放課後スゥイーツ
教室の窓から射し込んできた、やわらかく暖かな光が
私を優しく照らし包みこむ
もう見直しなんて、できないっていうか、やる気がないというか
ああ、この陽だまりの中、眠ってしまいたい・・
気持ち良く意識が飛んで、浮遊して行く感覚・・・
英語のテスト、終了を告げるチャイムが学園内に響き渡った
う~ん。うるさいぞ~
閉じた瞼をこすりながら開けると
眩い光が差し込んできた。
は!あれ?
私、いつの間にか、落ちてた?
あ~やば!答案用紙に、よだれついてるじゃん
急いでポケットからハンカチを取り出し、拭き取った
「はい、みんなそこまで~終わり終わり~」
監視役の3組の石橋先生が、答案を集めだした。
頭が薄くてビジュアルが面白い。
だけどいつも、くだらないオヤジギャグを言っている、憎めない先生だ
今日はテストの監視役なので、ギャグは聞けない。
ま、あまり面白くないから、どうでもいいんだけど。
無事、石橋先生によだれを拭いた答案用紙を渡すことができ、一安心した。
ふ~う、寝起き早々焦っちゃったな・・
額に手を当てて汗をぬぐった
テスト、見直しなんてしてないけど・・大丈夫だよね。
うん。きっとたぶん大丈夫だ。
やっと終わった2日間の中間テスト。
長かったよ~。テストの静かな雰囲気が苦手なんだよね・・
そういえば試験中、カバンの中で携帯が震えてたっけ
誰かから、メールでもきたかな?
カバンの中から、携帯をとりだして操作した。
え~と、メールを確認と・・
あ!来てる来てる!
―――――――――――――――――――――
FROM ペロペロ甘味料
件名 美味しいプリン屋さん見つけました
エミールパルフェさん こんにちはぁ~~(^o^)丿
昨日、とても美味しいプリン屋さんをみつけたの(*^_^*)
まだ、開店したばっかりのお店なんだけどね、早速行ってみました。(^-^)
なんだか、見た目がホストクラブみたいな、変わったお店で、少し入りにくいんだけど、感動的な美味しさでした。(●^o^●)
味はね!どう説明すればいいんだろ・・う~ん、感動しすぎて、ちょっと思いつかない
もう一回食べに行って、じっくり味わってみます
今度、ブログで詳しくレポート書くから見に来てね。
あっそうだ、エミールパルフェさんだけには、特別にお店の名前を教えておくね
「空色プリン」というお店です。
でも「プリン屋」としか看板が出てなくて・・・(しかも、とても小さな看板)
わかりにくいんだけどね。
ちなみに、お店のお休みは、金、土、日の週三日らしいので、気をつけてね(*^^)v
それではまた、美味しいお店があったら、メールするね(^^)
わあ!ペロペロ甘味料さんから、メール来てる嬉しいなぁ
ふ~ん、メールを読む限りでは、変なプリン屋。
休み多すぎだし、ホストクラブみたいって、超~気になるー
メールを見ながら、ニヤニヤしてると
「あの~滝川さん、ちょっといいかな」
耳元から遠慮がちな、囁き声がした
私はあわてて携帯をしまった。
うわ!!びっくりした。いやホントびっくり!!
だけど、落ち着いて確認すると、葉澄だった。
「なんだ、葉澄か・・・びっくりさせないでくれる?」
少しイラッとした私は、強めの口調で葉澄に言った
「ごめんなさい。びっくりさせるつもりはなかったんだけど・・ところで今、携帯で何見てたんですか?」
葉澄は薄らと笑みを湛えた。
こいつ、私がイラついているのがそんなに楽しいか?
