◆第9話「焔の誓い、雷の咆哮」
銀鎖術の後遺症で雷雅は熱を帯び、寝台で苦悶していた。
私は薬湯に紅礬草と氷蓮粉を混ぜ、布で額を冷やす。
「俺が弱いと、お前が狙われる……」
彼の自責が胸を刺す。
「弱くなんかない。痛くても護ると決めたじゃない」
押し殺した声が震え、私の指先は彼の額へ滑り落ちる。
「蓮火、離れて……!」
呻き声と共に、背痕の太鼓紋が暴走、《蒼雷》が天幕を突き破った。
朔月が私を抱えて退き、キティアが氷雨を降らす。
だが私は彼らを制し、雷雅へ歩み寄る。
稲妻が私の頬を掠め、火薬の甘焦匂が鼻を満たす。
「怖がってるのは君じゃなく私。君を失うのが怖い」
言葉が蒸気になって夜気に溶ける。
私は焔命合成式を発動。火輪の温度と氷蓮の冷気を律し、彼の胸に両手を当てた。
炎と氷が渦を巻き、稲妻を包み込む。まるで彼の心臓と私の心臓が同じ鼓動で跳ぶよう。
「……蓮火」
金色の瞳が微弱に光り、荒い息が静まる。
雨が降り始めた。天幕を突き破った穴から、冷たい滴が私たちを濡らす。
私は彼を抱き起こし、額を寄せる。
「ねぇ、今――キスしてもいい?」
彼の瞳が大きく開き、雷の残光が揺れる。
「……しろ。もう逃げない」
唇が触れそうになった瞬間、朔月が叫ぶ。
「おーい! 雨漏り酷いから屋根直そ……痛っ!」
キティアの氷球が朔月の頭で割れた。
私と雷雅は顔を真っ赤にし、結局キスは未遂。でも彼は私の濡れた額へそっと口づける。
蒸せる土の匂い、遠雷、淡い氷の香。五感が混線し、胸が爆ぜる。
「俺、もっと強くなる。……次は絶対、護る」
「私も。二人でじゃなきゃ意味ないから」
頬を寄せ合う私たちを、朔月の尻尾が巻き、キティアの氷花が夜闇に咲いた。
雨音のリズムが鼓動と重なり、小さな誓いは焔と雷の光を帯びて夜空へ走った。
(第9話 了)