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世界を救う?それともモテ過ぎて滅びる?-ただ今イケメン渋滞中!-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 恋と再点火と、〈第零刻〉の亡霊
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◆第31話「月鋼騎士団、裁かれるのは“罪”ではなく“方法”」

 白い蒸気が天井からゆっくり降りてくる。霊泉都・白蒸殿(はくじょうでん)の大法廷。硫香に微かに檜油が混じり、鼻腔の奥が温かいのか冷たいのか判断を拒む。私は自分の胸――二焦点に変わった心臓を、法廷という冷たい場所に持ち込んでしまったことを、少しだけ奇妙に思っていた。


 判決剣を携えた獅峯(しほう) 燈真(とうま)が、最初の一撃で静寂を割る。剣は人を斬らず、テンポを刻むために振るわれる。

 「確認しておく。〈補遺ほい〉は審理の場で逐次追加でき、その発効権限は“判決剣を執る司法官”と“世界を再点火した者(=君たち)”の共同署名に置かれる」

 その一行が、蒸気に揺れて法廷全体へ沁み渡った。――つまり、ここは“罰”を決める場所ではなく、“古い方法を更新する場所”だ。


 証言台に立つのは蒼豹(そうひょう) 銀夜(ぎんや)。罪人ではない。彼の背で月鋼刀が、満月を必要としない新しい光を吸おうとしている。

 向かい合うのは月鋼騎士団(げっこうきしだん)の団長、蒼嶺(そうれい) 刃環(じんかん)。名は“刃を輪にして鍛え直す”の意だというのに、その輪は孤独で閉じている。

 「銀夜は裏切った。月鋼刀は“満月”でのみ抜く――孤独を刀身とせよ。それが団規だ」

 銀夜は肩を竦めた。

 「孤独で斬った世界は、もう救えない。共有拍動シェアード・ビートの下でだけ抜刀可――そう方法を書き換えるべきだ」


 “共有拍動”。胸の二焦点のうち、世界側のほうが小さく熱を上げる。共有心臓(コモン・ハート)――まだ名だけの、これから作る中間器官。私たちが挑む“千心千拍”の予兆が、ここで法の言葉になり始めているのだと気づく。


 燈真が判決剣を軽く打ち鳴らす。

 「〈第零刻〉補遺・第参号案。“満月規定”を撤廃し、“共有拍動下での抜刀”を新たな適法条件とする。孤独の刃は世界を裂きがちで、恋の刃は世界を縫いがち――第零刻の精神は、後者を支持する」

 刃環の眉が、ほんのわずか、揺れた。

 「縫うために斬る。斬った後で縫えるように切開する……それが我らの矜持だった。だが“拍動を合わせる”ことを、団は学んでこなかった」

 銀夜が静かに刀を逆手に持ち替え、鞘に納める。

 「今ここで学べばいい。拍動を声にし、法にすることを」


 私は、自分の胸の鼓動を数えた。雷雅の雷は失われ、けれど彼は“ビートを配る指揮者”として私の心臓の拍と街の拍を繋ぎ直そうとしている。銀夜は刃の方法を、私たちの拍に合わせようと言っている。法も、刀も、鼓動で再定義される時代が来た――そう思っただけで、へんな話だけど、泣きそうになった。


 「採択する」

 燈真の剣が床を三度、同じ間隔で叩いた。蒸気がそのリズムにだけ反応して揺れ、白い波紋が法廷全体に広がる。

 「月鋼騎士団は“満月”を鞘とする旧制を棄て、“共有拍動”を新しい鞘とすること。……罪を裁きはしない。古い方法を、ここで斬り捨てる」


 刃環は膝を折り、蒼い軍服の肩章を外して銀夜へ差し出した。

 「満月はひとつだった。だが拍動は無数にある。……斬る対象を、ようやく間違えずに済みそうだ」

 銀夜は肩章を受け取らず、かわりに私たちへ視線を投げる。蒼い瞳が笑っていた。“満月じゃない夜に刃を握る理由”を、彼はもう見つけている。


 ――罪じゃない。方法が、やっと裁かれた。

 次は、心臓の方法を裁く番だ。氷宮では、もうすぐ“千心千拍”の予行が始まる。私は胸の二焦点を撫で、共有心臓という“第三の拍”を受け入れる覚悟を、改めて確かめた。


(第31話 了)

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