「葉澄には関係ない。それより!気配を消して近づいてこないでよ!!」
「最近気配を消して近づくことに凝ってまして・・僕の家のコタローも僕の忍び足に気づかないぐらいですから」
「ああ、あのバカ犬か・・あまり、ペットをビビらせるなよ。で?何か用?」
「バカ犬じゃないよ!それに何か用?って冷たいなあ、まあいいですけど・・え~と、用というか確認なんですが、滝川さん今日は部活、くるよね?」
えっ?今日は全く行く気無いんだけど・・・・
親切心から、言っているのか分からないが、全くおせっかいな奴だな・・
私には大事な用がある
だって冷蔵庫でキンキンに冷やしてある、あれを食べないといけないからね。
さてと、どうやって断るかな
「え~と、今日は何作るんだっけ?」
まあ、面白そうなお菓子を作るんだったら、顔を出すぐらいならいいぞ
「オムライスをみんなで作るみたいだよ」
「なんだ、オムライスかそんな簡単な料理作ってもねえ・・」
「オムライスも奥が深いと思いますけど・・」
「まあ、色々あるよね」
この話題にあまり付き合う気がなかったので、力のこもらない相槌を私はうった
それに対して葉澄は真剣に答えてきた
「そう、卵のふんわり感一つとっても、色々あるじゃないですか。たとえばさ、卵の種類を2種類使ってオムライスを作ると面白いんですよ」
「・・・いかない、面白くなさそうだから・・」
まったく興味がわかない。
「もう、滝川さんはホント、お菓子を作る日しか来ないね」
「いいでしょ、お菓子好きなんだから。余計な御世話だよ」
「すみませんね、余計なお世話で・・ああ、それにしても、まいったな・・」
葉澄が困った顔をした
「何が参った?」
「いえ、滝川さんの分もお弁当作ってきたんです、部活前に一緒に食べようと思って」
「あのね、頼んでないのに勝手に作ってこないでよ。しかも、今日テストなのに、よくそんなもん作る暇あったね。あっ!頭いいから勉強しなくても大丈夫か・・」
そう言いながら、私はわざと不愉快そうな顔を作って、葉澄に言ってやった。
「そんなに作るのに時間はかかりませんよ、30分もあればできますよ」
さらりと葉澄は私の皮肉を受け流す
「へぇーすごいね流石は弁当男子。尊敬する・・でもね、私はね今日は家に帰ってやることがあるの」どや顔で私は言った。
「また、お菓子作り?」
「違うんだな葉澄!!お菓子作りは終わっている。一週間前に仕込んだ洋酒ババロアが今日、熟成完了なのだ。というわけで、今日は試食しなければならないという崇高なミッションがあるのだ。部活に行っている暇なんてあるわけないよ」
テレビを見ながら最高に美味しいお菓子を食べる、ああ考えるだけでなんて幸せなんだろ
「聞いただけでおいしそうですね」
「美味しそうじゃなくて、美味しいに決まってるよ。私の作るお菓子は君の作る料理とは根本的に別次元のレベルなのだ。わかったかい?」
「わかったかい?って言われてもなあ・・」
葉澄がそう言ってると・・担任の先生が教室に入ってきた
「あっ、そろそろ帰りのホームルーム始まるよ。葉澄!席に戻った方がいいぞ」
「そうですね。はあ~弁当どうしようかな・・余っちゃうよな・・」
ブツブツとそう呟きながら、残念そうに寂しげな表情で私を見た。
ったくしょうがないな、そんな拾ってくれと言わんばかりの、子犬のような目で見るなよ
「わかったわかった、まあ、そのなんだ・・部活は行かないけど弁当だけはもらっていくよ、葉澄の弁当はまあまあ美味しいし、腐らしてもしょうがないからね、弁当箱は明日洗って返すからさ」
実際、葉澄の弁当はそこらへんの弁当屋より美味しい。
「ホント?じゃあ、ホームルーム終わったら持ってきますね」
さっきまで、死んでたような顔をしてたのに急に満面の笑顔になった。
今までのは演技か?何なんだよコイツ!わけわかんない。
担任の先生からテストお疲れ様とか、今日はゆっくりしてとか、そんな感じの話で帰りのホームルームは終わった
え~と、教科書は全部置いて帰ろうかな・・テストも終わって、どうせ勉強しないしね
机の中iPodや、任天堂3DSを適当にカバンにつめて帰る準備をしていると
私の前の席の柏木さんのところに西野さんがやってきた。
「アミっち~どう?できたかにゃ~?」
西野さんが右手を振りながら親しげに柏木さんに話しかけた
この凸凹コンビは見てると面白いんだ。
それにしても・・
どう?できたかにゃ~?じゃないよ、まったく。
私の知る限り柏木さんは、とても頭が良くて1学期の中間テストも期末テストも、学年トップ!なんでこの高校に入ったんだろ・・ってぐらいのお方だぞ!
