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この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
9/59

八・二人の距離感

本日のキーワード:”肉”と”魔法”


2012/01/09誤字しゅうせー。ご指摘ありがとうございました!

2012/01/13:サブタイトル修正:段落の修正

 明確にいつごろ森を出たとは言えなかったが、気が付けば頭上を覆うほどの大きさの木々は姿を消していた。変わって視界に広がるのはまばらな低木と、膝程度の高さくらいの草が生い茂る半分草原になっていた。

 歩いていた道も、森の中に刻まれたあるかないかの獣道から、少なくとも人の往来を感じるほどの小道に変わってくる。

 そしてその小道が刻まれている草原も、二人が足を進めるにつれ段々と草の丈は低くなり、やがて小道から離れた場所に、どういった生物かはわからないが四足の家畜らしき動物の群れが遠く垣間見えるようになる。


 ――に、しても横の大きさの割に随分平べったい見かけしてるなー……尻尾もやたらでかい気がするけど……


「あれは草食トカゲの一種だな。大陸でも一般的な家畜で卵と肉が取れる」


 ――なんですと!?


 思ってもいなかった家畜の正体を知らせるドゥガの解説に、少女は思わず男の顔を思い切り凝視し、男はそんなアクィラの態度にクツクツと笑いを漏らす。


「何を驚いている?昨日も一昨日も干し肉を食っただろう?」


 少女は何とも情けない表情を浮かべ、男は珍しく揶揄するような笑いを浮かべたまま言葉を続けた。


「鳥も魚も食べられるというのに、トカゲが食えない道理はないだろう?あいつらは我らの日々の糧となってくれる生き物だ」


 だから好き嫌いはいかん。


 男にそうまで言われてしまうと少女が反論するのは難しい。なにしろこの三日間、少女の食生活を支えてきたのはドゥガの持つ保存食と狩りの腕だったのだ。

 ちなみに少女も一度だけ狩りを手伝おうとし――簡易なものだったが男に弓も作ってもらい――弓を引くこともできなかったので諦めた。


 そのことを思い出し、押し黙ってしまった少女の頭をドゥガはやや乱暴になでまわす。


「なに。それが美味いものならばそのうち気にならなくなるだろうさ」


 ――まあ、そう言われればそうだけどさー……


 実際に食べた干し肉はそう悪い味ではなかったことを思い出し、とりあえずこの件に関して“も”割り切ることにした。郷に入りては何とやら、である。


 ――ともかく、ここまで来たらもう少しなんだろう?


「ん?そうだな……ここからならあと精霊が一回りするくらいだろう」


 そんな少女の視線だけの問いかけを、男は正確に理解し、この世界特有の言い回しで村までどれくらいかかるのか答える。


 ――つまりあと三〇分くらい?で合ってたよな……?


 あの、うねうねとうごめく気持ち悪い生物……トリードと遭遇した後から、男は積極的に自分に知識を与えてくれるようになった。

 正直どんな考えを持って男がそうしてくれるのか、今一つ晶には理由がわからなかったが、ともかく教えてくれるのはありがたいので感謝だけはすることにした。


 ――子供とはいえ、一緒に行動する俺が常識知らずじゃ苦労するだろうしなー


 男から教えてもらったことは、二日前の朝約束してもらった通りの毒物と薬物についての一通り。この地域周辺の国と大まかな特色?のようなものあれこれ。危険度の高い生物、そうでない生物、植物を一通り。その他にも旅をする上で必要になりそうな技術をあれこれ。正直何でそんなに熱心なのかと少女が思うくらいの勢いである。


 ――頭の性能は、昔よりよくなってるみたいだから何とかついていけてるけど……


 以前の自分なら、どれだけ丁寧にわかりやすく教えられても、半分以上は忘れてしまっているだろう。柔道の成績がそこそこ良かったため推薦で大学には入れたが、中学高校と過ごした時代の成績の悪さには自信がある。

 いくら必要に迫られているとはいえ、頭の中身が男のころと同じ性能だったなら、教えられたことをほぼ一度で、洩らすことなく、すべて覚えるなどできるわけがない。


 もっとも、そうであるからこそ“以前”と“今”は別の存在だと知らされるようで、その断絶がひどく気になってしまうのだが。

 

 思わず零れ落ちそうなため息を、晶は慌てて飲み込み、気が付かれないようにそっと傍らを歩く男の事を見上げる。


 ――正直、何でこんなに良くしてくれるんだろう?


