえず、同じ本に興味がある相手というのがどういう人なのか知ってみようかなと思ってね。」


「おや、若様、前向きですね。」


「昨日のパーティから帰って考えたんだ。僕はどうせいつか結婚しないといけない。それも両親や周囲の納得する相手と。まあ、彼女は伯爵令嬢で、子爵の僕とは家の格が釣り合わないから結婚相手にはならないだろうけど、後学のために交流してみようかと思ってね。」


「いい傾向ですね。」


「これもロレンスのおかげって事になるのかなあ、ロレンスの思う壺だな、これじゃあ。」


「いいえ、私は何も。」


「主人である僕に失恋させといてよく言うよ。あ、まさか、クローディアと付き合っているっていうの、御祖母様と口裏を合わせているだけで、ホントはウソとか??」


「・・・。」


「そういえばまだ、クローディアには聞いてなかった。一応、クローディアに聞いてみようかな?まあ、嘘だとしてもロレンスの事だから、クローディアに口裏を合わせてくれって言ってあるだろうけど。」


「若様、どちらへ?」


「クローディアの仕事場。」


「は?」


「ロレンスの事どう思ってるか聞いてきてあげるよ。」



アンドリューはクローディアがいるであろう仕事場へ向かった。


後ろからはロレンスがついてきている。


「ロレンス、お前がいたらクローディアは本当の事を言いづらいから、ついてくるなよ。」


「いや、しかし・・・。」


「何?」


「クローディアの仕事場は彼女の私室ですから・・・。」


「だから?」


「若様とクローディアが二人きりになるのを黙って見過ごすわけには・・・。」


「は?何?僕が彼女に襲い掛かるとでも思ってるの?」


「いや、襲い掛かるとは思いませんが・・・。」


「こんなに歯切れの悪い話し方をするロレンスは初めてだな。」


「若様、楽しんでますか?」


「そうだな、意外と楽しいよ。」


「・・・。」


「あ、でも、使用人の居住スペースに立ち入った事が御祖母様にばれると怒られるかな。」


「それはもう、間違いなく許されませんよ、若様。」


「・・・。じゃあ、クローディアとテラスでお茶をしたい。準備を、ロレンス。」




アンドリューは使用人の居住スペースにつながる扉の前でロレンスにそういうと、テラスに向かって踵を返した。


「・・・かしこまりました。」


ロレンスはひきつった笑顔を隠すようにうやうやしくお辞儀をしてクローディアの部屋に向かった。



「・・・という訳で、クローディア。若様がお待ちだ。」


「それで、私はどうすれば?」


「まあ、好きにしてくれ。あ、そうだ。若様は、将来はクローディアも子爵家に来て仕立て屋として働けばいい、二人の結婚も認めるよ、とおっしゃっていたよ。」


「は?」


「私と君の関係を大奥様から聞かされたらしい。それで、まあ、そういう・・・。」


「若様は優しい方ね。」


「ああ。私の自慢の主人だからな。それに私の妻となったら君に手は出さないらしい。」


「そんな話をしたの?」


「まあ、一応、釘を刺しておこうかと、ね。」


「ひどい使用人ね。」


「君も主人も両方愛しているから仕方ないだろう?」


「・・・。もうキッチンにはお茶の準備を頼んだの?」


「あぁ、まだなんだ。君も手早く支度を整えてくれ。10分後にテラスへ。」


「ええ、わかったわ。」




10分後、テラスにはアンドリューとクローディアが向かい合って座り、そのテーブルにロレンスが給仕をしていた。


「ロレンス、君が給仕をしなくてもいいと思うんだけど。」


「今、この屋敷の使用人は大奥様とその友人の方々とのお茶会で忙しいので私の給仕でご容赦ください。」


「僕はクローディアとロレンスの内緒話をしたいのに?」


「お話はお好きにしていただければ。」


「クローディア、こんな奴のどこがいいの?」


「・・・意外とやきもちやきな所とかでしょうか。」


「ほんとにロレンスと付き合ってるの?」


「付き合っている・・・というのかわかりませんが、ほぼ毎週どこかに出掛けてます。」


「それって無理やりじゃなくて?」


「多少強引ではありますが、毎回楽しませてもらっています。」


「・・・ロレンスの事、愛してる?」


「ええ。」


「は?」


あっさりとクローディアがそう言ったので、驚いたロレンスが思わず声をあげた。


「なんだよ?ロレンス、そんな声を出して。」


「あ、いや、初耳だったもので。」


「こんな奴だよ?クローディア。それでも?」


「はい。この人は自分の大切な人は全力で守る誠実な人だと思いますから。」


「えー。そうかなあ?どうしてそう思うの?」


「ご主人様の事を話すときのこの人はとても愛情に満ちていて、素敵でかわいらしいんです。」


「・・・。」


「ですから、この人の愛情は信じてもいいと思ったんです。」


「はぁぁぁぁ。何だよ。本当なんだね、二人の仲は。」


「はい。」


「そっか。でも、僕もロレンスなら大事なクローディアを譲ってもいいよ。ロレンスは口は悪いし態度も悪いけど、嘘はつかないいい男だからね。」


「若様、お言葉ながら、さっきまで私を疑ってましたよね?」


「僕のためになるなら嘘もつくだろ?でも、自分に嘘をついて自分をごまかしたりはしないじゃないか。僕が今言ってるのはそこだよ。」


「はあ・・・。」


「普通さ、僕が好きだって言ってる相手とは付き合わないだろ?いくら自分が好きな相手だったとしてもさ。でも、付き合っちゃうとこがロレンスのいいところだよ。それでクローディアもロレンスの良さを分かってくれてるならもう、僕に言うことは無いよね。」


「・・・。」


「クローディア、御祖母様が亡くなって勤め先がなくなったら僕の家においでよ。家はロレンスの両親も結婚してたから、前例もあるしさ。ま、それまで二人が円満だったらの話だけどね。」


「ありがとうございます。」



「さて、じゃあ、僕は伯爵令嬢に贈る本を探しに出かけるから、準備を頼むよ、ロレンス。」


「かしこまりました。」




アンドリューの5連休はこうして過ぎていくのだった。










長い話にお付き合いいただきましてありがとうございます。


アンドリューが結婚するまでは続かせたいと思っています。


また、お時間がありましたらお付き合いくださいませ。

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