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シュガ美VS塩辛さん(5)

『もしもし?』


 放送終了後、さっそく千佐都が通話ボタンを押すと、先ほどのテンションとは全然違った「塩から」さんの声が返ってきた。


「あたしだけど。さっき権左右衛門って言った」

『ああ。はい、どうしたんですか? もう放送終了しちゃいましたけど』

「実はあたし、シュガ美だから」

『……はい?』

「あたしがシュガ美だ」

『………………』


 沈黙する「塩から」さん。

 やがて、


『――えええええええええええええええええええええっっっ!』


 鼓膜が破裂するんじゃないかと思う「塩から」さんの絶叫に、すぐさま春日がスピーカーのボリュームを下げる。


『嘘ですよね? そんな、え。じゃあまさか、さっきの放送も見てくれてたんですか?』

「うん」

『ええ……そんな、恥ずかしい。私、結構ブリッ子キャラでやってるから』


 それを平然と公言してしまうのもどうかと思うのだが。


「まぁちゃんと見てなかったから、そこら辺の事情はよく知らないけど。てか、そんなことより、あなたがアップロードした動画のことでさ」

『はい?』

「あたしらの曲の歌詞を変えて動画にしたヤツ」

『ああ、はいはい。聴いてくれたんですかぁ?』

「聴いた聴いた」


 いくらか面倒くさそうに答える千佐都。


「それで聞きたいんだけど、どうして歌詞を変えたの?」

『? はてどうしてというのは?』

「いや、だって大本の歌詞があるでしょう。あたしが作ったヤツ」


 ……さて、ここからだ。

 月子も、それ以外の全員もごくりと唾を飲み込む。


 この返答次第で、千佐都は荒れる。誰もがそう確信をしていた。まるで嵐の前の静けさ――そんな沈黙の空間がシュガ部屋を支配していた。


 少しの間の後、塩からさんはさらりとこう言った。


『――え。いけなかったんですか?』

「……むしろ、どうしていけなくないと思ったワケ?」


 ぴきぴきと千佐都の後ろ姿から、そんな音が聞こえそうだと月子は思った。


『だって、私も一度、歌詞を書いてみたかったんですよねぇ』

「そういうことは、自分で曲を作ってくださいな。あたしらの曲を使って、勝手にそういうことをしないで欲しいんです」

『でも、そんなにマジなわけじゃないんですよ? 私はその、軽い気持ちで――』

「軽い気持ちなら、なおさらやめてください」


 きっぱりと千佐都が言い切ると、再び沈黙が訪れた。


『……もしかして、シュガ美さん怒ってます?』

「どちらかといえば、ね」


「――どちらかといえばじゃなくて、ガチ切れだったじゃんか……」


 悟司がぼそりと呟くと、たちまち千佐都の鋭い視線が飛んできて、悟司はそのまま小さくなった。ああやっぱり怖いなぁちさ姉は、と月子が心の中でそんな風に思っていると、


『……すみません』


 スピーカー越しに、しゅんとしている「塩から」さんの声が聞こえてきて、その反応に少しだけ思うところがあったのか、千佐都も幾分口調を和らげてマイクを握り直した。


「あたしらの曲を好きでいてくれるのは、とても嬉しいよ? でもね、やっぱりこちらも真剣に作った曲だからこそ、さっき『塩から』さんが言った軽い気持ちで行動に起こされちゃうとすごく困るんだ。あたしの言ってる意味、わかるかな?」

