↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

追放令嬢は気づかない〜無口な最強影騎士が裏で故国を詰ませていることに〜

作者: ちいもふ
掲載日:2026/10/17


「……おい、ゴミめ。貴様との婚約を破棄する!」


 王立学院の眩い大広間に、第一王子アディエルの甲高い声が響き渡った。


 傍らには、悲劇のヒロイン気取りでアディエルの腕にしがみつく男爵令嬢ミーシャの姿がある。


「ミーシャのドレスを切り裂き、階段から突き落とそうとしたばかりか、毒まで盛ろうと企むとは……! 恐ろしい女め!」


 私――公爵令嬢レーナ・フォン・アルヴァは、胸の前で優雅に手を重ね、深く溜息を呑み込んだ。


 ドレス? 階段? 毒?


 どれもこれも、まったく身に覚えがない濡れ衣だ。


 弁明しようにもアディエルは聞く耳を持たず、そのまま「即刻の国外追放」という粗雑な宣告を受ける。


 あまりにテンプレ通りの理不尽劇だった。



 着の身着のまま国境の町へと追い出された私だったが、泣き寝入りするつもりは一切ない。


「よしっ、隣国で小さなお店でも開いて、たくましく生きていこう!」


 幸い、隠し口座の準備はある。


 問題は、隣国へ渡るために危険な「魔の森」を越えなければならないことだ。


 冒険者ギルドの扉を叩き、受付嬢に「一番安くて腕の立つ護衛」を依頼した。



 現れたのが、彼だった。


 全身に黒い衣服を纏(まと)い、背に長剣を差した男。


 宵闇(よいやみ)を思わせる黒髪に、妖しく光る琥珀(こはく)色の瞳。


 混血の魔族――「影騎士」のルーク。


「……ルークだ」


 低く重い声で呟く。


 感情の起伏が全く見えない、冷徹そうな佇(たたず)まいだ。


「レーナです。森を抜けるまでの護衛、よろしくお願いしますね」


「……承知した。任せろ」


 そっけない返事。


 けれど、私はまだ知らなかったのだ。


 ルークが「過保護」の概念を根底から覆すような、恐ろしい男だということを。



 旅に出て初日。


 野宿を覚悟していた私を待っていたのは、信じがたい光景だった。


「……ルーク? この天幕とふかふかのベッドは、一体……?」


「……問題ない。備品だ」


 どこからどう見ても、王侯貴族が使う最高級の寝具。


 ルークは無表情のまま、影の中からベッドを丸ごと引っ張り出していた。



 さらに夕食。


 野草のスープで済ませようと思っていた私の前に出されたのは、湯気を立てる極上の肉料理だった。


 一口食べると、肉汁が口いっぱいに広がり、頬(ほほ)が落ちそうになる。


「……おいしい! 何の肉ですか?」


「……ただの肉だ。(※伝説のSランク魔獣『グラットンベア』の希少部位)」



 翌日、森の奥で凶暴な魔物の群れに遭遇した時も凄まじかった。


 「きゃっ」と声を上げるより早く、ルークが私の前に立ち塞がる。


 剣を閃かせたと思った瞬間――


 パラパラ……。


 綺麗に風に舞う「灰」しか残っていなかった。


「え……魔物は……?」


「……風が強かっただけだ」


 いや、いくらなんでも無理があるでしょう。


 しかしルークはどこまでもクールに、私の身体を軽々と抱え上げ、歩き出すのだった。



 一方その頃。


 私を追い出した王国では、天変地異のような大混乱が巻き起こっていた。


「バ、バカな……! なぜ我が国の財政が破綻している!?

ミーシャの悪事が暴露されて、民が暴動を起こしているだと……!?」


 狼狽する第一王子アディエル。


 実は、レーナが夜すやすやと眠っている間に、ルークは自らの「影分身」を王国へ飛ばしていたのだ。


(……我が主を陥れた愚か者どもめ。生かしておく価値もないが、即死させるのは生ぬるい。

社会的に、存在ごと磨(す)り潰す)


 ルークは裏社会の頂点に君臨する「支配者」でもあった。


 王国の全不正を告発し、ミーシャの自作自演や嫌がらせの証拠を暴露し、経済のラインを裏から遮断して、王子と男爵令嬢を完璧に詰ませていた。



 やがて王国からレーナ宛てに「どうか戻ってきてくれ!」という、血を吐くような救済の書状が届く。


 だが、ルークはそれをレーナの目触れぬよう、無表情のまま黒い炎で燃やし去った。


「……雑音だな」



「――ルーク、ここまで送ってくれて本当にありがとう!」


 無事に隣国の街へ到着し、安全な拠点を確保した私は、笑顔でルークに金貨の袋を差し出した。


 これでルークとの契約は終了だ。


 少し寂しいけれど、素晴らしい護衛さんだった。


「お別れね。お世話になりました」


 私が背を向けようとした――その時。


 ガシッ、と強く腕を掴まれた。


「……え?」


 振り向くと、これまで一度も感情を見せなかったルークが、眉(まゆ)を痛切にひそめ、必死な眼差しで私を見つめていた。


「……どこへ行く」


「えっ、どこへって……私、お店を開くから……」


「……嫌だ」


「は、はい!?」


 あの無口な影騎士が、子供のように駄目を口にした。


「……俺の生涯の主は、あなただけだ。金などいらない。俺を……捨てないでくれ」


「す、捨てるだなんて! 契約が切れたから……」


「……あなたの邪魔をする者は……国ごと潰した。

追っ手も、愚かな元婚約者も、もう二度とあなたに触れられない。

……だから、ずっと俺の側にいてほしい」


 サラッと恐ろしい告白が混ざっていた気がする。


 国ごと潰した? 追っ手? まさか……。


「……駄目、か?」


 琥珀色の瞳を潤ませ、縋(すが)るように私を見つめるルーク。


 普段の無敵な強さと、自分だけに向けられる尋常ではない執着と甘い熱量。


 あまりのギャップに、心臓が跳ね上がった。


「……もう。最初から最後まで、過保護すぎるよ」


 私は困ったように笑い、ルークの大きくて温かい手をギュッと握り返した。


「お店の手伝い、忙しくなりますからね。

……ずっと側にいて手伝ってくれますか、ルーク?」


 ルークの瞳が歓喜に揺れた。


「……ああ。命に代えても」


 無口な最強護衛の、決して解けない過保護な愛に包まれながら――本当の幸せな人生が始まるのだった。

 ご覧いただきありがとうございました!


 無口な最強護衛が、裏で完璧すぎる手回しと過保護を発揮する短編でした。


 もし「面白かった!」「ルークの過保護さが良かった!」と思っていただけましたら、下部にある評価(★評価やブックマーク)で応援していただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。