2-1図書館
ナターシャのお茶会に招かれて以来、リリアナはずっと気になっていた。
(やっぱりこんなに音楽が嫌われるなんておかしいわ。エルジオ国の魔力のことも勉強しないと……)
図書館に行こうと部屋を出た。
ドアを開けた拍子に「いててっ……」と少し高めの男性の声がした。――オスカーではない。
「申しわけありません、お怪我は……」
「いえ、大丈夫です。ごあいさつが遅れました、ユリウス・ローゼです」
そう言って、お辞儀をした男性。柔らかい栗色の髪とヘーゼルグリーンの瞳が印象的で、年はリリアナと同じくらいに見えた。
彼は、オスカー幼い頃からともに育ったと言う。そう言えば初日からオスカーの横にぴったり付いていた。
「リリアナ様はどちらへ?」
「図書館に行きたかったんです」
「それでしたら、僕がお連れします」
ユリウスはにっこり笑う。
陽だまりのような笑顔だった。
図書館に着くと、リリアナは感嘆のため息を漏らす。
「まぁ……すごい量……カンタレア国にも、これほどの書物はなかなかないわ」
「オスカー様は、あぁ見えて博学で本がお好き……あっ……」
ユリウスは、しまったというように、手で口を覆う。
「あぁ見えてなんて言ったら、怒られちゃいますね。内緒にしておいていただけますか?」
「ふふっ、もちろん……オスカー様のこと、よければ聞かせてください」
息が詰まりそうな城の空気の中で、彼の存在はまるで爽やかな風のようだった。男性なのにどことなく可愛らしさがある。
ユリウスは「そうですね」と言い、意外なことを口にした。
「お優しい方です。オスカー様は」
そうなのだろうか。リリアナは気になっていたことを尋ねてみる。
「あの、心を壊したお妃様が、大勢いらっしゃるとか……」
「いやだなぁ……大勢だなんて。そんなことないですよ」
歯切れが悪い。
「一人はいらっしゃったと?」
「いや、それは……」
(いたんだ……)
ユリウスが視線を伏せたので、すぐに分かった。
リリアナは、オスカーが歌っていた曲が気になり始めた。
(あの曲は女性用の歌……もしかして、以前に想いを寄せていた妃のことを思って?)
「……心を患ったお妃様は、歌がお好きだったとか?」
ユリウスは、きょとんとした顔になった。
リリアナは核心を突いてみる。
「オスカー様は、女性物の歌を口ずさんでらしたのです。もしかしてそのお妃様のことが忘れられずに……」
ユリウスは顔の前で、手をぶんぶんと振っている。
「違いますよ! オスカー様の名誉のためにいいますけれど……」
ユリウスの話では、お妃はオスカーに恋焦がれていたが、王から寵愛を受けられずに心を患ったのだという。
「そうでしたの……」
「オスカー様は、なかなか心を開きません。ですが、理由なく女性を痛めつけるなどということは、"絶対に"なさいませんよ」
ユリウスは"絶対に"という所に特に力を込めた。
リリアナは、噂を鵜呑みにしてオスカーを疑っていた自分を恥じた。
「ごめんなさい、私……」
「いえ、誤解を解かずに深めるようなことばかりするのはオスカー様ですから……。
多分リリアナ様が仰っている歌は、亡くなったオスカー様の母君がお好きだった歌かと……」
その時、背後から低い声が響いた。
「おい、何をべらべら喋っている」
二人は振り返る。オスカーが立っていた。




