一一・戦いの夜
昨日投下分が少し長めだったんで、ちょっと短くなっちゃいました。
ご意見ご感想へのお返事は感想一覧の方でお返事してますのでよしなに~
2012/01/13:サブタイトル修正
2012/01/23:誤字修正・ご指摘ありがとうございます
「手際が良いのか悪いのか……」
ほんの僅かだが、追撃者から距離を取ったところでドゥガは腰に下げていた幾つかのポーチの中から包帯を一つ取り出した。念のため強度を確認してから手早く短刀の柄に結び付ける。それから同じような細工をブーツに括り付けてあった太さ半エリル、長さ一メリンほどの投擲武器四本にも施していく。
夜間ではあるが、その手元にいささかの狂いもないのは頭上に輝く三つの光玉のせいである。
「夜戦の基本の一つとはいえ、三つも貼り付けるか」
遠方から射掛けられる矢が周囲に突き立ち始めるのを無視し、手早く作業を進めていく。
夜間の戦闘で敵対者が少数だった場合、取り逃がす場合も多く同士討ちの発生も予想されやすい。
そのための対策として用いられる方法の一つが、不審人物から七メリンほど頭上の空間に在り続けることを指定して、継続的に光を放つ“光玉”の魔法を括り付ける方法である。
この場合、対象が何らかの魔法的防御手段を持っていたとしても、その影響を受けることはまずない。“光玉”影響を与えているのは対象者の頭上の空間であり、その副次効果で対象者の姿が闇に浮かびあがっているだけなのだから。
だがこれは、個人の技量を頼みとする傭兵の取る方法ではない。傭兵ならば各々が夜間で戦える個人的な技量、技術をもっているはずで、持っていなければ早いうちに自分の命で技量不足を購うことになる。
なにより“符”は揃えるのに金がかかる。
つまりこれは、複数の専門職を抱え、ある程度の資金が用意でき、装備に金を回せる集団の取る手法である。
実際今相手をしている“敵”は戦術指南書の基本通り、三~五人一組で、ドゥガの事を追い立てている。剣と槍と弓で基本一組を作りそれに増兵されている感じである。
が、それはあまりにも教本通り過ぎる。
一組一組の……点と点の距離が広すぎる。他の組と連携できなければ線にならず、よほど注意していても、線が出来ていなければそこから逃げられてしまう。
……つまり正規の訓練はしているが、実戦経験はなし、という事か。
思っていたよりも事が大きくなりそうな嫌な予感にため息をつきつつ、細工をした短刀を頭上に投げ、柄から伸ばした包帯を器用に操り“光玉”を消し去る。
”天空から地に落ちた星の欠片から作られた刃物はあらゆる魔法を斬る”
あらゆるというのは誇張された表現だが、光玉や各種魔法の矢程度ならば消し去る程度の能力を持っている。魔法の矢を消し去るには、とんでもない技量も必要になってくるが。
「こいつを持ってきたのがよかったのか悪かったのか……」
一瞬にして暗闇を取り戻したのと同時に男はあらかじめ確認していた、最も人の多くいる方へと音をたてないように最大限注意しながら走り出す。暗闇の中を伝わってくるのは動揺した複数の気配が伝わり、直後森のあちこちで光玉が浮かび上がるが無論昼間ほどの明るさをもたらすことはない。
その慌て様にドゥガは音もなく苦笑を漏らした。確かに教本通りだが……もう少しやりようがあることを、少し場馴れした人間ならいくか思いつける。それとも光玉を消されること自体は完全に想定外だったのか。
――別に星の欠片で作った短刀など、さほど珍しいものではあるまいに……この辺りは確か、カレント男爵領だったか?
