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この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
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四・アクィラ

2012/01/13:サブタイトル修正:改行の調整

 男の問いに、少女は一瞬狼狽したように視線を泳がせ、反射的に口を開こうとして……

それから諦めたような表情で小さく首肯した。


「そうか……それは生まれた時からか?」


 フルフル


「つい最近になってからか?」


 コクリ


「俺が……あの“はぐれ”と戦った後からか?」


 ……フルフル


「嘘がつけない性格のようだな」


 4番目の質問の後の少女の仕草を見て、男は苦笑しつつそう言う。


 一瞬思案するような表情になり、視線をそらせ、こっちをちらりとと見た後頷こうとして、慌てて首を横に振る。


 おそらく間違いなく少女は一瞬自分と“はぐれ”の戦いのせいで声を失ったということにして自分を庇護してくれることを求めようとして、途中でその行為に恥を感じて否定をした。そういうことなのだろう。


 ――ええ、その通りでございますよ~


 晶は、まるでやんちゃをした孫を見るおじいちゃんのような表情を浮かべている男の事をじっとりとした視線で見据えながら心の中で毒づいた。

 自分が思わずとってしまった行動。それをどういう風に男が解釈したのか、同じ男である晶には手に取るようにわかる。


 わからなかった方が精神的には楽だったかもしれないが。


「まあいい。とりあえず今日のところは休むことにしよう。詳しい話……質問は明日移動しながらでもいいだろう」


 もう完全に日が落ちてきているしな。


 男の言葉に少女は小首をかしげて見せる。


 確かに大分薄暗くはなってきているが、まだ寝るには少し早いんじゃないのか?何か行動をするのに支障はない程度には明るいはずなのに?


「さっきも言ったろう?人間は妖精種と違って訓練を積まないと夜目が聞かないんだ」


 不思議そうな表情で自分を見つめる妖精種――明らかに古血統の特徴を体に持つ目の前の少女にはわからないのだろう。


 まあ、それは仕方がない。世界から愛される妖精種でも、世界を見るには自分の目を使うしかない。そしてその目が映す世界は、どこまで行っても自分以外にはわからない。


「もう月が出てきている」


 そう言って男は空に向けて指を指し、少女はその指先に従い空を見上げ、そこにあったものを見て何とも言えない曖昧な微笑みを浮かべた。


 ――確かにここは、俺の知らない世界だ……


 そこにあったのは3つの月。


 赤く輝く最も大きな下弦の半月、それよりもやや小さな蒼い満月。そして最も小さい白く柔らかな光を反射している上弦の三日月。


「特殊な訓練を積んだ……経験をつんだそういったやつらなら何とかなるんだろうけれどな。俺のようなしがない剣士は魔法の加護でも貰わん限り、火の傍を離れて何かをするのは無理だ」


 少女の表情をどう受け止めたのか。


 男はそれだけ言うと、少女に背中を向けて座りなおした。それからおもむろに、少女一人くらいならすっぽり入りそうな背嚢をあけ、何やらごそごそと探りながら言葉をつなげる。


「先の事はともかく、俺は“はぐれ”のことを頼まれた村に戻り、そこの長に報告しに行かなくちゃならん。とりあえずその村までは一緒に来てもらう」


 来ないという選択はなしだ。お前、この森の中で一人で何とか生きていくことなんかできないだろう?


 男の言葉通り、晶にこの森で生きていく能力はかけらもない。特技柔道程度の普通のサラリーマンがサバイバル技術などもっているわけがない。


 かといって、男の言葉に従うままでいいのだろうか?


