雨音
それは昔のことでした。
私がまだ幼かった時のことでした。
田舎での遊びは限られていて、私はそれらの遊びをどうも好きになれませんでした。
そんなある日、ふと晴れた空の日に傘を差してみたんです。
親が買ってくれた新しい傘を早く差したくて。
でも、晴れた日に傘を差すのって恥ずかしいじゃないですか。
だから私は、人がいない場所を探したんです。
ほら、田舎にはそういう場所がたくさんあるでしょう。
そこで傘を差すと、雨音が聞こえたんです。
おかしいでしょう。
晴れているというのに雨音が聞こえたんです。
傘に雨が当たる音。
でも不思議なことに、その雨音を聞いているとだんだんと心地よくなってきて、私はそれから晴れている日にも傘を差すようになりました。
そんなある日のことでした。
いつもと同じように、晴れた日に傘を差していた時でした。
ふと傘に雨粒が当たる感触がしたんです。
ほら、あるでしょう。
雨が傘に当たって、僅かに揺れるあの感触が。
普段なら気にも留めないその感触に、私は子供ながら違和感を覚えました。
だってそうでしょう。
今は晴れているのですから。
だから気になったんです。
外の様子が。
そこで私は傘を閉じようとしました。
そして呼び止められました。
小さい子供だったと思います。
私よりも少し小さい子供だったと思います。
その子に言われたんです。
「今、傘を閉じちゃダメだよ」
そこで何となく、閉じちゃダメなんだと思い。
雨の音が鳴りやむまで、私は傘を差していることにしたんです。
でも、今になって思います。
もしあの時、傘を閉じていたらどうなっていたのかと。
ほら、最近は暑くなって来たでしょう。
だから、このことを日傘を差す度に思い出すんです。
もしあの時、あの子が居なかったらと。




