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世界を救う?それともモテ過ぎて滅びる?-ただ今イケメン渋滞中!-  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 恋と再点火と、〈第零刻〉の亡霊
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◆第25話「第零刻の予鈴――“結果は正しい。だが方法は審問される”。」

挿絵(By みてみん)

 雷火渦が閉じ、塔(表層)の封印時計は砕け、歯車は朝焼けの中を光の粒になって散った。草薙(くさなぎ) 蓮火(れんか)の胸の火輪は、なお白く燠を抱き、水無月(みなづき) 雷雅(らいが)の背の雷鼓紋は時折びくりと痙攣していた。世界は助かった。だからこそ、私は胸のどこかで油断していたのだと思う――“現象としての終末”は退けたのだ、と。


 けれど霊泉都の臨時評議で、その油断は最初の一言で焼かれた。

 「結果は正しい。だが方法はまだ審問されていない」

 壇上に上がったのは、獅峯(しほう) 燈真(とうま)。燈真は司法官。黒檀の柄に収まる判決剣を軽く床へ打つと、湯気に混ざる硫香が音になったみたいに、会場の鼓膜が小さく震える。


 燈真が掲げた封書は、見たことのない気配で脈打っていた。蝋は銀鎖結社と白夜機関の紋章が半分ずつ溶接され、その上に埋め込まれた十二本の微細な金属針が、私の呼吸に合わせて心電図のように波を描く。枠の黒檀には、心臓の断面図と時計の歯車が噛み合う図像がエングレーブされている。

 「これは**〈第零刻〉**の原典だ。開けられるのは、世界を再点火した者――君の指紋だけだ、草薙蓮火」


 触れた瞬間、指先から体温を吸われ、代わりに鼓動の数と波形を読まれたと直感した。硫黄と花蜜と鉄の匂いが一度に立ち上がり、封蝋の針が私の拍動と完全に同期すると、頁が自動的に裂けるように開いた。


 《第一条:愛は、世界ひとつぶんを動かすのに二人では足りない》

 《第二条:ゆえに、燃料は分配されねばならない。さもなくば、愛も世界も偏って崩壊する》


 胸の奥が焼けた。世界を救ったキスも、雷と炎の融合も、法の目には“二人では足りない”と書かれてしまうのか。

 雷雅の掌が肩に触れる。稲妻のない優しい温度が骨へ沈む。「分配するやり方を見つければいい。俺たちを薄めるんじゃなく、世界を温めるくらい増やす方法を」

 虎啼(こなき) 朔月(さつき)の尻尾が私の腰へ巻きつく。「恋を薄める、じゃなくて“配る”。言葉は似てるけど、熱の使い方が違う」

 銀夜(ぎんや)は蒼い瞳を細め、外套の下で刀の柄を軽く叩いた。「満月ひとつじゃ夜は明けない。――“方法”の方が古い」


 燈真は判決剣をもう一度、今度は一定のテンポで床に打ちつける。

 「〈第零刻〉は二層構造だ。基底条(いま読んだ第一・第二条のような根本規範)と、事態に合わせて審理の場で逐次追加される〈補遺〉。我々は、君たちの“方法”を基に、これから補遺を刻んでいく。ここから先は、戦場が剣から条文へ移る」


 彼が次に呼んだ名が、私の胸へ新しい導線を差し込む。

 「豹条(ひょうじょう) 祈継(きつぐ)。――“心臓の向きを変える術式”を提案する研究者だ」

 痩せぎすで、指先は黒曜石の義指に置換されている。祈継は私たちを見て、長い夜を越えた目で微笑んだ。

 「二人の心臓を二焦点にする。君たちが互いに注ぐ拍動と、世界に配る拍動――二つのベクトルを同居させるんだ」


 私は頷いた。怖い。でも、怖いほど生きている。

 「審問される“方法”を、作り直して出し直す。それなら、やる」


 雷火渦は収まった。けれど雷火渦を測っていた〈物差し〉――第零刻――は、まだ古い。

 法廷に蒸気がゆらぎ、硫香と檜油が甘く鼻腔を刺す。その匂いのすべてを、私は二焦点化される前の心臓で焼き付けようと思った。


(第25話 了)

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