◆第4話「雷神太鼓の傷痕」
雲裂峡へ続く山道は、硫黄と檜が混じる冷たい風で肺を洗われる。私と雷雅は肩を寄せ合い、雨雲の底を目指していた。
「嵐、来る」
彼がそう呟くと同時に、稲妻が稜線を切り裂く。帯電した空気が私の三つ編みを逆立て、胸の火輪をちりりと焦がした。
洞窟を見つけ、駆け込む。奥は雷神信仰時代の祭壇跡だった。中央の石鼓に近づくと、雷雅の背痕が脈打つ。
「見たい?」
控えめな問いに頷くと、彼は上衣を脱ぎ、雨滴を光らせる肩甲をさらけ出す。背一面に浮かぶ太鼓紋――血潮のごとく赤く、雷光が播けるたび淡く輝く。
私は指先で縁をなぞる。熱い。だが芯は寒いほど震えている。
「呪いって呼ばれてた」
「違うよ、これは封印。雷雅自身が守護者なんだ」
唇が喉奥まで乾いていく。触れ合った指から痺れが走り、私の心臓が太鼓を打つ。
試しに石鼓を叩けば、低い雷鳴と共に洞奥の壁が開いた。石室の碑はこう告げる。
《呪雷は災いにあらず。雷神太鼓の継承者が死霊を鎮める》
彼の黄金の瞳が見開かれ、私を映した。
「……だったら俺、守る。お前と、この世界を」
驟雨は止んでいた。外へ出ると空には二重の虹。私は背痕を撫でながら囁く。
「じゃあ私は雷雅の燈火。暗い道を照らすから」
彼は照れ隠しに私を抱き寄せ、額にそっと口づけた。冷えた唇なのに、胸の奥が火柱を上げた。
(第4話 了)