表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大人の童話  作者: 影野 紡


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/1

初恋に別れを

土曜日、居酒屋へ行き、同僚と別れた帰り道、ふと懐かしい歌声を耳にした。

見ると、路上でギターの弾き語りをしている。


「島田……くん?」


街の明かりに照らされたその顔は、故郷の高校の同級生だった。


「もしかして洋子? 奇遇だなぁ。こんなところで会うなんて」


「ほんと、何年ぶりかな。十年……? 確か、歌手になるって都会へ行ったわよね」


「あれから、あちこちオーディションを受けたけど全然ダメでさ。バイトしながら三年くらい頑張ったんだけど……」


「そうだったの。大変だったね」


「それで諦めて、今は会社員なんだ。でも歌は諦められなくて、土曜日だけここで歌ってるってわけ」


「へぇ、そうなんだ」


「うん、土曜日だけね」


「島田くん、私のために曲を作ってくれてたよね。なんだか、あの頃が懐かしいなぁ。そうだ! 今さぁ、あの頃みたいに私のために曲を作ってよ」


「できるかなぁ」


その時、黒い軽自動車が目の前に止まり、小さな女の子の手を引いた女性が降りてきた。


島田はにこやかに女性に手を振ると、


「紹介するよ。僕の妻と娘。この人はパパの高校の友達だよ。さやか、ご挨拶は?」


すると、小さな女の子はスカートの裾をつまみ、お辞儀をした。


「しまださやか。さんさい」


「はい、よくできました。次は妻の番。僕が紹介するよ。仕事で知り合った、僕の一番最初のファン、美知子」


その言葉に、一瞬胸がざわついた。


美知子は言葉少なに軽く会釈をした。


島田は美知子のお腹にそっと手を添え、笑顔で言った。


「今度、二人目が生まれるんだ。僕ももっと頑張らなくちゃ。ね、さやか。パパ、頑張るぞ!」


「パパ、がんばれぇ!」


美知子は恥ずかしそうにうつむいている。


なんだ、この光景は。

私は何を見せられているんだろう。


一番最初のファンは私なのに。


あの淡い初恋は、十年前にすでに終わっていたはずなのに、


私の居場所を、あの二人に奪われたような気がした。


今でも彼を思っているわけではない。


それなのに、なぜか虚しさだけが込み上げてくる。


「それじゃ、さようなら。お幸せに……」


私は笑顔で別れを告げた。


去って行く私に、島田一家は三人で無邪気に手を振っている。


私は振り返ることなく、夜の街へ歩き出した。


もう、この道は通らないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