しかも私の長年の人生経験だと、柏木さんは世の中を斜め上から見下ろしている感じがして、なんだか、近寄りがたい存在なんだ。
授業も受ける前から、内容が全部分かっているような感じで、先生達もやりにくいみたい。
私が先生だったら、絶対こんな生徒いてほしくない。
だって、自分より絶対優秀そうなんだもん。
そんな柏木さんにアミっちなんて呼ぶのは、西野さんだけだ。
西野さんはどう見ても頭が悪そうだけど、スポーツは万能、スポーツ推薦でこの高校に入ったんだったかな。
体育の時間、その動きに圧倒されるし、お昼休みは男子に交じって、サッカーをやってるぐらいだ。
たぶん、そこらへんの男子よりも運動神経がいい
タイプが全然違う二人のやりとりに、聞き耳を立てるのはすごく楽しい。
2学期に入って、この席になってからの、私の密かな楽しみだ
「ええ、勉強したところが、ちょうどでたので、結構いけたんじゃないでしょうか。ユナさんはどうでした?」
教科書をカバンに綺麗にしまいながら、にっこりとほほ笑み、柏木さんは言った。
勉強したとこがでたって?結構いけたって?柏木さんはいつも断トツでトップじゃんか・・
嬉しそうに西野さんは「え~~ユナに聞いちゃうの~?」なんて言ってる
特に聞きたくないよ・・西野さんはどうせ私と同じで赤点すれすれでしょ
「じゃあ、聞きません」
やっぱりね!柏木さんも興味ないみたい
「え~聞いてよぉ なんとか追試はまぬがれそうだよ~。頑張って徹夜したもんね」
え~徹夜して、そのレベル?超ウケル!!。
私なんかテスト勉強、1教科1時間しかしないんだけど・そのレベルいってるんですけど。
いつも、どれだけ授業聞いてないんですか、西野さんは
「日頃から頑張っておけば、徹夜なんかする必要ありませんよ」
そうそう。柏木さんの言うとおり
「私は短期集中型なのだ。ところで、ねえアミっち~今日でテストも終わったし、お疲れ様パーティーやろ~」
「あのですね、ユナさん、ほとんど勉強してないのに、お疲れ様パーティーってなんですか」
そりゃそうだ。全然疲れてるようには見えない
「そんなこと、いわないでよ~アミっちい~、私の部活は今日までテスト休みで暇なのだ」
え~と西野さんは何部だっけ。陸上だったかな
「そうですか、部活がお休みなんですね。それでは、久しぶりに一緒に帰りましょう。気分転換にスタバにでもいきましょうか?」
スタバかぁ~私も、たまにはキャラメルマキアート飲みたいなあ
やっぱりグランデサイズ頼んじゃうよね
「えへへ、実は今日はさ、スタバじゃなくてプリン屋さんに行ってみない?」
「プリン屋さん?ってまさかあのお店ですか?最近できた変な雰囲気の・・」
柏木さんの顔色が変わった
変な雰囲気?気になる!
「そうそう、だって帰り道にあるんだからアミっちだって気になるでしょ。
今日行かないと、これからも毎日気になるよ」
ああ、そうだこの二人同じ中学の出身だったけか
「気になりません」
いや、私は気になるよ
「気になる気になる気になるよ~」
西野さんは連呼する、ワクワクした目で柏木さんを見つめながら
わかるわかる、絶対絶対、私も気になる。もしかしたら西野さんとは気が合うかも
「でも、あの外観は入りにくいですよ、実際。お客さんも入ってるとこ、見たことありませんし」柏木さんが困惑した顔でそう言った。
入りにくい外観のプリン屋さん?それってもしかして・・
さっき見たメールが真っ先に頭をよぎった
「だ~か~ら!私たちが真っ先に偵察にいくのだぁ」
西野さんがそう言いつつ柏木さんの手を握った
「あのっ!!私も行きたい!!」思わず私は身を乗り出して叫んでしまった。
西野さんはびっくりしている。柏木さんは・・ちょっとだけ瞬きをした。
だってだってだって、本当に行きたかったんだもん
「あっ、いきなりゴメンなさい。柏木さんと西野さんの話が聞こえちゃって・・私もプリン屋さんに行ってみたいな~なんて、思っちゃったんで」
「あ~滝川さん、お菓子好きだもんね。じゃあ、一緒にいこ。というわけでアミっち、三人で行くことに決定いぃ」
と、嬉しそうに西野さんは言う
「・・・・まあ、滝川さんが一緒に行ってくれるのなら、心強いですね。3人なら、お店に入る勇気も出ます」
しょうがないなというような感じで柏木さんが折れた
「そんなに入りにくいお店なの?柏木さん」
「ええ、プリン屋さんの前はそのお店キャバクラだったものですから。プリン屋さんになってからも全然改装してませんし」
やっぱりそうだこのお店はさっきペロペロ甘味料さんが教えてくれたお店だ。
「そのお店、絶対美味しいよ。ペロペロ甘味料さんが言ってたから」
「・・・・」柏木さんが無言で首をかしげた
「・・・ごめん、意味分かんないよぉ、ペロペロ甘味料さん?って」
西野さんが笑いながら私に質問してきた
