表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショートショートショート

影の憂鬱

作者: 田崎史乃

 私は影だ。彼の影。どういうわけか、影である私は『私』という人格を持ってしまった。

 不思議である。

 しかし、彼は知らない。私は影であるから、彼にとっても私は影でしかない。彼と同じように動く私に、彼は気づいていないのだ。それは仕方のないことだ。私は影なのだから。

「よーう。前田」

 おっと。誰かが話しかけてきた。私は影として、様子を見ることにしよう。

「おう。水口、っはよー」

 登校中のようだ。これから学校へ行くのだ。

 実は私は学校が嫌いなのだ。彼と同じく勉強しなければならない。居眠りしてしまえば、先生に怒られるし、無理して友人に話を合わせたり、気になる女子には取り繕わなければならない。それが嫌だ。私はそんなことしたくないのだが、彼はやってしまうのだ。彼の影である私は、彼のまねをして、同じ動きを強いられる。正直つらい。

「っでさー、山崎が言うんだよ。宿題くらい自分でやれって」

「まじで? あいつもケチだな」

 まただ。自分の低能さを棚に上げて、他人を見下す。嫌だ。他人の悪口など言いたくない。

「にしても暑いなー」

「ああ、暑い」

 そんなことを言って何になる? 暑さはやわらぐのか? 私は暑さや寒さを感じることはできないが、そんなことを口に出しても無駄であることはわかる。暑いも寒いも自然現象だ。言って変わるものではない。

「じゃ、またなー」

「おう、じゃな」

 水口とは別れたようだ。たしか別のクラスだ。

 ああ、これから授業が始まるのだ。無意味とも思える時間がやってくる。彼が授業に出なければ、私も勉強せずに済むのだが、どうも彼には、そんな勇気はない。授業をサボって遊ぶということが、彼にはできないのだ。

 それは私にもわかる。彼は自分で自分を縛りつけているのだ。私がそうであるように、彼も同じなのだ。

 他人ばかりに目がいって、己を見失っている。自分がどういう人間なのか。どんな性格なのか。本当のことを彼は知らない。知ろうともしない。多分、知りたくないのだろう。私にはわかる。

 彼は、恐れている。私もそうであるように、彼もまた、怖いのだ。何に恐れているのか、そこまでは私にもわからない。ただ怖くて、動けない。自由になれない。私も彼も。だからこそ、私は彼と同じ行動を取るし、彼も私と同じことをする。私たちは、決して離れられないのだ。

「……だるいな」

 私は今日も、彼の影なのだ。

私は短いものしか書けないのかもしれない。

長いものを書く気がないのかもしれない。

そんなこと読んで下さる方々には関係ないかもしれない。

いや、関係ないです。

失礼しました。


田崎史乃

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ちょっといいかも!史乃さんの作品は合う気がします。 この作品も意表を突いたテーマで興味をひいて、短い中にもテンポよく読みやすくて面白いです。 読み終わってから、思わずガッツポーズをしたくな…
[一言] 影が意思を持つというのは、面白い着眼点ですね(人´∀`).☆.。.:*・゜ 短い話しかかけないとのことですが、ショート・ショートを繋げて、オムニバス形式にすれば長編にもなりますよんw 下手な…
[良い点] なかなか面白い作品でした( ^^) [一言] 私と彼は、正反対であるようで正反対ではないのかな… 私が女性 彼が男性と受取れてしまったのはなぜだろうか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