表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

◆第6話「氷雨と焔の対話」

 砂漠の東端、氷霧(こおりぎり)峡谷では昼でも氷晶(ひしょう)が舞う。冷気が喉を刺し、私は震えを(こら)えながら歩く。


 突然、降るような歌声。白銀の巫子(みこ)、キティア=フロストへルムが氷柱(つらら)の上に立っていた。

 「()てついた焔……(めず)らしい」


 彼女が指を弾くと、空気中の水分が瞬時に凍り、私たちを雪菓(ゆきがし)のドームへ閉じ込める。

 雷雅と朔月が武器を構える前に、私は一歩進み、震える声で語りかけた。

 「薬帝蓮を“凍結保存”した標本が必要なの。あなたの氷技なら――」


 キティアは瞳を覗き込み、くすりと笑う。

 「取引ね。なら、まず味見」


 指で作られた氷の蓮がほどけ、淡青(たんせい)の花弁が口元へ運ばれる。私は迷わず(かじ)った。舌先が凍り、甘露(かんろ)のような冷気が肺へ染み込む。


 「……美味しい。だけど胸が冷たくなる」

 「炎の巫女が震える姿、綺麗よ」


 キティアの細い指が私の頬をなぞり、吐息が氷華(ひょうか)の匂いをまとって触れる。

 雷雅が叫ぶ。

 「離れろ!」


 振り払うように稲妻が走り、氷ドームが割れる。砕けた氷片(ひょうへん)が虹を作り落ちる中、キティアは肩を(すく)めた。

 「嫉妬? 可愛いわね」


 朔月が茶化すように私の背へ回り(ささや)く。

 「雷が焦げてるよ」


 私は苦笑しながら三人の中心に立つ。

 「喧嘩は後で。氷と炎で薬を守るなら、手を取り合うしかないでしょ?」

 差し出した手にキティアの冷たい掌、雷雅の熱い掌、朔月のしなやかな掌が重なる。

 四つの温度が溶け合い、小さな霧が立ち上った。


 「研究所代わりに私の氷宮(ひょうきゅう)を貸すわ。条件は――立ち入りは“恋人同伴”」

 「え!?」


 私の狼狽(うろた)えに、氷の巫子は涼しく微笑む。朔月が嬉々(きき)として手を挙げ、雷雅は真っ赤に黙りこむ。

 氷雨の峡谷に、恋の火花が連鎖反応を起こし始めていた。


(第6話 了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