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live alive!!(5)

「この方が、今日の夏祭りの実行委員の方よ」


 薬袋が手で示している人物に、虹山ロックメンバー全員で深々とお辞儀した。


「ああ、お暑いのに本日はどうも」


 実行委員の男性は、まさに今初老を迎えたばかりといった風貌で、悟司たちを見るなり気さくそうにそう言って頭を軽くさげた。悟司は頭をあげて、実行委員の人のはっぴ姿をまじまじと見つめていると、


「いえ、こちらこそ僕らのようなものを、このような素晴らしいステージに呼んでいただき光栄の至りです」


 横にいた春日が、異常なほど堅苦しい挨拶を告げた。さすがに、いくらなんでもかしこまりすぎじゃないだろうかと悟司が思うも、相手方の方はむしろ、そんな春日のことをいたく気に入ったらしく、


「いやいや。最近の若者にしては、実にこう、丁寧で素晴らしいですなぁ。はっは」


 と、扇子をぱたぱた仰ぎながら豪快に笑った。


「なにか、こう、ライブで必要なものとかはないかね? あまり詳しくはないのだが、用意出来るものならば、遠慮なく言ってもらえれば」

「いえ、ほとんどはこちらの方で用意しておりますので」


 そんな春日の言葉を聞いて、悟司が目を少しだけ大きく見開かせた。

 完全に初耳である。一体、いつの間に。


「悟司センパイ。部室に置いてあったアンプとかはぜんぶ、今日の朝、春日先輩と千佐都先輩で一緒に運んだんスよ」


 阿古屋のそんな説明を聞いて、悟司はちらりと千佐都を伺う。

 千佐都は春日の横で、一緒になって熱心に実行委員の話に耳を傾けていた。

「なんだよ……すっかり、俺の知らないとこで」

「どうかしたんスか?」


「ううん。なんでもないよ」


 阿古屋にそう告げてから、悟司は再び実行委員の方へ顔を向けると、


「ま、そんなわけで、十四時に一度ここに戻っていただければ大丈夫なんで。今日は色々屋台も出てますから、まぁゆっくり、一緒に祭りを楽しんでくださいな。緩ーくね」


 と言って実行委員のおじさんは、ひょこひょことステージ袖にある簡易テントの中へ戻っていった。なるほど。あそこが今日の祭りの代表たちが集まる場所か。見ると、他にも中年以上の男女が、缶ビールやら日本酒のビンやらを持ち寄って、楽しそうに談話していた。


「そういうわけだから、十四時まで自由行動ね」


 薬袋が全員の方へ向かってそう告げると、いの一番に成司が勢いよく手をあげた。


「んじゃ、俺と鈴花はちょっくら屋台見回ってくるんで!」

「ちょっとちょっと。バラバラに動いたら、もしもなんかあった時に――」


 千佐都がそんな風に口を挟もうとすると、春日がふむ、と短く唸って言った。


「まぁいいんじゃないか? ガキじゃないんだし」

「こら! 部長のアンタまでそんなことを――」


「俺も良いと思うよ。全員携帯持ってきてるだろうし、なにかあれば連絡すればいい。どうせ商店街の中だけで、そんなに規模のでかいものでもないみたいだし」


 悟司も春日の言葉に乗っかった。


「ぐぬぬ……。そんじゃ、二人とも、行って良し」


「よっしゃ。んじゃ、手始めに射的しにいこうぜ」

「ちょっと待つっスよ! まず先にわたあめを――」


 そうして取り残された悟司、春日、千佐都、薬袋の四人で、しばし空白の間が生まれた。


「――千佐都は、先輩と行ってこいよ」


 気を利かせたつもりで、一応そんなことを言ってみる。


 が、


「はあ? なんで」

「いや、なんでって……」


「別にあたしらはあたしらで、三人行動すればいいでしょうが」


 こっそり薬袋が省かれていることに悟司は気付いたが、まぁそれはそれとして。


「いいよ俺のことは。疲れてるし」


 悟司が面倒くさそうな顔で、千佐都に向かって軽く手を振る。


 正直、あまりよく眠れなかったし、ライブ前に無駄にカロリーを消費するのもいかがなものかと思った。一応ステージ正面には、パイプ椅子も用意されているし、ここでぼーっと時間を過ごすのもありかと思ったのだ。


