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4-5罪

 国王が断罪しようとするのを、継母がヒステリックな声で止める。


「お待ちください! 私と娘のメアリーは何も知らなかったのです!」


「そうです! お父様が勝手にやったことですわ!」


 父が目を血走らせる。


「なんだと! お前たちも一緒に……」


「見苦しい!」


 国王の怒声が響き、メアリーは一瞬ひるんだ。


「メアリー、お主の癒しのスキルが偽造であるという罪もあるのだぞ……」


 メアリーはびくっと肩を震わせた。

 リリアナは思わず口を挟んでいた。


「スキル偽造……?」


「そうだ。裏金を受け取りスキルを偽造したと、当時の神父が自白した」


 国王の肯定に、リリアナは言葉をなくした。


「そんな……メアリー、あなた今まで……」


 散々リリアナをスキル無し、役立たず、名無しと馬鹿にしてきたのは一体何だったのか。

 

 父は知らなかったようで、顔を真っ赤にしてぶるぶると震えていた。


「役立たずはお前ではないか!」


 父はメアリーを怒鳴りつけ、リリアナを見た。


「そうだ……リリアナ、お前は共鳴のアリア(歌姫)なのだろう?」


「………」

 答えなど求めていないように、父は目を怪しく輝かせて続ける。



「……さすが私の娘だ! 陛下、やはりヴァルデ家の優秀な血筋は争えません。メアリーは所詮、後妻の連れ子。

リリアナ、さぁ、うちに戻ってこい」


 メアリーが髪を振り乱し、怒り狂う。


「お父様! わたくしを侮辱するんですの!? スキルが偽造だということを見抜けもしなかった愚か者のくせに!」


「なんだと!」


 メアリーは、もう取り繕う必要もなくなったのか、聞くに堪えない罵詈雑言を父に浴びせている。


 あまりのことに、口を開くことを忘れたリリアナに代わり、ユリウスが答える。


「散々リリアナ様を虐げてきたくせに……今さら戻ってこいなどと……よくもそんなことが言えますね……」


 国王も、怒りを通り越して呆れたようだ。


「それ以上、汚い口を開くな。もう処罰は決めておる」


 罪人三名はぴたりと静かになり、国王を見た。



「メアリーとその母はムチ打ちの上、監獄で生涯囚われの身とする」


「いやああぁぁぁぁ!!」


 メアリーは、空を切り裂くような悲鳴をあげ、床に突っ伏して泣きわめく。

 継母は声も出ず、魂を抜かれたように宙を見つめていた。


 父は、自分のことだけが心配なようで、家族を心配することもなく、黙って王座を見つめ、自身の刑が言い渡されるのを待っている。

 国王が杖を床に突くと、その振動が床を震わせた。



「ヴェルデ当主は――処刑とする」


 場は一瞬静まり返った。実の父の極刑に、リリアナも息を詰まらせた。

 父は悲鳴のような叫びをあげた。



「陛下! どうか御慈悲を――」


 床に頭を擦り付ける惨めな姿は、公爵家当主とは到底思えない。



「慈悲だと? 虚偽の情報を伝え、外交を混乱させ……戦争を拡大させたのだぞ?

それにリタ国に協力し、リリアナの誘拐を幇助(ほうじょ)した。

加えて国庫着服などの罪も、いくつも余の耳に届いておる」


「ですが……」


「せめてもの情けだ。縛り首ではなく、ギロチンにかけてやる」


 最後くらい誇り高く……と言いかけた国王を無視して、父は、宿敵でも見るようにリリアナを睨みつけた。



「リリアナどうにかしろ!! 今まで育ててやっただろうが!!」



 メアリーも涙にまみれた顔を上げ、

「何が共鳴のアリア(歌姫)よ!! この悪魔!!お前なんか――」


 国王が、「個人の情状で罪を軽くする範囲を超えている」と制止するが、二人は狂ったようにリリアナを責め立てた。


 

 リリアナは、足元が崩れるような感覚がした。


 ヴェルデ家では、自分を守るために平気なふりをして過ごしていた。


――だけど本当は


 少しでいいから目を向け、声をかけてほしかった。

 家族の一員として過ごしたかった。


 たった一度でいいから『愛している』。

 その言葉が聞きたかった――

 

 心が締め付けられるように、呼吸が浅くなる。



――そのとき。

背後から、静かな足音が近づいた。


「リリアナ」


 気づけばオスカーが立っていた。怪我の身体を押して来たのだろう、杖を付き、顔色はまだ悪い。

 彼は何も言わず、リリアナの手を取る。冷たく震えていることに気づき、そっと引き寄せた。



「……罪は罪だ、許す必要はない。お前は、十分耐えた……」


 オスカーはそのまま、リリアナを胸に抱き寄せる。杖が音を立てて床に落ちた。


 リリアナは唇を噛み、家族――だった人たちから顔を背けた。

 彼女の小さな肩は、小刻みに揺れていた。

 


「お父様、メアリー……ごめん、なさ……い……」


 絞り出すような声。


 彼らがしてきたことを考えれば当然の断罪。それなのに、リリアナの心に深く傷を残している――

 オスカーは、ゆっくりと彼女の背中をさする。


 リリアナの嗚咽は、オスカーの胸に小さく吸い込まれていった――。


 




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