表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
24/59

二三・短慮

すいません今日はちょっと短めです。

本日のキーワード:忘れていたチート

2012/01/26:誤字修正・ご指摘ありがとうございます


 少女が決めた覚悟とは、取り立てて特筆するほどのものではない。


 いざとなったら自分で自分の命の始末をつけようという、浅はかなものだった。

 それはディーやイーシェ、ジェネリアの行為に対する冒涜であることに気が付かない、愚かしい短慮。

 しかしその日ついに、少女はその決意と覚悟を披露することはなかった。





 戦いは熾烈さを増していた。


 妖精種の攻撃は未だ統制が取れていない散発的なものであったが、それでも人数が増えてくれば、その攻撃密度は徐々に上がっていく。

 増援部隊の幾人かは弓を持ってきていたのか、散発的ではあるが牽制するように飛んでくる矢の存在も鬱陶しい。

 火災により徐々に上がっていく気温は、余計な汗の原因となり、無駄に体力を削っていく。


 それでもディーがまだ闘えているのはその、女性としては頭一つ飛び抜けた闘う能力そのものにあるだろう。

 しかし、それだけでこの人数差を克服できるものではない。


 ――……手加減……なんかする理由はありませんですよね?


 また一人、その手に握る大剣で襲撃者の一人から両腕を奪ったディーは、戦場で起こる事柄を知覚するのにそのほとんどを割いている頭の片隅でちらりと考える。


 妖精種の襲撃者は、さっきから一度も魔法を使ってきていない。

 確かに妖精種が使うそれは、符とは違い発動のために手で印を組み、励起文と呼ばれる文言を読み上げる手続きを行う必要があり、無論それは大きな隙として存在する。


 しかし今の状況のように、多数で囲んでいるのならばその程度の隙など無視できるはずではないか。


 ――……考えるのは後回しですよね……


 理由は判らないが、使わないでいてくれるのならばそれに越したことはない。

 どちらにしろ妖精種が魔法を使うためには立ち止まり、手で印を組み、励起文を読み上げる必要があるのだから、見てから動いても問題ない。今のうちはだが。


 すべてが破綻する時間は必ずやってくる。


 そして彼女たちにそれを避ける術は今のところ、ない。





 無力な少女がその時それに気が付けたのは、逆説的だが少女が無力だったから、であろうか。


 自らの無力を痛いほどその心に刻んでいる少女は、ひたすらその戦場を見つめ続けていた。

 自分の事を守るために危険をその身に集中させているディー。自分の事を狙うが故に、ディーの剣で物言わぬ躯になっていく妖精種。

 どちらが被害者か加害者かも判然としないその空間であるが、それを作り出した原因はただ一つ。


 言葉も話せない、無力な自分がここにいるからである。理不尽ではあるが、それくらいは少女にもわかる。


 ならば目を逸らせるわけがない。


 少女はそう思い、戦場を見つめ続けていた。自分というモノが、いかに騒動を呼び寄せる存在なのかという事を痛感しながら。

 そんな中、背筋に不意に怖気が走った。


 ――……これは……?


 その感覚には覚えがあった。

 この世界に紛れ込んだ次の日の朝、ドゥガが採集してきた野草の山を見かけた時。

 その時に感じた得も言われぬ恐怖と不快感。


 ――誰かが毒を使おうとしてる!?


 慌てて少女が視線を巡らせたその先にいたのは、右腕を失った妖精種の襲撃者だった。その表情はすでに蒼白で、その目は何も映していないかのように暗く、もうその命が残り少ないことを示しているかのようだった。

 だからなのだろう。最後の力を振り絞り、残された自分が持つ最悪の攻撃をしようと考えたのは。

 結果がどうなるか……味方を巻き込んでしまう可能性も考えずに。


 襲撃者は背腰に装備していた材質不明の水筒のような筒を、左腕一本で何とか取り外し、その口を塞いでいた蓋を開けた所だった。


 ――それであれが毒だとわかったのかな……


 そう思った時には少女は短剣を引きずりながら、その男に向かって飛び出していた。


「イラちゃんっ!?」


 少女の突然の行動にディーが叫んだが、少女は止まらない。あの男の手の中にあるそれがどれだけ危険なのか、少女には判る。

 僅かな傷でもあればいい。そこに爪の先ほどの量でも触れればいい。

 それだけで人の命を奪う。そういった毒なのだ。


 ――ぶち撒けられたらそれで終わりだ!


 あの毒はディーだけでなく、ディーに傷つけられた襲撃者たちの命も奪うだろう。

 そのことがなぜか我慢できない。

 理由は自分でも思いつかなかったが、とにかくもう目の前でこんなに人が傷つくのを見ていられなかった。嫌だった。


 だから少女は短剣を振り上げた。


 あるいはそれこそ子供のような、やけくそじみた怒りの発露だったのかもしれない。

 これまでずっとため込んできていた鬱屈が噴出したのかもしれない。

 もしくは自己満足でもあるのか。


 この場でただ一人、ついに傷つくことがなかった、敵にも味方にも守られている自分が許せなかったから。

 この場に立つ資格……自分の手だけが汚れていないというのが、どこかで耐えられなかったのかもしれない。


 だから少女は、背後からその男を斬りつけた。誰かが傷つくのが嫌だという思いが、確かにあったはずなのに。


 この場にいる命、敵味方を含めて守るという無意識の自己満足のために。


 だからだろうか。

 戦場であるまじき自己の満足を充足させるための行為に……たとえそれが多数の命を守るためであろうと……ただ己のためだけに行動したことは間違いなく。


 行為に対する罰は直後、明確な形となって少女に襲いかかってきた。


「馬鹿者!それは姫っ!!」

「イラちゃん!!?」

「アクィラ様!?」


 無言のままだった襲撃者の誰かが焦った声を上げ、ディーが悲鳴を、イーシェとジェネリアが驚愕の声を上げたその時にはもう、少女の身体に三本の矢が突き立っていた。


 右手に剣を、左手に盾を備えた男がいきなり現れたのは、少女が当たった矢の勢いで身体を吹き飛ばされ、鮮血に塗れた地面に身を横たえた、まさにその時だった。










みんな残業が悪いんや。

まあ、それだけじゃないんですが今回ちょっと難産でした。


そんなわけで自己満足は身を滅ぼすというか。

たとえ最悪の純血主義者でもその主張は命がけでしているわけで、ディーも命がけでアクィラを守っているわけで。

そんな命がけの場に不用意に、命を賭ける覚悟なしに突っ込んだらどうなるかなって話だったんですが……

最初はもうちょっと穏便な感じだったんですけどね

いかんせんドゥガと絡まない場合アクィラは独白が多すぎてテンポ悪いので早く合流させたかったんですが、なんでこうなったんでしょう?



ここ三日ほどでユニークの方、お気に入りに入れてくれる方が急増してるのがうれしいやら恐ろしいやらですが、ともかく読んで下さってありがとうございます。

今後もお付き合いいただければ幸いです。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