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世界を救う?それともモテ過ぎて滅びる?-ただ今イケメン渋滞中!-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 恋と再点火と、〈第零刻〉の亡霊
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◆第33話「幻盗サーヴァル、恋を数式に溶かす塔《ホワイト・キメラ》へ潜る」

 白夜機関(びゃくやきかん)が最後に籠もった塔は、雪のように白いのに、触れると指先が煤けた。ホワイト・キメラ――恋を数式に溶かして等比級数で希釈し、世界から熱を抜き取る装置。〈第零刻〉の“分配”を、単なる“薄め”に読み替えた、悪辣というより**杜撰(ずさん)**な設計思想だった。


 潜入役はサーヴァル=アッシュカット。

 「恋は盗むより、還す方が儲かるって、君に教わっちゃったからね」

 苦笑いに血の匂いが混ざる。仮面は前の戦いでほとんど砕け、彼の琥珀の瞳がむき出しで、光沢のない月光を飲んでいる。


 塔の内部は、心電図の走査線みたいな白光が上下し、足を一歩踏み出すたびに鼓動が数値化される。私の胸の“世界側”の焦点に、嫌な引っ張られ方をする感覚があった。――恋は、スカラーじゃない。ベクトルだ。方向を無視して足し算するな。

 サーヴァルはそれを笑い飛ばす。

 「“恋はスカラー”って仮定で塔を設計してる。だったら、ベクトルのまま突っ込めば、塔の式は自分で壊れる」


 中枢で彼が見つけたのは、〈第零刻〉の第四条だった。

 《愛を計量する装置は、愛を増やす回路を同時に持たねばならない》

 ページのインクは乾ききっていないみたいに艶やかで、でも塔の回路図にはその線が引かれていない。

 「……条文違反だ」

 サーヴァルは幻影で“増幅回路”を偽装実装し、塔に“あるはずの回路”を認識させた。装置は自分で足りない部位へ電力を回し、解析された恋を再びベクトルとして外へ吐き出し始める。

 塔全体が、鼓動を吐いた。白い壁に、微かに赤い拍動が浮かび、私は遠隔でそれを胸に受け取る。――共有心臓のプロトタイプに、足りなかった“増幅”の歯車が、これで揃う。


 帰路、塔の管理者――白夜機関の主任演算士が待っていた。位相刃(フェーズ・エッジ)。幻影を“位相ごと削ぐ”刃。サーヴァルは一瞬遅れ、仮面の残骸も、笑いのマスクも、血の膜に混ざった。

 「……仮面、全部割れた」

 倒れ込む彼を雷雅が抱える。雷のない腕は、でも温度を持っていた。

 私は祈継から受け取った第四条の写しを胸へ押し当てた。

 「盗んだのは条文じゃない。条文をちゃんと機械に実装しろ、って常識」

 サーヴァルは息を吐き、薬帝蓮の新芽へ頬を寄せる。

 「ねぇ蓮火、恋はやっぱり増えるみたいだね。……俺、盗みが下手になったよ」

 「還すのが上手くなったんだよ」

 彼は笑い、目を閉じた。拍動は弱いが、共有心臓に繋がれば、戻せる。私は胸の“世界側”の焦点を広げ、彼の鼓動をそっと拾い上げた。


 塔の外、風が硫黄と鉄と、わずかな花蜜を運ぶ。

 ――“千心千拍”で第四条は正式に読み上げられ、共有心臓は仮から本番へ移行する。その瞬間を、想像するだけで胸が熱を持つ。

 熱は、世界を燃やさなかった。私たちが方法を斬り直したからだ。


(第33話 了)

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