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live alive!!(3)

『――夏祭りでライブですか』

「ああ、うん」


 皆が解散した後、悟司は月子に電話をした。

 以前、自らの家でカレーを作ってくれた日に、悟司は月子と電話番号とメールアドレスを交換したのだが、結局ほとんど話すこともないまま、今日まで過ぎてしまっていた。


 もちろん、使う機会は何度もあったのだが、悟司はどうしても『自分から』メールや電話を送ることに、いささかの抵抗があったのだった。


 ……だって、女の子にメールだぞ。電話なんてもっての他ではないか。


 だからこうやって、実家に帰省中の月子に電話をしたのは悟司にとって、かなり勇気のいることだった。こうして電話一つかけるのに、数度のメールのやりとりと、その前後の間、計二時間弱を熟考した経緯があった。


 悟司はぼんやりと、小倉のことを考えていた。小倉は、月子と頻繁に連絡を取り合っているのだろうか。正直、彼らの仲を考えたら当たり前の話なのだが、それでも一応。


「い、いきなり話変えてもいいかな?」

『え。あっ、と……はい?』

「小倉くんとは、結構こうやって連絡取り合ったりしてるの?」


 ああ、なんだろう。こういうことが聞きたくなるこの気分って。

 嫉妬、ではないはずだと思いたい。


『あー……』


 電話の奥で、月子は一瞬沈黙してから答えた。


『まぁほどほどには』


 ほどほど、ねぇ。


 悟司は、なんだかよくわからないショックで頭をがくりと下げた。いや、そもそも幼なじみなのだからこんなこと、聞く方がどうかしてる。幼稚園の頃からの知り合いで、互いに連絡先を知らない方がおかしいのだから、むしろこれは想定内であるべき事項だ。


『でも、最近は庄ちゃんとは、ほとんど電話してないですよ』

「え、そうなの?」


 そんな、しょうもない事実一つでちょっとだけ嬉しくなる。

 悟司は顔をあげて、抱えていたギターを脇に置いた。


『うん。以前はウチの方からよく電話してたんですけど、最近は途絶え気味で』


 んんん?


 悟司は首を捻りながら、月子の言った言葉の意味を考えた。

 それって、つまりあれだよな。彼女の方から連絡をしてなければ、小倉はこれまでも連絡をほとんど寄こしたことがないってことになる。つまり、月子自身が連絡をしていないだけで、状況は以前から何も変わっていないということか。


「な、なんで」

『え?』


「なんで、月子ちゃんは連絡しなくなっちゃったの?」


 言ってから、悟司は自らで「うわぁ……」と心の中で漏らした。そんなこと聞いてなんになるのだ。月子が小倉に連絡をしないのって、普通に喜ばしいことではないのか?


 だからこそ、今のうちにガンガンアピールをかまして、小倉との関係よりも、さらに深く――これはむしろ、自分と月子の仲が、さらに深まる千載一遇のチャンスなのだ。


 一瞬そのことが頭に浮かんでからすぐに、ひどい自己嫌悪がやってきた。ただ、その自己嫌悪の意味が、悟司には自分でもよくわからないのであった。


 ……一体、自分は何に遠慮しているのだろう。


 小倉は過去に「月子には興味ない」、と言っていたではないか。

 はっきりそう言ったわけではないが、確かそういうニュアンスのことを、去年言っていたような……気がする。


『――けど』

「え?」


 自分のことばかり考えていて、すっかり月子の話を逃してしまった。


「ご、ごめん。ちょっと考え事してて。いま、なんて?」

『あ。ああ、えっと、別に深い意味はないんですけどって』


 そこで、受話器越しの月子がごそごそと身体を動かす音が聞こえた。


『……ううん。それはちょっと嘘なのかもしれない。ウチ、きっと今自分に嘘ついてるかも』


 その口調は、少しだけ暗いトーンだった。

 そのまま黙っていると、月子はため息を漏らしながら言った。


『……庄ちゃん、最近ずっと難しい顔してて。会って話しかけても、その顔を全然やめなくて、いつも生返事。「うん」とか、「ああ」とか、そんな感じで。この前、一緒に帰りの汽車に乗ったときもそう。去年一緒に旭川に戻る時は、のんびりした様子だったのに、最近は別人みたい』


 汽車、というのは北海道の人が電車を呼ぶときによく言う。これはなにも月子だけじゃなく、春日も当たり前のようにいうので、悟司もすっかり慣れてしまった言い方であった。


『なんか……悩んでいるみたいで。庄ちゃん、学祭前後で何かあったっぽくて、でもウチにはそういうこと全然言わないし……』


 その理由は、おぼろげながらも悟司はわかっているつもりだった。きっと、あの雨の降った日に、小倉が悟司に言った一言。


 小倉は、今も月子のことを大切に思っているのだ。


 しかし、あの件は既に学祭の間に片がついたはずだった。では一体、今彼は何について悩んでいるのだろう。


「あ、あのさ」


 悟司はなぜか正座になりながら、携帯を両手持ちで月子に言った。


「あんまり、心配させたくないんだよ。きっと」

『心配?』


「うん。月子ちゃんに、あまり余計な心配を与えたくないっていうか――」

『ウチが心配するようなことを、今庄ちゃんは抱えているんですか?』


 うげ。無駄に墓穴を掘った気がする。


「そ、それはどうかわからないけど……」


 悟司がへどもどになりながらそう告げると、


『ウチは……そんな庄ちゃんの方が心配です』


 ちくり、と胸に痛みが走る。


「だ――」

『だ?』


「大丈夫だよ! きっとたいしたことじゃなくて……それで心配させたくないだけなんだよ! ほ、ほら。すっごくどうでもいい悩み事って、逆に言いたくないじゃん?」

『そ、そうですよね』


 ほっとしたような月子の声を聞いて、悟司も安堵の息を吐いた。


『ごめんなさい悟司くん。なんだか、変なこと言っちゃって』

「ううん。俺が先に小倉くんの話をしたんだし」

『ライブ、頑張ってくださいね』

「……うん」


 電話を切って、しばらく携帯を見つめてからその場で横になる。


「……俺ってバカだなぁ」


 悟司は目元を押さえながら、嫌な気持ちを出来るかぎり忘れようとした。

 小倉と月子の間には、悟司には決してわかることのない結びつきがある。

 それを、それ以上、考えることをやめることにした。


 なぜなら――。



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