“はぐれ”を討ち取った“大森林”の南部一帯を治めるクロッサン王国は大陸有数の国家であり、その版図は広い。が北部は“大森林”と妖精種の帝国エルメ=ナンドとの協定があり不可侵。東部に接するのは有象無象の都市国家群で脅威になる国家は遥か東岸のセジ=ネージ藩王国くらいであり……つまりこの近辺ではここ数十年戦らしいモノは起こっていない。
――実戦を経験する機会がなくとも、そこはどうにかするのが領主の才覚だろうに……
正面にいるのは五人。光玉に照らしだされるその姿……同系統の竜革鎧を身に着けていることを考えると、やはりそういう事なのだろう。
――男爵殿が奴隷商人の手引きか……いや、本人自らか?
ドゥガは集団の側面に回り込みつつ、集団の正面を通過するように長さ3メリルほどの長さの包帯を括り付けた投擲武器を投げる。
……先代の評判はさほど悪くなかったんだが……
視界をよぎる、白くて長い不思議なものに集団の意識がそちらへ向いた瞬間、ドゥガの素早い蹴り足が二人の男をまとめて吹き飛ばし、最も振り向くのが早かった男は振り下ろされた短刀の柄で鎧の上から鎖骨を砕かれ、最も反応の鈍かった二人はそれぞれ右と左の腕を掴まれた瞬間肘を逆方向に折られ、ついで倒れたところでそれぞれの膝を砕かれる。
「……い……賊はここだーっ!」
膝を砕かれた男の片割れが、激痛をこらえながら叫びを上げ、その声に他のものが反応を返す前にドゥガは闇にその身を潜ませる。
……賊……ねぇ
確かにこのまま少しずつ戦力をそぎ落としていけば、この場は制圧することが出来るだろう。しかしその後は?お尋ね者になるつもりはないし、たとえそうされてもどうにかできるくらいの伝手も多少はある。
……アクィラを置いてきたのは失敗だったか……
口のきけない妖精種の少女の事を思いながら、不用意に……手に取るような怯えを見せながら集団から離れ、一人で歩いている兵の背後に音もなく近づいた。短刀の柄で防具の継ぎ目を狙い、正確に鎖骨を砕くと悶絶する兵士の装甲のない脇腹に手刀を叩きこんで意識を刈り取る。
黒髪黒目の妖精種の、恐らく古血統の少女。森の中の実にこまごまとしたことに驚き、話すことが出来なくともその表情で懸命に自分に問いかけてきた、知識がない割に人の機微や人の営みには空恐ろしいほどの理解を示す娘。
確かにあの娘をこの場につれてくることは無謀だったろうが、かといってあの場においてきたままでよかったのだろうか?
あの時はまだ、この地の領主まで一枚噛んでいる可能性まで考慮に入れていなかったとはいえ……
「出てきなさい傭兵ドゥガ!あなたの連れの娘はこちらの手にあります!」
あの優男の長の声が、ドゥガの耳に届いた。
寸法の表現が出てきたので寸法表再掲載。翻訳は丸投げ……
1エリル=2.8センチ
10エリル=1メリン=28センチ
100エリル=10メリン=1ロイ=2.8メートル
やっぱり戦闘は地味でした。主人公が非力幼女な分アクションはお父さんが担当なんですけど……彼も堅実安全着実優先の人なんで基本戦闘が地味に……
やってることは正直人間離れしてる気もしますが。
そしてやっぱり地味な魔法。ただこれはドゥガが隕鉄製の短刀もってたんで効果があんまりありませんでしたけど、なかった場合かなりひどい目にあいます。
例えるなら絶対逃れないサーチライトを浴びせられ続ける状態なわけで、遠距離から弓で狙われ続けて終わりです。夜戦で探照灯照射担当した駆逐艦がフルボッコにされる理論ですね。普通なら。
ちなみに隕鉄製の武器はドゥガも言っているようにそんなに珍しいものではありませんので、魔法の武器扱いはしていません。一般的な暗殺者のご家庭なら二~三本常備してるような代物です。成人のお祝いに送られたりしかねない程度のものです。
お値段もさほどお高くはありません。
素材が隕石なだけで、製法事態に特殊性もなく、鍛造鋳造どちらでも同じような効果を持ちますので。
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