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この空の下、大地の上で  作者: 架音
一章・古血統の少女
10/59

九・村長

2012/01/13:サブタイトル修正

2012/01/22:誤字修正・ご指摘ありがとうございます

 ――思った通り、小さいところだなー


 少し離れた場所から村を見た時に抱いた感想を、晶は改めて繰り返し、小さく納得するように頷いた。


 村の中央にあるのがまず井戸。それを囲むようにやや広めの広場。さらにその周りを囲むように不規則に立てられた家の数は約一〇軒。そこから察するに、村の人口は四〇から五〇人程度だろうか?

 森に近い側が草食トカゲの放牧場になっているらしいので、おそらくこちらからは見えない村の向こう側に、耕作地があるのだろう。


 ――……子供はいないのかな?


 時刻は……判らないが、もう少しで夕刻になるだろう刻限だ。これだけ小さな村だからひょっとしたらいないのかもしれないし、もう家で大人しく過ごす時間なのかもしれない。


 ――……しかし、微妙に人の気配もないような……


「俺が村を出たときはもう少しにぎやかだったんだがな。まあ、聞いてみればわかるだろう。ちょうどあそこにこの村の長がいる」


 そう言ってドゥガが指差した先にいるのは、一人だけ身なりの良い恰好をした優男と、それを取り巻く数人の男たち。


 ――よかった。さすがにドゥガみたいなのはここでも規格外なんだな。


 視線の先にいる男たちは、晶から見てもごく普通の体格の者達ばかりだった。具体的には池袋でよく見かけるスーツ姿の男たちくらい……まあ、こちらの住人の方が多少は体格がよさそうではあるが。


 そんな男たちの中の、一人だけ身なりのいい人物がドゥガの言う村長なのだろう。他の住居よりも幾分立派な建物の前にいること。ほかの男たちに何か命令するような感じで指を指示しながら話をしていることから考えると、なのだが。


 ――あんな若い優男が村長?


「なんでも先代の孫らしい。依頼をうけた一週間前に本人から聞いた話では西の方の大きな町……ベルゲンスタインだかで商売をしようとしていたそうだが……」


 ――それ、失敗して逃げてきたんじゃないか?


 微妙な目つきで少女は男を見上げ、男はその視線の意味を正確に理解し、声を殺した笑いをもらす。


「世の中の事は殆ど知らないくせに、どうしてそうも簡単に、世の中を動かす仕組みは察することが出来るんだ?」


 ――そっちこそ、どうしてそんなに簡単に俺の考えてることがわかるんだ?


「お偉いさんとの腹の探り合いなんか、昔は多くてな。これもまあ経験の賜物ってやつだが……とりあえずお前の表情と行動は一々わかりやすいのが最大の理由だな」


 この三日の間で恒例になりつつある、無言の少女と男の掛け合いに気が付いたのか、村長らしい優男がこちらの方に視線を向けてくる。まずは大きく目立つドゥガの方。そしてその横にいる少女に向けられる視線。


 その視線に少女の背中がゾワリと震える。


「これはこれはドゥガ殿!お伺いしていた刻限よりもまだ大分早いお帰りでしたが、“はぐれ”の方は片が付いた……そう考えさせて頂いてよろしいのでしょうか?」


 少女がその身を震わせてしまった理由に頭を巡らせている間に、優男はそう話しながら二人の傍へと、取り巻きの男たちを引き連れてやってきた。

 その表情は男の帰還を喜び、依頼の首尾がどうなったのかに期待し、予定よりも早かったらしい帰還に訝しげな表情を浮かべた……演技を見せた。


 ――まあ、なんというか


 先ほど一瞬感じた悪寒の理由を訝しみつつ、ほんのりと生温い視線で少女は男のことを眺める。


「森の導きもあったのだろう。三日ほど前に遭遇し討ち取ってきた。待っていろ、今証拠の品を出す」


 そんな優男の様子に気が付かない……いや、おそらく気が付いているのだろうが、無視しながらドゥガは背嚢を下し、その大きな入れ物中をまさぐり始める。


 優男一人が話しかけてきたならばまだ、確信を持つほどの疑念を自分もドゥガも感じなかっただろう。

 だが、取り巻きの男たちの態度がいけない。全身から『なんでこんなに早く戻ってこれたんだ?』という困惑した雰囲気を振りまいている。


 ――……あれ?なら戻ってくること自体は予定のうちってことなんだよな?


 ドゥガが戻ってきたこと自体を疑問に思っている感じはしない。ならば困惑の理由は早すぎる、彼らにとって予定にない帰還にあるのではないか?

 ドゥガの帰還を早すぎると思う原因は?


