13 ミザリーナを指導することにしてみた
昼食を食べた俺は少しバラバの町を歩いてみることにした。
俺が皇帝だった頃はジルヴァニカ帝国の主要な町には行ったことがあるがこういう田舎町までは特別な用事がない限り来たことはない。
ローゼン将軍に捕まる訳にはいかないが特別急ぐ旅ではないしせっかく自由気ままに旅ができるならいろんな物を見ていろんな女と出会いたい。
俺が道沿いに町を探索しているとある女の怒った声が聞こえた。
「このクズ! ウスノロ! パーティーの時間に間に合わなくなってアルフレッド様に嫌われたらどうしてくれるのよ!」
「す、すみません! お嬢様……」
ある宿屋の前で貴族の女らしい金髪の女が鬼のような形相で年老いた従者らしき男に怒鳴っていた。
女の年齢は俺と同じぐらいに見える。
「どうしてすぐに馬車が直せないのよ! 私に次の町まで歩けとでも言うの!?」
「す、すみません! この町の馬車屋は一軒しかなく今は他の馬車の修理中なので私どもの馬車を直すのには夕方になると……」
「ああ、もうだから田舎町は嫌いなのよ! 私を誰だと思ってるの! サーレル子爵家のミザリーナ様よ!」
「も、もちろん、そのことも馬車屋に話したのですが貴族だからと特別扱いはできないと……」
「ああ、もう腹立つわね! 私は宿屋の中で待つからもう一度その馬車屋に行って早く直すように言って来なさいよ!」
「は、はい。承知しました」
ミザリーナという女が男にそう言うと男はミザリーナに頭を下げて慌てて走って行く。
ふ~ん、馬車が壊れて修理が必要だけど順番を待てって言われて怒ってるのか。
こういう性悪貴族の女っているんだよなあ。
俺がそう思ってミザリーナの方を見ているとミザリーナと目が合った。
するとミザリーナは今までの鬼のような形相を変えて軽く自分の金髪を整えて俺にニコリと笑いかけてくる。
「あ、あら、初めまして。あなたのような素敵な殿方の前で大声を上げてしまって失礼しました」
「え? ああ、別に偶然通りかかっただけだから」
「あ、あの、良かったらそこの宿屋の中で飲み物でも飲みませんか? 宿屋の一階は食堂で飲み物が飲めるんです」
ミザリーナは先ほどの態度が嘘のようにもじもじとして上目遣いに俺を見つめる。
その瞳にはハートマークでも浮かんでるように見える。
どうやら俺の外見がいいのを見て誘ってるらしい。
俺は性悪女に興味はないけどこういう貴族の女を放置していたらまた他の国民に迷惑をかけるかもしれない。
貴族をきちんと管理して国民の模範となるように指導するのも皇帝としての役目だ。
あ、今は皇帝じゃないけど。
セルシオが皇帝になった時にセルシオに迷惑をかけるような可能性があるなら芽が小さいうちに摘み取っておいた方がいいだろうな。
うん、これはセルシオのためになるよね。
俺はそう思ってミザリーナに微笑みかけた。
ミザリーナの顔が火照ったように赤くなる。
「ちょうど俺も喉が渇いていたんです。飲み物を奢ってくれますか?」
「まあ、もちろんですわ! 私はサーレル子爵家の者です。それぐらいたいしたことではありませんわ!」
うん、こういう自分の名前よりも爵位を名乗る人間ってろくな人間じゃないんだよね。
やはりこの女にはきちんと元皇帝の俺が指導してあげよう。
「俺の名前はハリーです。お嬢様のお名前は何ですか?」
「まあ、私ったら自分の名前を言い忘れてたわね。私はミザリーナと言います」
俺はミザリーナにスッと近付いてミザリーナの耳元で甘い声で囁いた。
「どうせなら一階の食堂じゃなくてミザリーナの部屋で飲み物を飲みたいな。ダメかな?」
「え? い、いえ、とんでもありませんわ! ハリーは旅人でしょ? 疲れを私の部屋で取ってくださいませ」
ミザリーナの態度に俺は内心笑いながらミザリーナと一緒に宿屋に入った。




