表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルなし王妃の逆転劇〜婚約破棄されましたが、拾ってくれた冷酷王が私の歌に執着します〜【毎日21:10投稿】  作者: 雪城 冴
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

1-3 初めての夜は歌とともにいだかれて


 式を終えたリリアナは、静かに初夜の準備を整えていた。

 



 面倒見の良さそうな侍女のソフィは、繊細なブロンドにブラシを通す。

「陛下のお母様も、それはお綺麗でしたけどね。王妃様はそれ以上かもしれません」


 オスカー王は幼い頃に母親を亡くしたと聞いている。リリアナは不謹慎ながら、共通点を見つけたような気持ちになった。

 


「あの、オスカー様は一体どのような方なのですか」


 ソフィはびくっと肩を震わせて、ブラシを落とした。


「あ、の……オスカー様は……少し。少し感情が表に出にくいだけなんです。それだけですわ」


(嘘だわ……)


 リリアナは、カンタレア国でのオスカーの噂を思い出す。


 氷冠(ひょうかん)の王、無慈悲、残忍――他にもあったが、どれも王の冷たさを表すものばかりだった。


 具体的には、王に逆らうものは即処分。

 美しい側室にも一切心を動かさずに、名前も呼ばず女性を物として扱う。彼に心を壊された妃たちは数知れず――


 そして、そのオスカー自身は泣きも笑いもせず、氷の仮面をかぶったように、全く表情が読めないというものだった。


 誇張(こちょう)もあるだろうが、今のソフィの様子と、結婚式の彼の態度からも、オスカーは少なくとも"わかりやすく優しい人"ではなさそうだ。

 


 リリアナは力なくほほ笑んだ。

 どんなに美しく着飾ったところで、王が自分をどう扱うかは想像できる。



 噂が本当なら乱暴に抱かれるか、放置されるか。

 もしかしたら、寝室に姿を見せないかも知れない。



「さぁ、お時間ですよ。きっと、うまく行きます」

 ソフィははげますと、部屋を出て行ってしまった。



 一人、ベッドに腰掛ける。

 室内には、時計の音と自分の呼吸だけが聞こえる。


 王は本当に来るのだろうか。


 寂しさを紛らわすように、リリアナは歌う。

 静かに、夜に溶けるように――



バタンッ



 はっと顔を上げると、乱暴に開いたドアの前にオスカーが立っていた。

 リリアナはすぐにベッドから立ち上がり、お辞儀をした。



(来てくださった……)

 そのことに、ほっとしている自分がいた。



「いつまで、そうしている」

 氷の刃で喉元をなぞられるような声だった。

 背筋がぞくりと粟立つ。


——違う。

 安心している場合ではない。

 ここは寝室で、相手は“冷酷王”。

 自分は今から、彼の気まぐれな慰みものにされるのかもしれなかった。


 足音が近づくたび、身体が言うことをきかなくなり、リリアナは一歩も動けずにいた。




(あ――)


 シトラスの香りが、間近で弾ける。

 次の瞬間、不意に視界が反転し、背中に柔らかな感触が伝わった。

 気づいたときには、ベッドに押し倒されていた。



 初めて、まじまじと彼の顔を見た。



 陶器のような肌。肩にかかる、美しい黒髪。

 そして、吸い込まれそうな瞳――


 魔力の国エルジアの王は、人間というより、人形と呼ぶほうがふさわしい。

 そこには、血の通った温度が感じられなかった。



 遅れて、リリアナは自分の身体が小刻みに震えていることに気づいた。


——来る。


 そう思った瞬間、心臓が嫌な音を立てて跳ね上がる。


(怖い……)


 目を強く閉じた、そのとき。

 掴まれていた腕から、ふっと力が抜けた。



(——え?)


 そっとまぶたを開けると、オスカーと視線が絡む。彼のスチールグレーの瞳が、一瞬だけ揺らいだように見えた。



「……体裁のためだ。誤解するな」


 それだけ告げると、オスカーは背を向け、ソファーに仰向けにもたれた。



 リリアナはうるさい鼓動を感じながら、ベッドから立ち上がった。まだ身体が震えている。



(体裁のため……)

 分かってはいたが、はっきり言われ傷ついた。

 初夜に王妃の部屋に行かなかったことを、周りにとやかく言わせないため。そのためだけにオスカーはここへ来たのだ。

 


(でも、それなら……どうして、結婚式で“誓いの言葉”まで省いたの……)


 胸の奥が痛んだ。


 周囲から向けられた、あの視線。くすくすと忍ばせた嘲笑。哀れみと好奇心が混じった、無数の目。



——王にすら愛されない王妃。

 あの場にいた誰もが、そう思ったはずだ。

 オスカーの一言は、不要な憶測を生み、そしてそれを否定する言葉も、与えられなかった。


 それともオスカーは、愛の言葉を口にすること自体が、——たとえ儀式であっても耐え難いのだろうか。

 そこまで拒絶されているのだろうか。



(……私は、いつもそうだ)



 スキル名がないから。

 価値がないから。

 役に立たないから。


 何ひとつ選ばれず、何ひとつ守られない。




 オスカーは、ソファーで目を閉じたまま言った。


「一晩中そこに立っているのか」


 そう言われても、王を差し置いてベッドで眠る王妃はいない。



 リリアナは仕方なく、ソファーから対角線上にある椅子に腰掛けた。

 オスカーは寝ているのか。ここからではよく見えなかった。



 視線を戻した左手の薬指には、シンプルな結婚指輪がはまっている。

 少し大きいそれを、指でくるくると回すと、愛の証は光を受けてきらめいた。



(本当に……結婚したんだ)


 抱擁もキスも、初夜もない――




「うるさい」

 急に彼の声がして、リリアナは はっ、と手で口を押さえた。

 気づかぬ間に歌を口ずさんでいたようだ。

 


「申し訳ございません……」



 再び部屋に静寂が満ちる。



 もうオスカーから返事はないと思った時、


「……俺が来る前も、歌っていたな」



 聞こえていたのか。

 リリアナは小さな声で「はい」と答えたが、今度こそオスカーから返事はなかった。 


 

 明日は成婚パレードがある。

 オスカーのことだけでなく、それを思うとリリアナは落ち着かなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