しまった、つい普通にブロガーネームを言ってしまった
あ~熱い熱い思わず顔が紅潮したのがわかった
「あ、え~とね、ペロペロ甘味料さんっていう人はね。デザート紹介ブログで人気ナンバーワンのブロガーさんです。わたし、メル友なんです。オフ会でも会ったことあるし」
私は慌てて簡単にペロペロ甘味料さんの説明を2人にした
「ほえ~会ったことあるんだにゃ?どんな、人なの?」
西野さんが続けて聞いてきた。
「デパートの受付嬢さんです。あ、とても綺麗な人だよ。最初はデパ地下のデザートを紹介するブログだったんだけど、今では東京都内で新しいお店ができたり、新商品が出たらすぐチェックをいれるブログになってるんだ。で、デザートをとっても詳しく紹介というか・・味を詳細に説明してくれるので、女性だけでなく理論派の男性なんかにも人気なんだ」
柏木さんがちょっと安心した顔で
「その方が、先ほど私たちが話していたお店を紹介していて・・。ということは美味しいことはほぼ間違いないというわけですね」
と聞いてきた。
「うん、それは、間違いないとおもう。ただ、ブログで紹介していたわけじゃないんだ。まだ、記事はアップされていないと思う。私宛にメールが来たんだ」
私は2人にさっき来たメールを見せた
あれっ?柏木さんも西野さんもなんだか笑いを堪えている。
「あのぅ~エミールパルフェって、もしかして滝川さんの事かにゃ?」
おい西野さん!そこは突っ込まないでくれ
「そ、そうだけど」
「あはは、あひゃひゃにゃ~」
西野さんがおなかを抱えて笑いだした
「滝川さんのお名前、絵美留さんですものね」
柏木さんは冷静だ・・
「あ~お腹痛い!!よ~し、これから滝川さんのあだ名はエミ~ルなのだ」
西野さんが笑い転げながら言う
「フフ・・今日はお付き合い、よろしくお願いいたします。エミ~ルさん」
柏木さんまで・・
くっそ~じゃあ私も二人にあだ名つけちゃうもんね!!
「もう!じゃあ私もユナぽんにアミアミって呼んじゃうよ?」
あ、勢いで言っちゃった、怒るかな?
「いいですよ。エミ~ルさん!」
穏やかな口調で柏木さんが言う
よかった~怒ってない。
柏木さんは西野さん以外からあだ名で呼ばれているところを見たことないから、心配しちゃった。だって、あまりにも頭が良すぎて近寄りがたいんだもん。ゴメンね・・
「ポンってなんの意味?」
「いや~イメージかな」
西野さんの頭の中がスカスカで叩いたらそう言う音がしそうだからだよ
「どういうイメージなのかわかんないよ~ん」
分からないほうが身のためだぞ
「ま、まあいいじゃない、可愛くて」
「そうだよね~可愛いね~ありがと、エミ~ル!」
「いえいえ、どういたしまして」
「よかったですね、ユナさん。ところで、たしか・・エミールさんは私達と帰宅する方角が逆方向ですよね、大丈夫でしょうか?」
「ぜ~んぜ~ん問題ないよ、アミアミ、心配してくれてありがと!」
「あの~」
!!!
「うわっ!!葉澄!!またびっくりさせるなよ。今日二回目だぞ!」
いきなり私の後ろから話しかけるんじゃないよ
「ハスミ~!ユナもびっくりしたにょ~」
西野さんもちょっと息を切らしながら言う
「あら、葉澄君。面白い登場の仕方ですね」
柏木さんは一瞬不意を突かれたような顔をしたが、すぐに軽く会釈をしてほほ笑みながら出迎えた。
このお方はびっくりしたところを見たことがない
「すみません、柏木さん。西野さん。僕も一緒に行っていいですか?そのプリン屋に」
「おい、葉澄、料理部はどうするんだ?」
「ずるいですよ!滝川さんだって今日はババロアの試食で暇じゃないって、言ってたじゃないですか」
「プリンとなれば話は別だ。しかも私の崇拝している、あのお方のお勧めの店だぞ!」
「僕だって、そのペロペロ甘味料さんの絶賛しているプリン屋に興味があります。」
「あっ、葉澄もペロペロ甘味料さんのファンだっけ?」
「そうです。僕も彼女のファンです。それに滝川さんとはたまに話す機会があるけど柏木さんや西野さんとはこんな時しか一緒にいる機会がないので部活も大事だけど、こういう日があってもいいかなって思ったんです」
なんだか、行きたい理由が説明くさいな・・もしや、こいつ柏木さんか西野さんに興味があるのか?そう思ったとき・・
「よぉ~し、細かいことはぬきぬき。ハスミーも一緒に行くぞ~ぉ」
西野さんが私と葉澄の言い合いの仲裁に入った
「男性がいると頼もしいですね」柏木さんも葉澄の同行を歓迎した
こいつは頼れる男じゃないですぞ、柏木さん。
「あ、そうだ、そのプリン屋って、ここからどれくらいかかります?」
葉澄が柏木さんと西野さんに聞いた。
「50分くらいかな」
西野さんが答えた。
「そっか、到着は14時くらいか・・あの、よかったら皆でお弁当食べていきませんか」
いきなり何を言い出す葉澄!!