 だが、所詮そういうことは単なる言い訳にしか過ぎない。


 余計なお世話なのかもしれないが、悟司は千佐都と春日を二人っきりにさせてあげたかったのだ。いつの間に、そういう仲になっていたのかは知らないけれども、そういうことならば応援してやらんでもない。


 そう、思っていたのに。


「よくない!」


 そんな千佐都の態度は、予想外にもほどがあった。


「せっかくのお祭りに、なんでアンタだけ残してあたしらだけで回るのさ? そんなのすっごく意味不明じゃんか」


 意味不明なのはそっちだ。なんなのだ一体。

 せっかくこっちが気を利かせているというのに、そこまで三人共に行動する必要がどこにある? 悟司にはさっぱりわけがわからなかった。


 大体、行ったら行ったで間違いなくお邪魔虫になるわけだし、自分としても目の前でイチャつかれちゃ困るのだ。こっちはこっちで色々と悩んでいるというのに。


「とにかく俺はいかない」

「あーもー! なんでそう強情かなぁ!」


「――いいじゃないの」


 そこで、いきなり薬袋が千佐都の横から口を挟んできた。

 口元に、うっすらと笑みを浮かべながら、薬袋は二人を交互に見やる。


「わたしは、ちょっと個人的に悟司くんとお話があるの。だから、わたしとしてもあなた達二人が側にいられるのは、ちょっとね」

「……か、会長さんが悟司に?」


 ぽかんと口を開けて千佐都は、薬袋を指さしながら悟司を振りかえる。


「悟司、アンタ会長さんとなんかあったの?」


 当然、思い当たるふしはなにもない。 

 だが、薬袋の意図を悟司は心の中できちんと把握していた。


 さすが会長。空気が読める。


 悟司は、薬袋の姿が一瞬小倉とダブって見えた。

 気のせいかも知れないが、彼女のこういう機転の良さは彼に通じるものがある。


「そういうわけだから、千佐都」

「ぐぅ……」


 まだ何か言いたそうな千佐都をよそに、悟司は春日の方へ振り返った。


「先輩、そういうことで」

「お? あ、ああ」


 ぼーっと一連のやりとりを見ていた春日が、そんな風に間の抜けた声を上げる。


 そうして、二人を見送りながら、悟司は薬袋に向かって言った。


「ありがとうございます、会長」

「別に礼を言われる筋合いはないわ」


 薬袋はそのまま、近くにあったパイプ椅子に腰をかけて悟司を見上げた。


「意図がわかりやすすぎたものね。小学生の算数並みに単純よ」

「でも……いつの間にあんな関係になったのか」


 頭をかきながら悟司がぼやいてみせると、


「まぁ関係だなんて。別にあの二人、付き合ってるわけじゃなさそうじゃない」

「え?」


 驚いて、思わず薬袋の顔を凝視する悟司。


「あなた、一体どういう勘違いをしたらそんな風に思えるの。見たところ、両思いっぽい気もするけど、まだ互いにそのことは――」


 薬袋は、そこで言葉を一旦句切ると、


「――そういうわけでもないかもね」


 と、なにやら訳ありっぽく含みのある言い方で悟司を見つめた。


「悟司くんは、彼女とかいるの?」

「……いませんよ」


 ふいとそっぽを向いて答える。


「ふふ、わかってて聞いたんだけど案の定のようね」

「そんな話をしたくて、俺を呼び止めたわけじゃないでしょう」

「あら。あなたの思惑通りに、わたしは人払いしてあげたんだから、少しはこちらの話に付き合ってくれてもいいでしょう?」


 意地悪そうに微笑んで見せると、薬袋は肩から提げていたバッグからペットボトルを二本取り出した。



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