◆第24話「暁天決戦、恋は火薬」
夜が砕け、空は紫電と紅焔の二重螺旋を描いた。封印時計塔の上空に裂けた大渦――“雷火渦”。終焉の門。
黒炎が空気を蝕み、都じゅうの灯火が吸い取られ、蒸気は凍り、人々の鼓動は重力のように沈んだ。
「ここで止める!」私は叫び、身体の奥で火薬が弾ける音を聴いた。火輪が白炎となり、薬帝蓮の半花が核へ溶け込む。
雷雅は背痕から雷翼を顕し、銀夜は月鋼刀を空へ翳す。刃に映る自分の顔が蒼く、だが揺れはなかった。
朔月は風榴弾の種を噛み砕き、尻尾を弓のように反らす。キティアは氷冠を砕き氷雨を声で操る。サーヴァルは仮面を完全に割り、幻影を千の鏡にして渦の裾を映し返す。
「愛は過剰反応――最大熱量で終末を逆燃やせ!」
私は〈焔命合成式・天終融合〉を宣言。五つの掌が重なり、温度・電圧・風圧・霊圧・幻素が一点に閃く。
銀夜が意識を刃に注ぎこみ、《月鋼月環》を描く。朔月の風刃がそれを包み、《虎吼風輪》となり、キティアの氷雨が外殻を冷却。サーヴァルの幻影が進路を、多世界の迷路のように撹乱し、最後に雷雅の稲妻が芯棒を貫く。
――《紅電氷月幻衝》。
巨大な光輪が雷火渦の中心へ射出された。轟音が鼓膜を裂き、視界が白一色に塗り潰される。熱と寒気と電撃と真空が同時に押し寄せ、身体の輪郭が崩壊しそうになる。
光輪の核で、私は雷雅と唇を重ねた。痺れと熱と甘露の味、心臓が三倍速で打つ。恋のエネルギーが爆薬以上だと証明する一瞬。
「世界が燃えても君を抱いて離さない」彼が呟く。
「なら私は、その腕ごと世界を抱く」私は笑う。――恋は火薬。導火線は自身の鼓動。
光輪が渦を貫いた中心で零れた黒炎が白に変質し、雷鳴が子守歌の音階へ変わる。夜の裂け目が収縮し、封印時計塔の針が砕け落ち、歯車が光の粒になって風に散った。
静寂。空は薄紅の黎明。廃墟と化した塔のてっぺんで、私は膝をつく。薬帝蓮の半花は灰になり、しかし土に落ちた灰から新芽が伸び始めている。
雷雅が私を抱き起こし、額に汗と涙と灰を混ぜて笑う。「終末は、もう来ない」
朔月が尻尾で私たちの背を叩き、「寝言は三食後にしよう」と茶化す。銀夜は刀を肩に担ぎ「満月以外にも生き延びる理由が増えた」と呟く。キティアは氷花を空へ飛ばし虹を作り、サーヴァルは幻影の紙吹雪で街の子どもたちを笑わせる。
私は火輪を掲げ、まだ震える声で叫ぶ。
「世界を救う? それともモテ過ぎて滅びる?――答えは先にある。でも今は恋で燃え尽くせ!」
新しい朝日が薬帝蓮の芽を金に染め、硫香と花蜜の混ざる風が都を撫でた。
胸の火輪は穏やかに脈動し、雷雅の掌がそれと同じリズムで鼓動していた。――恋は火薬。けれど焔は人を焼かず、世界を暖めると、私は知った。
(第24話 了)