「おい、葉澄!私は早くプリンを食べに行きたいのだ」
「デザートの後でお弁当を食べるのも変でしょ」
もっともらしい事を葉澄は言った
「まあ、確かに!デザートを食べた後、弁当は食べたくないね」
「ユナはハスミーの弁当食べたいぞ~ぉ」
「私も、葉澄さんの弁当一度味見してみたいですね」
二人とも葉澄の弁当に興味津々だ。
弁当を食べながら4人で話し込んでいるうちにいつの間にか騒がしかった教室が静かに・・
「みんな帰るの早いな~」
「私達が遅いんじゃないでしょうか?」
そう言いながらチラリと柏木さんが腕時計を見た。なんだか綺麗な時計・・・
「もう3時だにゃ」
「さあ、そろそろ、行きましょうか」
「ハスミ~ごちそうさま」
私たち4人は学校の外へと一歩出た
テスト中のまどろみの時感じた、秋の気持ちのいい気温が肌を通る。
空を見上げた・・鮮やかな色が広がる
わ!すごい秋晴れ!絶好のプリン日和!!
駅を降りた後、商店街を通り抜けまたしばらく歩いた。
どの高校も今日は中間テスト最終日なのだろうか、ゲームセンターや喫茶店に入っていく高校生の姿が目立つような気がした
店まで行く途中歩きながら携帯で
食べログをチェック・・してもコメントは0件
そりゃそうだ。まだ開店したばかりだもんね
あ~なんだか不安になってきた
「ねぇ~アミアミは、部活やってないんだよね?いつも放課後は何をしているの?」
「そうですね~わりと本屋に行くことが多いですね、新宿で途中下車して紀伊国屋書店に寄ったりもします」
「どんな本を読むの?」
学年トップの柏木さんが読む本にとても興味があった
「そうですねぇ、本というか・・ファッション雑誌が多いですね」
本当か?てっきり参考書なんかを読み漁っているのかと思った。
それにしても、全く柏木さんの私服のイメージがわかないんだけど・・
でもファッションと聞いて思わず、さっき教室で見た柏木さんのしている腕時計に目がいった。
唯一、制服じゃなくて、私物アイテムと言ったら腕時計だったから・・
「ああ、これですか?」
私の目線に気づいた柏木さんが腕時計を指した。
「綺麗で可愛いい時計だね」
でもよく見ると大人の女性がつけるブレスレットのようなお洒落なデザイン
卵型のフレームがピンク色をした小さな時計・・・
「ありがとうございます、この時計、私のお気に入りなんです。制服と合わせるといいなって雑誌を見て思わず買ってしまいました」
「アミアミによく似合ってるよ」お世辞じゃなくホントに・・・
そんなこんなで、ガールズトークをしながら歩いていると
あっという間に・・・店に到着~!!
うっ、これは、確かに入りにくい。プリン屋のイメージと違うくない?
本当にまんまキャバクラじゃん
あ~みんなと来てよかったぁ。
「さて、この一筋縄にはいかない怪しげな外観!どう攻める?」
私はみんなに聞いた。これは絶対作戦を立てたほうがいい。
中にはヤバい連中がいるに違いない!
「よぉ~し、ハスミー突撃するぞぉ~私に続けぇええ」西野さんはそう言って、
店のドアを指差し突撃の合図をした。そして躊躇せずにドアノブに手をかけた
えっもう行くのかよ!というか私の話、聞いてないじゃん!!
でも、こう言うときは何も考えない方が得なのね
「は、ハイ、西野さん。ついていきます」
お~葉澄も行った。だけど少し不安が顔に出てるぞ。
「お!葉澄男らしいぞ、いけ~。アミアミもどうぞ。わたしはしんがりを務めます」
「エミ~ルさん。別に後ろに敵はいないと思いますが・・」
「いやいや、アミアミ。油断は禁物ですぞ。この得体のしれないプリン屋。普通じゃないですからね」
そう言ってる間に西野さんと葉澄が店に入ってしまった。
「もう、二人とも行ってしまいましたよ。私たちも行きましょうか」
「そ、そうだね」
「いらっしゃいませ」
入っていきなり不意を突かれた。
いや、ある程度の変な人がいることは予想して、心構えは持っていたつもりだけど・・・・
黒のスーツに薄いグレーのサングラスをつけたイケメン店員が頭を下げ挨拶をしてきたのだ
店の中も完全にキャバクラだ・・
いやキャバクラなんて行ったことないけど、テレビでよく見るキャバクラはこんな感じだ。
まてよ、見渡すと店員は6人、しかも全員男で同じ服装
キャバというよりホストクラブだな・・テーブル席は20席以上ある。
当然席は全く埋まっていない。
「ねえねえ、お客さんって私たちだけ?」
西野さんが店長らしき男に聞いた。
というか店長だ。
だって店長って書いてある大きなバッチを、胸の目立つところにしているんだもん。
へぇ~牧島さんっていうんだ。
超イケメン・・いや、残りの5人もかなりイケメンだ。
グレーのサングラス越しで目が何とか見える程度だけど私にはわかる
私のイケメンセンサーがビンビンに反応している。
「今日はあなた方が初めてです。久しぶりのお客様でして、開店してから、あなた方で5人、6人、7人、8人目です」
