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この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
6/59

五・考えること

修正が思いのほか早く終わったんで思わず投入。

ストックが尽きるまでは毎日更新……どこまで続くかな


2012/01/08:段落がおかしいところと読みにくい部分を若干修正

2012/01/13:サブタイトル修正

2012/01/21:誤字修正・ご指摘ありがとうございます。

 ――自分が服着てるかどうかくらい気が付けよ俺……


 赤い月と蒼い月は姿を消し、白い月だけが梢に引っかかるように輝いている明け方近く。


 目を覚まして半分寝ぼけながら身を起こした少女に向けて、夜通し不寝番をしていたらしいドゥガは少しだけ火の番を頼むと告げ、少女がぼんやりしつつもしっかり頷くのを確認してから横になった。

 そんな男をしばらく眺めていた晶は一つ大きな背伸びをし、立ち上がろうとして毛布を跳ね除け、その途端露わになった何も身に着けていない自分の姿に気が付いて数十秒。

 晶は慌てて跳ね除けた毛布を体に巻きつけ、あまりにも幼い自分の身体に何らかの衝動を感じない正常な性癖であることをなんだかわからないうちに神に感謝し、そしてため息をついた。


 ――そりゃまああれだけ血まみれだったはずなのに、血の臭いしなかったよな……


 ともかくあらためて冷静になってみると、十歳くらいの少女の姿の自分というのは……なんと言っていいのか、色々と難しい。


 思い返してみれば昨日はほとんど動転しっぱなしで、自分の身体の変化に驚いたのはほんの少しの間だった。


 ――何しろ驚いた直後であれ……だったもんなぁ……


 普通に考えれば十分以上に非常識な出来事ではあるのだが、何しろその直後に発生したのは紛れもなく命の危機だった。冗談っぽく頭の中で呟いてみたがドゥガの介入がなければ、自分はこのどことも知れない森の中で命を奪われ、あの獣の餌になっていたはずだ。


 そうなった時の自分の姿を思い浮かべて、晶は小さく背中を震わせる。


 ともあれそんな生命の危機から救われた直後だったせいなのだろう。今考えても意識を取り戻し、男と会話をして再び眠りにつくまでの間の自分はものすごく自分らしくなかったような気がする。

 一応何を聞かされ、どんな反応をして何を考えていたのかは一通り覚えている。が、それらの一つ一つが妙にふわふわした感じで、どうにも現実感が足りない。


 ――あ~……小学生のころの作文とかみつけて思わず読んじゃった時の気分だなこれ……


 自分の部屋だったならじたばたしながらその辺をごろごろ転がっていたことだろう。モノが多いせいで実際にそんなことをしたら多分、埋まる。色々なものに。


 そんなことはともかく。


 いつまでもそんな風に自分の気持ちを持て余し続けるのもいいことではない。それはそれとして、割り切れないが割り切るか後回しにすることに決め、男が横になる前に着替えだと告げて傍らに置いたものを手に取った。


 一つはいわゆる貫頭衣。弥生時代あたりの稲作とか高床式倉庫とかで描かれる農民ABCといった人物のイラストなんかでよく見るあれである。

 一枚の大きめの布の真ん中に頭を通せる穴をあけ(襟の部分は当て布がしてあった)両脇を縫い糸で止め、ボタンホールのような布に開けられた四つの穴を通された革紐は多分ベルト代わりのものだろう。

 手触りは麻よりも滑らかではあるけれども綿ほど肌触りはよくない。

 布の価値はよくわからないが、長さ二メートル幅六〇センチくらいの少しくすんだ白い布というのはどれほどの値段がするのだろうか?