『……わかります』

「なんか説教くさくなっちゃったけど、とにかくあたしが言いたいのはそれだけだから。普通に歌ってくれるのなら、もちろん大歓迎だよ。『塩から』さん、歌うまいから」

『本当……ですか?』

「うん! あたしは音痴だから、すごく羨ましいな」


 そんな風にして、少しずつ二人の会話の硬さが取れていく。その様子を見

て、月子はほっとしながら振りかえると、偶然悟司と目が合ってしまった。


「……どうなることかと思ったけど、なんか落ち着いてきたね」


 悟司がそう呟くと、月子は笑みをこぼしながら頷いた。


「ですね」


 そうして談笑する千佐都の背中を見つめた後、


「あ、お茶いれます」


 と、月子は思い出した様にぱたぱたと悟司の部屋へ駆け込んでいった――



 ※ ※ ※



「あの動画、消してくれるって」


 お茶を持って戻ってくると、千佐都が月子の顔を見るなりそんな風に言った。


「良かったですね」

「うん。まぁ、話せばわかる子だった」


 満足気に頷く千佐都の手元に、そっと湯飲みを置く。


「しかし、今日はなんだかよくわからん日だったな」


 春日がそう言って壁にかかっている時計を顎で示すと、既に夜の八時を回っていたことにようやく全員が気付く。


「こんなに経ってたんですね」


 途中、待機時間やメール作成に時間を取られたということも原因なのだろう。月子がぼーっとしながら時計を見続けていると、


「――鍋でもしようか」


 と、いきなり悟司がそんなことを言い出した。月子が目をやると、悟司は先ほど千佐都が簀巻きになっていたこたつ布団セットし直しているところだった。


「まさか今日こたつをつけるとは思わなかったな。まぁ今までは、ガスストーブだけでもなんとかなってたしね」

「昨日くらいから急に寒くなったよな」


 春日がお茶をすすりながらそう言う側で、悟司はこたつテーブルから伸びているケーブルを引っ張って壁のコンセントへと差し込んだ。


「こたつと言えば鍋でしょ? 今から急いで出れば、どこかのスーパーがまだやってるはずだし。……どうかな?」

「ボクは大歓迎」


 いつの間にかゲーム機を取り出していた小倉が、すっと片手を挙げる。


「せっかくだし、樹里のヤツも誘ってみようよ。『家に仕えそうな材料があったら、持ってきて』って言っとけば、あたしら的にも安上がりだし!」


 千佐都が携帯を取り出して、そのまま松前に電話をかける。なんだか急に慌ただしくなったなと、月子がお盆を持ちながらぽーっとしていると、


「月子ちゃん」


 と、悟司が月子の持っていたお盆を手にとって小さく笑いながら言った。


「月子ちゃん好きな鍋ある?」

「う、ウチですか?」

「あたし豆乳鍋ー」


 松前と電話をしている最中にも関わらず、千佐都が悟司に向かってそんな風に告げる。悟司が「千佐都には聞いてないぞ」と言うも、既に千佐都は悟司を無視してそのまま電話相手の松前にげらげら笑いながら喋り出していた。


「あの野郎……」

「悟司くんは、石狩鍋って食べたことあるんですか?」


 悟司が千佐都から目を離して首を振る。


「そういや、一度もないかな」

「じゃあ、今日はそれにしましょう。ウチが作りますのでっ」

「俺も手伝うよ」


 その言葉に、月子はぺこりと軽く頭を下げる。


「お願いしますね。あ、鈴ちゃんにも連絡してみようかな」

「いいね。与那城くんも一緒にいるかな?」

「じゃあ堀内ちゃんも」

「どんどん増えるなぁ」


 そうして二人でくすくす笑いながら携帯を取りだすと、


「おいおい。電話もいいが、買い出し部隊がいないと荷物が運べないだろ。何人か僕と一緒について来いよ。特に男連中」


 と春日が車のキーを取り出しながら玄関へと向かって行った。



 ※ ※ ※


 

 後日談――


 数日後、「塩から」さんから元の歌詞のままの動画をアップするという連絡が入ったので、シュガーのメンバー全員でその動画を見てみることになった。


「ところで、あのアレンジって誰だったんですかね?」

「さあな。まぁでもあれだけうまいアレンジだったんだ。きっと、普通にボカロ動画でもあげている人物なんじゃないか」


 悟司と春日がそんな会話を交わしながら、動画のURLを開く。

 動画説明文には、このように書かれていた。


「どーも『塩から』です! 前回の動画では、色々な方に不愉快な思いをさせてしまってすみませんでした。新曲の再うpをさせていただきます。前回に引き続き、楽曲のアレンジはひまじんPさんに頼んでみました。歌詞は原曲通りです。感想コメいただけると嬉しいですっ!」



 しばしの沈黙の後、月子以外の三人が――



「「「お前かよ!?」」」



 と思わず叫んでしまったのは、もちろん言うまでも無いことである。


※このお話はこれで終了です。

次回はもしかしたら時系列が少し前後するかもです。

ややこしくて申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

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