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live alive!!(2)

 その日の夜、悟司の呼びかけにより、彼の家の隣部屋、通称「シュガ部屋」には、虹山ロックの部員の面々――悟司、春日、千佐都、成司、阿古屋が集まっていた。


「夏祭り!!」


 ぐいっと悟司の顔に近付くと、千佐都は唾を飛ばしながらそう叫んだ。


「去年、あたしが行きたかったやつだ! よしよし、やろうぜ夏祭りライブ!」

「あのねぇ……」


 そうして悟司が口を開く前に、隣にいた与那城が千佐都に向かって口を尖らせながら、


「ちょっとちょっと! そこは、俺の実力を考慮してから言ってくださいよ!」


 そう言って、パソコンに映ってるシュガー名義の楽曲を再生させた。


「こんなの無理っすよ……。だって俺、Fコードすら押さえられないんですよ」

「そこなんだよな、問題は」


 全てを引き取るように、春日がおもむろに口を開く。


「シュガーの曲は、実は地味に悟司のギタープレイが活きているのだよ」

「と、いいますと?」


 首を傾げる千佐都に、春日は再生中の曲のBメロ部分を頭出しした。


「ここの音を聴いてみろ」

「あ――なんか、ピロピロしてるね」


 Bメロが流れ終わった時点で、春日は曲を一時停止させながら悟司を指さして言った。


「こいつのギターは、無駄にこういうピロピロが多い。しかも、ギターバッキングなしの落ち着いた進行時にこそ、こういうのが特に多い」

「無駄って……」


 思わず苦笑いする悟司を無視して春日は続けた。


「だからこそ、ある程度ギターに精通している人間の方が向いているのだ。元々、初心者を意識して作ってきた曲じゃないしな。かといって、惜しみなく実力を見せつけているわけでもないので、ある程度弾ける人間なら、むしろこれは、簡単な部類と言っても良い」

「でもその簡単が出来ないんスよねぇ……」


 阿古屋の言葉に、成司は食ってかかるように叫んだ。


「ま、待て待て待てーいい! いいよ。そこまで言うならやってみせるよっ! 確かにFは押さえられないけど、こういう単音でのリフなら俺にだって」

「うん。じゃあ、はいこれ」


「へ?」


 素っ頓狂な声をあげる成司に、悟司はUSBメモリを笑顔で手渡した。


「ミクの声を消した、オフボーカルバージョンと、簡単なタブ譜がこの中に入ってるから。仕上げてきて」

「し……あげ、る?」

「うん。明後日までに」


「明後日……」


 ごくりと唾を飲み込んで、USBメモリをみつめる成司。本当ならば、先輩らしくもう少し余裕のある状況下で、丁寧にギターを教えたかったのだが、そうも言ってられまい。


 なぜなら、


「ふっふ。とうとう僕らにも公共でのライブが認められるようになったわけだな」


 このように、春日は今回の夏祭りライブに大ハリキリなのであった。幾分予想出来たことではあったが、まさかここまで喜ぶとは。


「はっはーっ! 大学四年目にして、とうとうグローバルな活動の第一歩を踏み出したわけだなっ。これまでの学内といった箱庭と飛び出して、いざ向かわん新天地!」

「そこまで飛び級で物事は運んでいかないと思いますけどね……」


 ぼそりと呟いてみせるも、春日の耳には全く届いていないようだった。そして、普段ならこういう春日に、ぴしゃりと厳しいコメントをするはずの千佐都までもが、


「ねぇねぇ悟司、夏祭り出場特権とかで出店食べ放題とかないかな?」


 と、春日と一緒になってきゃっきゃはしゃいじゃっているのだ。こうなるともはや悟司には為す術など一切なく、二人の暴走を止めるほどの権限も、当然ながら持ち合わせてなどいないので、夏祭り出場は完全なる決定事項として話は進んでいった。


「しかし、どうするべきか……最悪ツアーを回るための車は、僕の愛車でもいいが、それだと楽器を詰められないよな……。ライブハウスごとに郵送という形も、おそらく不可能だろうし……」


「ひゃっほーっ! かき氷食べるよー。いか焼きも、たこ焼きも、タコスも、リンゴ飴も食べて食べて食べまくっちゃうもんねーっ!」


「そうだ。一応、メトロノームも渡しておくね」


 春日と千佐都が、各々で楽しげな妄想を繰り広げている中、悟司は成司にデジタル式の小さなメトロノームを手渡した。


「これ、必要なんですか?」

「必要ないかもしれないけどって意味で持っててくれればいいよ。このUSBメモリの中の、実際の曲のテンポに合わせて弾けなきゃ意味がないでしょ?」


 あまりよく分かっていない様子で成司が首を傾げる。悟司は頭を掻きながら、


「えっとね、一応曲のBPMは一四〇くらいなんだ。だから、弾けないことはないと思うんだけど、もしこの速さで弾けないようなら、メトロノームを使って、テンポを下げながら練習してほしいわけ。最悪、テンポをさげて演奏することも、不可能ではないから」

「あーなるほどです」


「悟司センパイ、自分にももらえないっスか?」

「あ、そうだったね」


 催促されて思い出したように、悟司は阿古屋にもUSBメモリを手渡した。


「ちなみにドラムのパートは、楽譜に書き起こしてないんだけど……」


 悟司が伺うような視線で見ると、阿古屋は胸をはった。


「大丈夫っスよ。細かいフィルは大変かもしれないけど、一応耳コピ出来るんで」


 それは頼もしい。どうやら成司とは正反対に、阿古屋のドラムスキルは高いようだ。


 彼女に対しては、特に不安なことはないだろう。ほっと息をついて、悟司は二人を交互に見ながら言った。


「じゃあ、よろしくね」

「はい!」


「任せてくださいッス!」


 うーむ、理想的なカップルですこと。


「――カウントダウンTVをご覧の皆さん、どうも虹山ロックです。この度、僕らの新曲『混沌の視覚体験クオリアが、八月二十日に発売されることになりました。ええ、この曲はですね――」


 一方、春日の妄想はテレビ出演までスケールがでかくなってしまっていた。どうでもいいけど虹山ロックはサークル名じゃないか。それに、『混沌の視覚体験クオリア』って、一体誰が作曲するのだ。


「いっやー、もう金魚とか飼えないくらい取りまくっちゃおっかなー。あ、悟司。あたしの射撃の腕前、すっごいんだからねっ! 狙った獲物は絶対に外さない、ウイリアムテルのようなあたしの銃さばきを披露してやるんだからっ」


 千佐都は千佐都で、ツッコまれるのを待っているかのようなボケをかます始末。ウイリアムテルは銃ではなく弓だ。弓。


 とまぁ、こんな感じでこの日はお開きとなった。


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