 多分、この男は自分に対してよからぬ考えを持っていない……と、思う。というか持っていたらいろんな意味でまずいというか、ロリコンだったら死ね。そうじゃなければごめんなさい。


 月を見上げながら晶はそんな殺伐としたことをぼんやり考えてはいるが、この男についていく以外にどうすればいいのか見当もつかない。


 自分にはあまりにも選択肢……というよりも情報がなさ過ぎる。


 ここがどこかもわからず、社会制度や人口や宗教……それどころか最も根源的な、何が食べられて、何が食べられないのか。そんなことすらわからない。

 どこか大きな町や村まで行けば余剰な食料だってあるだろうが、そもそも貨幣経済が成り立っていなければ、物資の購入だって容易ではない。


 もっとも、無一文なのでそこら辺を気にしても仕方がないのだろうけれども。


 それに、目の前の男と明確に違う生き物であるらしい自分の身体も……今後どうやって普通の人間と接すればいいのか。


 言葉が話せないというコミュニケーション上のハンディがある上にこの状況はどんな罰ゲームかと、少女は項垂れて小さくため息をついた。


 そんな少女の態度をどう思ったのか、何とも思っていないのか。目当てのものを取り出したのか、男は焚火の前で座りなおし、何やら手作業を開始する。


 何かを切る音、釘を叩くような音が時々響き、その音の間に薪がはぜる音が静かに混ざる。


 それがどれくらいの時間続いたのか。


「まあ、先の事はその時に考えればいい。とりあえず今日のところは寝ておけ」


 その言葉の裏に何かがあるのかと晶は一瞬考え、そんなことを考えた自分に苦笑を浮かべると、男の言葉に従いその場で横になる、

 何はなくとも体力を回復しておくことは必要だ。


「ああ、これだけは寝る前に決めておいたほうがよかったな?」


 男の問いに、横になった姿勢のまま少女は視線をその背中に向ける。


「いつまでもお前呼ばわりは不便で不自然だろう?せめて呼び名を決めときたいんだが?」


 その言葉に晶は小さく頷いて見せる。その動作を気配だけで察した男は軽く肩をすくめて見せ、暫くの間聞きなれない単語をつぶやきああでもない、これはちょっと違うとぶつぶつつぶやき続けたあとで、少女の方を向いてひとつの名前を告げる


「安直だが<夜の娘>アーケィ=ウィラーにあやかって……縮めて“アクィラ”というのはどうだ?」


 ――そう言われてもなー


 いいか、と問われてもこの世界の神話やら物語やらを知らない晶には何とも応えようがない。せいぜい元の名前と発音が近くて助かるくらいの感想しかないのだが。


 首肯して見せた少女に対して男はほっとしたように息を漏らした。


「名付けたなら俺の名も教えないといけないな……俺の事はドゥガと……呼べないんだったな」


 まあいい。とりあえず覚えておいてくれ。


「それじゃあお休み、アクィラ」


 ――おやすみ、ドゥガ


 ドゥガの言葉に晶は心の中で返事を返し、瞳を閉じる。







 この世界に本来の姿と全く違う容姿を与えられ、自分というものを認識した直後、命の危険にさらされ、声はなくとも叫びを上げ、初めてこの世界の食べ物を口にし、保護された人間から名前を与えられる。


 ある意味この瞬間、晶はこの世界で生きていくことを許されたのかもしれない。母の胎内から生まれ落ちたあとに体験する出来事を、まるで儀式をこなすかのように体験したことによって。


今回からサブタイトルつけることにしました。

主に自分用に


そしてようやく名前が出ました職業なぞのけんし

でも多分あんまり名前を使わない気がするのはまあ、晶が喋れないせいですね。

誰だこんな設定にしたやつ。



一応後々話の中で説明があると思いますが、一部解説


<夜の娘>アーケィ=ウィラー


白い月に住む夜と休息と再生を象徴する神エリオン=メシスの娘。安寧と眠りを象徴し、その父の権能の一部を受け継いでいることから生と死も司ると言われている。

死に関しては安寧の中に含まれ、生は父の再生の中に含まれる。

外見は長い黒髪と黒い瞳をもった若い娘とされているが一部地域では妙齢の女性とも言われている。


 一筆解説としてはこんな感じの神様です。作中で関わってくることは多分……ないといいなぁ




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