 手入れされていないやや長めのぼさぼさの金髪と、それよりも僅かに色の濃い、顔の下半分を覆う髭を生やしたこの屈強な体躯の大男に感謝していないわけではない。無力な自分に保護と、この世界で生きていく知識を与えてくれるのだから感謝してもしきれない。


 だからこそ疑問に思ってしまうのだ。


 こんな素性もわからない、“胡散臭い”“厄介そうな”自分に親切にしてくれるのか。


 ――考えても仕方ないか


 晶は軽く頭を振って気持ちを切り替える。少なくともこの男は信用できる。いつの時点でそう判断したのかは晶自身にもよくわからないが、この男の傍らを歩くことは思ったよりも気持ちがいい。ほとんど超能力かと思う勢いでこちらの内心を察してくることだけはさすがに閉口してしまうが。


「さほど人の多い村でもないし、俺がいるから特に何かあるとは思えないが……“符”の使い方は忘れていないな?」


 嫌な話題を口にする時の、少し疲れた口調で尋ねてくる声に、少女は思考を中断して小さくうなずき、それから少女は腰ひもに括り付けた……ドゥガの手による革製の小さな箱型ベルトポーチ?とでも呼ぶべき物を左手でそっと抑える。


 そこに入っているのは、昨日護身用にと手渡されたA4用紙を半分にしたくらいの大きさの、不思議な文様と一定の書式で描かれた文字が躍る、数枚の種類の違う紙だった。


『本来なら口訣が必要なんだが、励起文を正確に心の中で辿り念じれば発動する』


 昨日説明を受けた時の、男の言葉を思い出す。その分現象が発動する時間と威力は格段に落ちるらしいが、発動するまでは効果を完全に隠蔽できるし、一時的に怯ませたり無力化するには十分らしい。


 尤も実際に“符”を行使したことはまだなかったので、どの程度の効果が出るのかは今ひとつわからなかったのだが。


 ――そんなことより、これのお蔭で色々知ることができたからなー


 むしろその時点での晶の驚きは、その“符”と呼ばれるものを構成している素材について向けられていた。


 障子紙ほど薄く洗練されてはいないが、やや指先に吸い付くようなその感触は、明らかに「和紙」だった。そして図形と何らかの文字は間違いなく「筆」で書き込まれていた。


 この“符”が一般的なものかどうかはわからないが、少なくとも筆記用具が存在することは確認できた。そして、何らかの『文字』が存在することも判った。


 意思伝達の手段を色々考えていた少女にとって、この事実は何物にも代えがたい喜ばしい情報である。


 ――さすがに野宿の間に教えてもらうのは無理があるからなー


 ここまでの道中で何度か口にした言葉を考えれば、男は自分の事をしばらくは手元に置くか、信用のできる知り合いに預けてくれるつもりらしいので、そんなに慌てて覚える必要もない。


 そんな風に少女がのんきに考えてしまっていたのは、男の察しの良さに少しばかり依存してしまっているからなのだろう。本人は気が付いていないか……気が付いたらついたで否定したことだろう。顔を真っ赤にしながら。


「そろそろ見えてくるぞ」


 男の声に視線を向けるとそこには、木で作られた不格好な二重の柵に囲まれた一〇軒ほどの家屋が立つ……晶の感覚では村というよりも集落といった感じの……村が姿を見せており。


 少女はその見た目にも明るそうな、平和そうな村を見て、なぜか背中が震えるのを感じて訝しげに眉根を寄せた。


筆記用具キターーー!!

これで晶くんかつる!!


……すいませんちょっと調子に乗りました。


魔法の行使とか解説は多分今後の本編中でやらかす予定ですので割愛。

草食トカゲ君もそのうち美味しい料理になって出てくると思いますので期待していてください。

期待するポイントが激しく違ってるかもしれませんが。


しかし……主人公がずっとドゥガに食われっぱなしのような気がしますが多分気のせいですね。うん。



そして今さらですが感想とかがありましたら是非お願いします。






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