19 サーシャの家に行ってみた
ハールデンの町を歩いていると5歳くらいの男の子が走って来て俺にぶつかった。
男の子はその場に倒れて泣き出す。
「うわ~ん、いたいよう~」
「あ、ごめんね。大丈夫?」
俺は男の子に慌てて声をかける。
「あ、足がいたいよ~」
「足?ちょっと見せて」
子供の足を確認するとどうやらぶつかって倒れた時に膝を擦りむいたらしい。
他にはこれといってケガはない。
「これくらいなら水で洗って傷薬をつければ大丈夫だよ」
俺がニコリと笑うと男の子も安心したのか泣くのをやめた。
荷物の中から応急用の傷薬を出して水筒の水で傷口を洗い薬をつけてやる。
簡単な薬なら常備薬としてきちんと持ってきた。
ローゼン将軍が「傷薬などは旅人の必需品です」と教えてくれたからだ。
「あ、ありがと……お兄ちゃん」
「うん。俺も君に気付かないでぶつかっちゃってごめんね。君の名前は?」
「僕はルルグ」
「ルルグか。俺はハリーって言うんだ。立てるかい?」
「うん」
ルルグは自分の足で立った。
どうやら大丈夫そうだ。
「ルルグ!走っちゃダメって言ったでしょ!」
そこへ30歳ぐらいの茶髪に緑の瞳の女性が買い物用の籠を持ってやってきた。
「ママ!!」
ルルグがその女をそう呼んだ。
この女はルルグの母親か。
「ママ!このお兄ちゃんに助けてもらったよ!」
「え?」
女が俺を見た。
「すみません。ルルグくんとぶつかってしまってルルグくんが足を擦りむいたんで傷薬を塗ってあげたんです」
俺が状況を説明する。
「まあ、それは大変失礼しました。どうせこの子が前もよく見ないで走ったんでしょう。ご迷惑かけてすみません」
「いえ。これくらい平気です。俺は旅をしてるので応急用の薬を持っていただけですから」
「旅の方ですか。私はサーシャと申します」
「俺はハリーです」
俺がニコリと笑みを浮かべてサーシャを見つめるとサーシャは僅かに頬を赤く染める。
「ハ、ハリーさんは今日のお宿はどちらですか?」
「これから宿屋を探そうかと思っています」
「え?これから宿を探すんですか?」
サーシャが困惑したような顔になった。
ん?何か問題でもあるのかな。
「何か、問題がありますか?」
俺はサーシャに訊いてみた。
「ええ。実は明日からこの町では「花祭り」というお祭りがあるんです。ほら、みんなの家に花飾りがあるでしょう?なのでお祭り目当てのお客様が多く来てるからこれから探しても宿はどこもいっぱいだと思いますよ」
「え?そうなんですか」
俺は辺りの家の様子を見る。
確かにこの町の家はいろんな花飾りを飾っている。
この花飾りは「花祭り」の準備なのか。
皇帝をやっていた俺だが国内の全ての祭りを知っているわけではない。
花祭りというのも初めて聞いた。
う~ん、皇帝として国内で行われる祭りについてもっと勉強しないと。
ん? あ、そうか。もう皇帝じゃないから勉強しなくていいのか。
ついつい皇帝の時のクセがでてしまう。
「まあ、でも最悪野宿でも俺はかまわないので」
「そ、それなら私の家に泊まりませんか?」
「え?でも旦那さんに許可を取らないとじゃないですか?」
「だ、大丈夫です。お気になさらないで、どうぞ」
まあ、宿代も使わずに済むからいいか。
お金は無限にあるわけじゃないしな。
生活に困らないだけの資金はラッセンド宰相の目を欺いて密かに作り出したけど旅は何が起こるか分からない。
節約できるならそれに越したことはない。
だからサーシャの好意に甘えることにした。
「そうですか。じゃあ、お邪魔します」
俺はサーシャとルルグと一緒にサーシャの家に向かった。