 ――さすがに妄想過ぎるか―


 ここの常識を自分は持ち合わせていない。大体のところは共感できる、とは思うのだが細かな所での感覚の差異は、その都度出くわすたびに感じ、覚えていくほかない。


「ところで随分村の中が寂しいようだが、俺が出た後でまた何かあったのか?」


 目当てのものだったらしい布包みを取り出し、立ち上がったドゥガがそう尋ねると、優男は心底申し訳なさそうに頭を下げる。


「申し訳ありません。あなたの力量を疑ったわけではありませんが、この村を治める者としては住人の安全確保が第一だと思いまして」

「どちらかに疎開させたということか……しかし、ここから一番近い村でも西に三日はあるだろう?移動は大変ではなかったか?」

「それなんですが、ドゥガ殿が出られた二日後に東のエリアスタ公国から隊商がいらっしゃいまして。たまたま空き荷の馬車がありまして、女子供はそれに便乗させていただくことに」

「ほう……それは僥倖だったな。さて、これが証拠の品だ」


 ドゥガはそう言うと包みを広げ、ドゥガの握った拳ほどの大きさの二本の白く尖った牙を披露した。その巨大さに優男を含める男達は息を呑み、少女は“あの瞬間”を思い出して表情を硬くし、ドゥガはそんな少女の頭を労わるように軽く叩く。


「森林狼の“はぐれ”の牙だ。大物だったぞ?大きさは……そうさな高さは角竜、体長は七齢の草食トカゲほどはあったかな」


 そのドゥガの言葉に村の男たちはその巨大さを想像して身を震わせ、少女は初めて聞いた“角竜”という背の高い生き物がいることを想像して首をかしげる。


「それは……よく御無事で戻られましたね……しかもこれだけ早く……」

「なに、今回はこの娘が助けてくれたのでな。こちらも僥倖を得ていたわけだ」


 その男の言葉に、優男は今さら気が付きましたという白々しい態度で少女に視線を送る。


 ――不自然すぎるっていうか、あからさますぎるんですけどー?


「これは……妖精種の方ですか……」


 見ればわかるだろーという突っ込みを内心で入れつつ、まるで内気な少女であるかのように、晶はドゥガの太腿にギュッとしがみつき、そのまま半身を隠してみる。ついでに上目づかいで優男を見つめてみるオプションも付け……その自分のわざとらしすぎる行動に思わず赤面して俯いてしまう。


「理由はわからんが、森の中に置き去りにされていたらしくてな。この娘を襲おうとしてねぐらから出てきた所を仕留めさせてもらったというわけだ」

「そうでしたか……いやしかし、こんな美しい娘をあの森の中に置き去りですか……」

「まあ、それだけ厄介な理由でもあったんだろうさ」


 俺は関係ないとドゥガは肩をすくめ、アクィラはその言葉に不安そうに体を震わせて見せる。


「そうでしたか……ならばこちらのお嬢さんは、お礼代わりに私どもに預けさせていただけないでしょうか?」


 優男の言葉に、ドゥガは僅かに眉をひそめ言葉を促す。


「ドゥガ殿はこれから南の方へ行かれるご予定とお伺いしております。その旅程にこれほど小さい子を連れて行くのはご負担でしょうかと思いましたので……せめてものお礼代わりということで私どもの村でお世話をさせていただければと思いまして」

「ふむ……なるほどな……まあ少し考えておこう。置いていくにしろ連れて行くにしろ、この娘と話をしなければならないからな」

「それはごもっともですな」


 ドゥガの言葉に男は頷き、それから思い出したように顔を上げる。


「おお、そういえばもうこんな刻限ですな。“はぐれ”の脅威から村をお守りくださりありがとうございました。つきましてはささやかながら晩餐をご用意させていただこうかと思っているのですが」

「そうか……まあ遠慮するいわれはないな。頂かせてもらおう……この娘も相伴させてよろしいか?」

「もちろんですとも。それではこちらでお待ちください」


 そう告げて優男は歩き出し、ドゥガとアクィラの二人もそのあとに続く。


 ずっと無言のままだった男の取り巻きの、なんとも言えない視線を背中に受けながら。





なんかドゥガの察しの良さが超能力じみてきてますが仕様です。


そしてついに登場した主人公以外の知的生命体!

名前は多分出てきませんけどね!








以下気になる方向けへのちょっとした解説と一部設定です。








 

当初から出てくる”はぐれ”にですが、突然変異の異常個体の中で、特に人間に害をなすものと考えてください。

なので、あらゆる動物種の”はぐれ”がいます。

植物の”はぐれ”もいます。

更に異常個体なのでその大きさ等の特徴も個体ごとに違います。

同一種の”はぐれ”でもその大きさはかなり違ったりします。

なお、ある一定の大きさを超える個体は自重を支えるために、ある種の魔法を自分にかけ続けていると考えられています。

あくまで推測しかなされていませんが。


戦闘能力は異常ですが、あくまでも野生動物です。

いわゆる魔法抵抗力が異常に強かったりしますが、野生動物です。

個体によっては一国を滅ぼしたりするらしいですが、野生動物です。


今後もそんな個体が出てくるかもしれません。


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