 自分のために使ってくれたということは、それほど高くないのだと思いたいところではあるのだが。


 もう一つは革製のサンダル。

 多分三枚か四枚の革を重ねて靴底を作り、指先が出ないようにつま先は加工され、足首で固定できるようにか太めの革紐と細めの革紐をつないだような少し長めのそれが踵の部分に取り付けられている、


 ――意外と……というかめっさ器用ですね……


 古着を買う趣味もなく、何着かのスーツ以外の普段着は量販店のものを、着られなくなるまで着倒し、古くなったら捨てて買換えという現代日本人らしい生活をしていた晶に裁縫技術はほぼ皆無なので、多少不恰好でも服と履物を作れるというのはちょっとした驚きでもあった。


 しかし驚いてばかりもいられない。


 晶は毛布を足元に落として立ち上がり、スウェットを着るような感じで頭を通し、腰の革紐を締めてへその前あたりで結ぶ。

 上から見ただけではよくわからなかったが、自分の胸はささやかながら膨らみを持っているらしく、男のころとは全く違うくすぐったさを晶は覚えたがとりあえず無視することに決めた。特にその一番敏感な部分は、気にしたら多分負けてしまうので。


 サンダルの方は、むしろ何でこんな技術を持っているのかと思うくらいにぴったりだった。

 踵の紐の根元部分を足首に二回巻き付け、その上をもう一度回す感じで細い紐を巻き付け脛の方で紐を結ぶ。少し歩いた感じでは特に違和感を感じないくらいによく自分の足にフィットしていて逆にちょっと引いてしまった事に関しては、ドゥガに対して秘密にしておこうと晶は思った。


 ――で、これからどうするかだよなぁ……


 焚火が種火くらいの大きさになっているのに気が付いた晶は慌ててドゥガに頼まれた仕事を思い出し、何本か小さめの枯枝をくべて火の勢いを大きくしてから太めの薪を3本ほどくべてから傍らに腰を下ろす。


 ――寝て起きたら全部夢でした……ならよかったのに


 そう思ったが、新しい服と履物を身に着けたのにそんなことは毛布にくるまってる時に考えるべきだよなーと、思わず笑ってしまう。


 目の前の焚火にかざすてのひらは、すべすべでぷにぷにで自分のものとはとても思えないのに自分の思った通りに動き、心地よい熱気を自分に伝えてくる。


 子供……それも女の子になってしまい、その上目の前でまるで死んでいるかのように静かに微かな寝息を立てている男の言葉によれば、自分は“妖精種”という人間とは違った知的生命体らしい。


 とりあえず三光年くらい譲ってそれ自体はまあいい。本当はよくないのだがいいことにしておく。妥協の範囲内と自分をごまかしておく。


 現状一番の問題は声が出せないというその一点だった。 


 どういった原理か理屈か法則かは晶には全く見当がつかないが、とりあえず言葉はわかる。少なくともドゥガが所属している国とか民族とか、そこら辺の会話を聞き取るのは可能だろう。

 だから当面のところはドゥガに引っ付いていけば生きていくことは可能になる……と思う。とりあえずすぐに生命の危機がどうこうとはならない……はず。


 ――見た目ごついけどお人よしっぽいしなー


 ひょっとしたら自分がこのまま大きくなったらいろいろと倫理的にあれな状況とか、おいでませ大人の世界へといったこともなきにしもあらずだが、その頃には色々覚悟が決まってるかもしれないし、決まってなければ、まあその時考えよう……脱線しすぎだ。