「そんなにすくないの、私たち4人で半分行ってるじゃん!大丈夫か?このお店」
しまった!本音を思わず口に出してしまった。
「あら、意外と多いじゃないですか、こんな外観でもお店に入ろうと思われる方がいらっしゃるんですね」
私の発言にかぶせるように柏木さんが店長の牧島さんに店の外観を遠まわしに注意したというか嫌味を投げた
あ~柏木さん、怒らせちゃダメだよ。
うっかり失言の私が言うのもなんだけど・・こんな謎の組織、敵に回すと厄介だぞ
残りの5人の店員は微動だにせず直立不動でこちらを見ている。
なにか、いちゃもんをつけられるのではないだろうな・・ちょっと怖いぞ
そんな心配をよそにやさしく丁寧に牧島さんは説明してくれた
「いえ、うちのプリンは味で勝負するのがコンセプトですから広告も配っていませんし、お店の外観にも力を入れていません。これから口コミで徐々に美味しさが広まっていけばいいと思っているんですよ」
それで、まんまキャバクラなんだな
「なんでキャバクラの跡地に店を出そうとしたの」
「潰れたお店で格安で譲ってもらえたからです」
なるほどね、そういうわけか・・
「ところでプリンはどこですか?」
入口にはプリンらしきものが見当たらなかったので私は聞いた
「キャバクラの時バーカウンターがあったんですが、そこで販売しております。それではご案内しましょう」
よ~し、いよいよプリンとご対面だ・・たのしみぃ~さあ、みんないくぞ~・・・と
あれ、西野さんがいなくなってる?
トイレにでも行ったか?まいっか。
って、もうプリンの前にいるし!!でも、あれ?何だか様子が変だ。
プリンが綺麗に陳列されているショーケースの前で西野さんは泣きそうな顔をしていた
財布の中身とプリンを交互に見ながら・・
まさか、プリン買うお金、持ってきてないのか?
最初に柏木さんとプリン屋に行こうと言ったのはあんただぞ!と思いながら
「どうしたの?ユナぽん」と優しく聞いてみた。
「うぇ~ん、お金足りないよ~」
もう、泣く一歩手前だ・・
値段を見ると税込1200円
高っっっつ!!!!
「ユナ720円しか持ってないよ」
そういいながら西野さんは縋るように私と葉澄、そして柏木さんを見つめた
えっ720円ってあんた3歳児か?
今時の幼稚園児だって1200円ぐらいは持ってるぞ。
まったく!仕方ないな、ここはお金貸しておいてやるか。
ここまで折角来たんだから。食べて帰らないと後悔するでしょ。
私がそう考えていると
「大丈夫ですよ。ユナさん今日は私が出しますから」あっさりと柏木さんが言った。
しかも貸しではなく奢りだ。何という男気・・
「ほんと?わ~いありがと~アミっち大好き大好き~、このご恩は一生忘れないよ~」
さっきまで泣きそうだったのに別人のような妙に明るい声で言った
おいおい、切り替え早いな~
それにしても、たった1200円で一生忘れないのかよ、適当なこと言ってんじゃないよ
「よかったら、エミールさんと葉澄君の分も私が出しますけど」
え?マジですか・・柏木さんの舎弟になりたくなってきた・・
柏木姉さんに付いていきます。でも・・・ダメダメ!
「いやいや、わたしが勝手に二人についてきたんだから悪いよ、それに私は二つ買うから」
「二つ?」柏木さんと西野さんは不思議そうに私を見た
「今食べる用と、家で研究する用」葉澄が横から私が二つ買う理由を言った
そう!!わたしはデザート研究家!自称だけど・・
どんな、デザートも二つ買いは日常なのだ
「僕も大丈夫、お気遣いありがとうございます柏木さん」
「せっかく四人で来たんですから、お店で食べていきましょうか」
柏木さんが提案した。
「店長さん。お店で食べれる?」西野さんがため口でイケメン店長に聞いた
「もちろんですよ。ごゆっくりどうぞ」
おいおい、もしかして席料なんか取るんじゃないだろうな
一人30分3000円とか・・
「あの~ここってお酒なんか出ないですよね」
念のため、心配なので聞いてみた
「申し訳ありません、このような内装のお店ですが。お酒は取り扱っておりません」
「エミールさん、私たち未成年ですよ」
柏木さんが真顔で爽やかに私に突っ込んでくる
わかってますよ。
ちょっと別料金取られないか牽制入れただけだよ
「コーヒー、紅茶や緑茶などのお飲み物ならサービス致しますが、いかがいたしましょう」
「では私は紅茶をお願いいたします」柏木さんが言った
「じゃあユナも」
「あっ僕も」
「えと・・私はお冷お願いします」
「エミールお水好きなの?」
西野さんが聞いてきた
ふっ愚問だな、初体験デザートを味わうには水が一番なのだ
「まあね、プリンを味わうのはお水が一番よ」
「通ですね、エミールさんは」
席に着いてしばらくすると
青色の瓶に入ったプリンが運ばれてきた
それと紅茶が3つと水が1つ。
「それでは、中間テストのお疲れ様会をかねて・・乾杯っ!」
西野さんが音頭を取った。「乾杯!」私たちがそれに続く。
私だけ水で乾杯した。
でも紅茶で乾杯ってのもおかしいだろ!
