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第2章 遥かなる旅 第2話 魔法と剣術


王都を出て九日目、王女一行は街道を西に進んでいた。

辺りは荒野か森しかなく、昨日から人の集落を見かけていない。

雨は降っていなかったが、空は灰色の雲に覆われていた。


四人は、街道が通っている荒野の中で、休憩を取っていた。


「この辺りから野生動物にも警戒が必要だ。人目がないから、武器を手元に置いておこう」

「分かりました。弓矢も必要ですね」

「ああ。あと、雨にも備えておくか」

「はい。今夜は荷馬車で寝た方が良さそうです」


クレスティアは読んでいた古い書物を閉じて、脇に置いた。

「新しい魔法を試したいので、ここから少し離れます。グレイスは一緒に来てくれる?」

クレスティアが立ち上がった。

「もちろんです。姫様」

「俺もお供して良いですか」


クレスティアは、木がある方へ歩いていくと、その少し手前で立ち止った。


「では、試します」

クレスティアは腕を伸ばし、離れた木に人差し指を向けた。

彼女の表情が険しくなった。

指先から(いかずち)が発せられ、弾けるような音がした。

木の幹に黒い焼けあとができ、そこから小さな煙が上がっていた。

「よし。できた」

クレスティアの顔が(ほころ)んだ。

「姫様、稲妻が走りました!これが攻撃魔法なのですね」

「凄い。雷は心臓に当たれば命がないと聞いたことがある」


もっと威力が欲しい。発動も早くしないと。


「もう一つ、やってみるわ」

彼女は再び腕を伸ばし、今度は何もないところに向けて掌を広げた。

燃え盛る炎が真横に長く走った。

「物凄い炎です。致命傷でなくても十分な痛手となりそうです」

「ええ。なんとか使えそうね」


でも、もう疲れてしまった。

簡単ではないわね。


「では、戻りましょう」

「そう言えば、姫様。上古人に頂いたと言う腕輪をはめないのですか?」

「あ、うっかりしてた。次は試してみる」


あと、防御の魔法も覚えないと。

クレスティアの表情は真剣だった。


 ◇ ◇ ◇


王都を出て十二日目の夜、無数の星に覆われた夜空の森に、焚火の温かい光が小さな野営地を満たしていた。


食事を終えた後、グレイスは切り出した。

「フレデリク殿、もし良ければ、あなたの戦闘術を教えてもらえないだろうか?」

「ああ、以前、お願いされましたね。いいですよ」

「今からでも?」

「少しだけですよ」

「グレイス、何を教わろうと言うのかね?」

「以前、フレデリク殿と剣術の模擬試合をしたのですが、見事にやられてしまいました。その時のフレデリク殿の技を」

「それは興味深いな」


「木剣がないので、その辺りで木切れを探します」

「いえ、まずは形だけにしましょう。各々(おのおの)自分の剣で」

「分かりました」


「あの時の攻撃をやってみてください」

グレイスとフレデリクは本来よりも少し遅い動きで戦いを模擬していた。

「俺が剣で受けた後、そう返すのが普通です。でも、そこに隙があります」

「もう一度、攻撃を」

二人が剣を交わす。

「わざと剣を残して、こう動きます。次の剣を受けます。すると、相手の懐に飛び込めるのです」

「なるほど。私は剣術の形に囚われていたのですね」


「今度は好きなように打ち込んでみてください」

剣どうしが何度かぶつかり合ったあと、フレデリクの左手がグレイスの首に当たっていた。

「今度は片手剣にして、空けた腕を使いました。小剣を使っても、拳で殴っても有効です」

「今の動きも想定外でした。良く分かりました」

「いずれも対人戦の技です」


「魔物だと剣術も何も関係ありません。相手の動きを読むだけです」

「幽鬼ヴァルシフとの戦闘がそれですね」

「ええ。奴らは恐ろしい筋力で、巨大な武器を物凄い速さで操ります。でも、単純なので動きが読めます。速いので集中力は必要ですが」

「なるほど」

「グレイス、勘違いするなよ。ヴァルシフを前にして、動きを読めるのはフレデリクだけだ。我々は近づいただけで頭が狂うぞ」

「はい。闇の魔力について話は聞いておりますが、実感が湧かないです」

「実感した私は死にかけたよ」


「今日はこれくらいにしましょうか」

「フレデリク殿、感謝いたします。また明日以降もお願いします!」

「分かりました」

「見事な技だ。影士の技によく似ている。次は私も手合わせ願いたいな。お互いに学べるところがありそうだ」

「はい。お願いします」

「ヘンダール閣下、私にもご教示を!」

「グレイス、欲張りね」


四人は再び焚火を囲んだ。


「フレデリクは剣術やその技を、どこで習得したのかね?」

「育ての親から学びました」

「国が亡ぶとき、8歳の俺を助け出してくれた二人の剣士で、二人は夫婦です。山中の森に逃れ、そこでひっそりと暮らしていましたが、剣術だけでなく、生き残る術も教えてくれました」

「でも、俺が16歳のときに刺客が現れました。逃れた際に二人と離れてしまい、それきりです。そのあとは傭兵として実戦を積みました」

「そう言えば、フレデリクは今、何歳なのかね」

「19歳です」

「そうか。では3年も傭兵をやっていたのか」

「ええ」

「東の大地では、国どうしの(いくさ)はほとんどない。傭兵はいるが、暇だろうな。西の大地はどうかね?」

「規模の大小は置いても、常にどこかで戦があります」

「そのような地で3年も生き延びるとは、相当な手練れの古参兵だな」


 ◇ ◇ ◇


焚火が消され、野営地は月明かりだけになった。

四人が荷馬車の寝床で横になろうとしたとき、遠くから馬が駆けてくる音が聞こえた。

ヘンダールとフレデリクは、すぐに荷馬車から出て、音がする方を見た。


馬上の人影は影士(えいし)の部隊長、アレクだった。

「ヘンダール公、間もなく、闇の使徒とオークが来ます。ここから北の方で三人の上古人(じょうこじん)が戦っていますが、敵の数が多すぎて、防ぎ切れません」

「我々は幽鬼(ヴァルシフ)に近づけず、オークを相手にしています」

「敵の数は?」

「オークが約100、ヴァルシフが12人、そして、暗黒の騎士が一人います」

「暗黒の騎士。我々には想像もつかない化け物だ」

「アレク、警告に感謝する。お前は隊に戻って、できるだけオークを始末してくれ」

「承知しました」

影士は北の方へ戻って行った。


「姫様は荷馬車の中にいてください。矢が来ます」

「グレイス、こちらも弓矢を使うぞ」


「ヘンダールさん、暗黒の騎士とは?」

「私も見たことがない。闇の王に次いで力を持つと言われる闇の種族だ。上古人と同等か、それ以上の力があるらしい。騎士と呼ばれる所以(ゆえん)は、二角獣に乗って剣を振るうと聞いた。そいつの相手は上古人の他にいないだろう」


「グレイスさん、俺に弓を貸してください」

「フレデリク殿は弓も使えるのですね」

「ええ。狩猟は得意でした」

「是非お願いします。恥ずかしながら私は不得手です」


クレスティアは敵がいると言う北の方に意識を向けた。

光の魔力と同時に、強力な闇の魔力の発動が感じ取れた。

さらに、闇の気配が辺りを覆っている。


古森(ふるもり)に行ったときと同じ。

私を狙っているのね。


意外にも彼女は恐怖をあまり感じなかった。

攻撃魔法を試したい気持ちが沸き上がったことに、自分でも驚いていた。

とは言え、今の自分の力が闇の魔力に及ばないことは分かっていた。



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