 考えても仕方がないはるかな先の事はとりあえず棚上げにして、ドゥガと引っ付いていかなかった場合を考えてみよう。


 ――まず、森から出られなくて死ぬかなー


 考えるまでもなく死亡フラグである。しかもおそらく最大最短の。


 では森から出た後に別れたらどうなるのかと考えれば、やっぱりこっちもろくでもない未来しか思い浮かばない。


 声が出せないということは、最低限の意志を他人に伝えることすらはなはだ困難ということだ。


 たとえば治安がそれなりにいい街にいたとしよう。それでも犯罪は起こるだろう。現代日本だって痴漢から強盗、殺人まで軽重はあれ毎日どこかで犯罪が発生している。

 仮に自分がそれらに偶然巻き込まれても、自分は助けを求める悲鳴を上げることすらできないのだ。


 と、なるならばドゥガから離れて行動するという選択肢は取れない。少なくとも自分の身体を自分で守れるくらいに強くなれないうちは絶対に。


 ――厳しいってもんじゃないなー


 ほとんど詰んでいるような状況ではあるが、晶は当面の大雑把な計画というか方針……のようなものを立ててみる。


 とりあえず文字を書けるようになること。最低限の文字を覚えて筆談できるようになるだけで選択肢はかなり広がる。問題があるとすれば選択肢の幅が識字率の高低で極端に変化するといったところか。


 ……識字率高いといいなぁ……


 七割とか贅沢は言わないからせめて四割は維持していてほしい。三割以下だと覚えるだけ無駄になりそうな感じだし。文字を書けるようになりました。読める人はいませんでしたでは笑い話にもならない。


 晶は首を軽く振り、とりあえずネガティブ方向に行きがちな自分の考えをいったん強制的にリセットする。


 あとは、ドゥガも含めて人の話はよく聞くこと。自分には常識レベルの段階から情報がないし、自分が教えて欲しいものを他人に伝える術はほぼない。


 特に常識レベルの情報はこっちが意図してなんとか教えてもらおうとしても、気が付いてさえもらえない可能性は高い。なにしろ常識……子供でも知っているのが当然の事なのだから……よく見て、よく聞く以外に取集方法はないくらいに思っていた方がいいだろう。


 そしてあとは、ドゥガに引っ付き続けるために早急に何らかの有用な技能を身に着けるべき……なのだろう。

 

 ――裁縫と料理くらいかなー……できることは


 捨てられないように頑張らないと。捨てられたら死ぬしな多分。


 そこまで方針を立てたうえで、晶は改めて考える。


 ――日本には帰れるのかなぁ……


 来られたのならば帰れるはずと、軽々しく考えることはできない。


 友人のオタクから借りた何冊かの本にあったように、『何者かに召喚された』という事態ならばまだ帰還する方法について検討することができる。

 呼び出す技術があるならば送り返す技術もあると考えられるし、なければ作るという試行錯誤もできる。ひょっとしたら魔王を倒せば自動的に送り返してくれるのかもしれない。


 しかし自分のように……気が付いたらここにいたという場合は、どうすればいいのか?


 それがどれだけ非常識なものであれ、自分が巻き込まれた事態がまっさらな自然現象のようなものだった場合……何をどうやって元の世界に帰ればいいのか、見当もつかない。


 ――……っ


 一筋流れた涙を慌てて晶はぬぐい、晶は口元をきつく結び、目の前の炎を凝視する。


 泣くのはまだ早い。


 泣くのは本当に絶望した、その時が訪れてからでいい。


 晶が改めて強くそう思った時、男が軽く身体を震わせて起き上がる。


 いつの間にか白い月は完全に森の向こうに消え去り、太陽が木々の間から姿を現していた。


 そんな朝日に包まれる森の中で晶は一つため息をつくと首を振り、忘れていた懸念事項に対して思考を巡らせた。


 ――パンツが欲しいって言うのはどうやって伝えればいいんだろう?


 外気が直接当たるという非常に落ち着かない腰回りの感触に閉口しながら。


 まさか下着自体が存在しないってことは……ないよな?



オチがのーぱんとか……疲れてるのかなスカリー


晶君独白と現状把握に努めるお話でした。

女の子になっちゃったのに驚ききる直後にあれですから。インパクトとしては肉体変化より命の危機ですので、晶君内部問題としてびっくり度が落ちてしまっているのは否めない今日この頃。

もうちょっといろいろ葛藤する前に覚悟決めさせられちゃった感じでしょーか


そして意外と器用ななぞのけんし

でも普通に一人旅とかしてるとそういうスキル上がりそうですよね?


しかし一向に先に進みませぬね……野営地から離れるのは次の次くらいになりそうです。多分


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