「あら、いい香り」
ティーカップを口元まで運んだ柏木さんが紅茶の香りを褒めた
「ホントだ」
葉澄も同意する。
私も紅茶にしておけばよかったかな・・と思ったが、あれ?
旨いなこの水・・どこのミネラルウォーターだ?でも今はプリンに集中!!
それにしても綺麗な瓶だ。プリンを包むのは透明な澄みきった青空の色・・
瓶に見とれている間に、一番最初に手を伸ばしたのは柏木さんだ。
ピカピカのスプーンで丁寧にプリンをすくいあげ一口食べた。
そして空色の瓶に残っているプリンを見つめながら思わずため息を漏らした。
「あぁっ~」
なんだか色っぽいぞ、女の私が見てもドキッとした・・
「美味しい・・・あの、あと4つ持ち帰りで貰えますか」
柏木さんは一番若そうな店員にそう注文した。
「かしこまりました」
あれ、声を聞くと、さらに若く感じる・・まだ10代だろうか・・
「お父様とお母様、それとお姉さまにお土産です。そ、それともう一回、私も食べたかったので・・」少し恥ずかしそうに柏木さんは言った
そんなに美味しいのかよ!!食べて3秒で即決かよ!!
「うわ~~~~~~~~おいし~~~~~~」
西野さんが叫んでる。というか絶叫している
「ユナさん、声大きいですよ」
流石は柏木さん常識を心得ていらっしゃる。
「ほんとうだ、これは・・・」
葉澄も顔が真剣だ・・料理魂に火がついたか?
これは本物だな・・
さて、わたしも最初の一口を食べるとしようか
ミネラルウォーター喉に流し込み、口をゆすいで
満を持して私は柔らかなプリンをスプーンですくい上げ口に運んだ
あれ?なんでだろ・・・・・・・・涙がでてきた・・
私はいままで、いったい何をやってきたのだろう。
なんちゃってデザート研究?とかやっていたのが無意味に思えるぐらい。
いや!むしろ、今までの人生自体が無意味に思えるくらい
絶望的な美味しさ
わからない。なんの素材でどう作ればこんな味が出せるのか
「大丈夫ですか?エミールさん」
私の涙を見て心配した柏木さんが声をかけてきた
「・・・・」
だけど、何も話せない・・声を出す余裕がないのかもしれない・・
「どうした?エミール?」
西野さんも私を心配している。
はっと我に返った!
「だ、大丈夫!!ごめんびっくりさせちゃって・・」涙を手で拭いながら私はそう言った。
本当は全然大丈夫じゃない。
なんだろう、感動と悔しさが一緒に来る感覚・・
「ハンカチ使ってください。エミールさん」
綺麗で高そうなハンカチを私に差し出した
「ありがと、アミアミ!でも自分のハンカチあるから大丈夫だよ」
よだれで汚れた答案用紙を拭いたハンカチをポケットから取り出した
「滝川さん・・これ・・凄いね・・」
葉澄だけは私がなんで泣いているのかわかっていた
「うん」一言だけ言うのが精いっぱいだった。
「何を使っているんだろ・・」そう言いながら葉澄はプリンをもう一口味わった
わたしも涙を流しながらスプーンに山盛りに載せたプリンを口いっぱいにかき込んだ。
食感、味、香り・・すべてを感じるために・・
黙々と一点を見つめプリンを味わう
舌で転がし、奥歯ですり潰したり、のどごしを確認したり・・
最高・・至高・・・究極?なんて表現したらいいのだろう
ペロペロ甘味料さんが感動しすぎて味を説明できないといった理由が今ならよくわかる。
ただ、この美味しさは夢の世界の話ではなく、紛れもなく今ここにある現実だということを2口目を食べて再認識した。
「プリンっていうのは使う材料は限られているはずですよね・確か・・卵に、牛乳、グラニュー糖・・バニラビーンズ」
柏木さんが言う。
「あとは生クリームとかレモンの皮、粉ゼラチンを使う時もあります、でもこのプリンはそういったたぐいのものじゃなく、とてもシンプルです」
葉澄が困った顔をしながら言った。
「そうだね、柏木さんの言った材料しか使ってないね。このプリンは」
なのに、なのになんでこんなプリンが作れるの?作り方に秘密が?あるのかな・・
「あ~~~~~おいしかったああああ。ご馳走様でした」
西野さんがとても笑顔になっていた。
いいな、あんたはなにも考えずに食べれて、いや本来何も考えずに食べるのが普通か・・
「たぶん僕の推測なんだけど、このプリンは卵のブレンド、牛乳のブレンド、砂糖のブレンドをしていますね。どんなブレンドかは全く見当が付きませんが」
「おお!そうか!同じ素材を何種類も使っているわけか。すごいな葉澄。少し見直したぞ」
それにしても、大分見直したよ葉澄、ブレンドを明言したところ!
