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この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
2/59

一・獣と餌

2012/01/13:サブタイトル修正

2012/01/21:誤字訂正。ご指摘ありがとうございます。

 どことも知れない森の中から、晶が聞いたこともない不吉な調子を伴った獣のような鳥のような叫びが一つ、響き渡る。

 それが収まると再び、まるで何かを確かめるかのようにもう一度、今度は小枝が折れる音がやけに軽い調子で晶の耳朶を打った。


「……!!!?」


 恐る恐る振り返った晶の前にあったのは巨大な――巨大な獣の姿だった。


 それは恐らく……多分間違いなく狼なのだろう。少なくともイヌ科の生物であることは間違いない……と晶は思う。たとえその大きさが那須高原で見た牛よりも大きかったとしても。


 無論そんな巨大な狼など晶は見たことなどない。


 晶自身が見たことがある狼はTVの向こう側の映像であり、動物園の檻の向こうにいるそれだけである。それでもこんな巨大な狼は晶の知る世界には存在していないし、記録があったとしてもそれこそジェヴォーダンの魔狼のような半ば御伽話のようなものしかない。


 あまりといえばあまりの事態に晶は目の前の巨大な生物を呆然と見上げ、獣の瞳を覗き込んでしまいそして、その場にへたり込んでしまった。


 ――自分はもう、この獣の餌になるしかない


 獣の瞳から放たれていたのは人間のそれとはまったく次元を異にした、そしてそれ故にどこまでも純粋で強烈な殺意。目の前の獲物を襲い喰らい自らの血肉に変えるという限りなく透明な野生の決意。


 何をどうやっても逃げることはかなわない。


 どういった理由や理屈、はたまた偶然が作用したのかはわからないが、少女になってしまっている今では……おそらく男の姿のままでも。


 低くなってしまった視線の先にいる獣は無力な農奴を戯れに嬲る貴族のような、むしろゆったりとした足取りで晶にその身を寄せてくる。

 その口元からだらだらと涎を垂らしながら。僅かばかりに興奮しているのか生臭い息を漏らしながら。


 ――まさかこんな風に死ぬなんて思ってもいなかった……


 晶は近づいてくる死神の体現のような巨大な狼をぼんやりと眺めながら、心の中で呟き、同時に祖父が亡くなった時の光景を思い出す。

 最後の時は病院のベッドの上であったが、両親と自分と妹。それから近隣に住んでいた幾人かの兄弟と親戚に見守られながらの、大往生というのにふさわしい安らかな死であった。


 ――俺も爺ちゃんみたいな、いつかあんな風に死ねるといいなと思ってたのにな……


 しかし今目前に迫っている死は、そんなとりとめのない夢想とは正反対。見知らぬ森の中で、自分が自分であると示す身体はおおよそ信じられないそれになってしまい、見守るものもなく獣の餌となるような死。


 知らないうちに両目からとめどなく涙があふれかえり、不意に股間が熱い液体でびしょびしょになる。

 かすかに漂うアンモニア臭と、急速に広がる下半身の不快感に眉を顰め、こんな状況下で不快感を覚える自分の精神に思わず苦笑いを浮かべた時、どこかから小さな風を切る音が響いた。


R15指定するの忘れてた…


ジェヴォーダンの狼は18世紀半ばにフランスに現れた狼?で詳しくはWikiでといいたいところなんですが、あれに乗ってない解釈も書籍であったりするのでそこらへんは自己追跡してください。

一応ファンタジーなんで狼王ロボよりもこちらを引用してみました。

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