私はブレンドしていることすら気づかなかったよ
「僕、卵焼き作るとき、そういう感じでたまに遊んでるんだ」
なるほどたまに貰う葉澄の弁当が旨いのはそういうわけか
ブレンドブレンドっと脳内メモ帳に書きこみ完了だ・・
「あ~明日から部活また頑張れそうだにゃ~このプリンで充電完了!!」
西野さんはガッツポーズを作っている。すごいなこのプリンの力は・・
「私はお店を外観で判断したことを反省しなくては・・こんな素晴らしいお菓子との出会いがあるなんて、今日はなんていい日なんでしょう。エミールさんともお友達になれましたし」柏木さんが私とプリンを交互に見ながら言った
私はプリンのついでかい!
だけど、今日はなんていい日ってのは同感だ。
私は今日生まれ変わったのだ、このプリンを食べて新たな目標ができた。
絶対に越えてやる!!このプリンを・・そのためには・・
「な、なあ葉澄。」
「なんですか滝川さん。」
「今度私に料理教えてよ、卵のブレンドとかさ・・」
そう!もっと、いろんな料理を学んで知識を取り入れていかないと柔軟な発想ができない
「どうしたんですか?急に・・気持ち悪いなあ・・僕の知っている卵のブレンドを教えてもいいですけど卵焼き用ですよ」
「い、いいんだよ、それで」
「分かりました。いいですよ!料理部でいつでも待ってます」
「ああ、お菓子じゃない日でも、暇な日はなるべく行くようにするよ」
柏木さんが優雅に紅茶を飲み終わりソーサーにティーカップを置いた
「ご馳走様でした」と私たち4人は手を合わせた
幸せの余韻がまだ体中に響き渡っている
「お味は、いかがでした」
店長の牧島さんが私達に聞いてきた。
「と~っても、おいしかったぁ~最高でーすぅ」西野さんがテンション高めに言った
「あの、このプリンって卵や砂糖を何種類も使ってますよね?」
思い切って聞いてみたら
気のせいか牧島さんのサングラスの奥の目が少し光ったような気がした。
「ええ、そのとおりです。素晴らしい味覚ですね」
ちょっと驚いた表情を見せて店長の牧島さんが答えた。
見破ったのは葉澄だけどな
「レシピ教えてもらえないですか?」
もっと思い切って聞いてみた。
「申し訳ございません。当店の売りは味だけですので、企業秘密です」
「そうですよね~すいません変なこと言っちゃって」
まあいい、家に帰ってお持ち帰りのプリンで研究だ。
「いえいえ、今後とも御贔屓に、またのお越しをお待ちしております。」
店長の牧島は頭を下げて席を外した
「また、4人でこのお店にきましょうね!」
柏木さんが言った。
「お~毎日でも食べたいにゃ~」
「もぅ~ユナぽんは毎日行くほどお金ないでしょ」
きっぱりと事実を告げてあげた
「にゃはは、確かに。毎日行きたいけどお小遣いが足りないのだ、それに明日からはユナは毎日部活だったのだ」頭をかきながら、照れくさそうに言った。
「僕たちも部活でしょ?ね滝川さん。」
「そ、そうだったな」
確かにまずは部活で葉澄の料理技術を盗まねばならない
それが私のデザート道・・・
「それじゃあ、今度は期末テストが終わった日にまた来ませんか」
葉澄が今度行く日を提案した
「それまでに、1200円用意しておくのだぞ、ユナぽん!」
「了解だにゃ。エミールパルフェ殿!」
あ~その名前は忘れろ!!っていうか変なことに限って物覚えがいいな。
クラスに広めるんじゃないぞ!ユナぽん!
最後までお読みいただきましてありがとうございます。
この小説は単独でも楽しめますが、「空色プリン」という小説の短編です
お時間がありましたら「空色プリン」の方もよろしくお願いいたします。