◆第15話「恋騒ぐ混浴合宿と、湯けむりの罠」
翌朝、銀夜は“戦術浴場”と呼ばれる薄桃の湯へ私たちを案内した。龍の火口から湧くと伝わるこの湯は、軍勢の傷を塞ぎ恋の病を悪化させる――そんな伝承を思い出し、頬を叩く。
檜と桃花蜜の甘香がむせ返るほど濃い。私は裾を絡げ、火輪を抑えて足から浸かった。湯が旅埃と不安を溶かし、雷雅の稲妻が放電して小蒸気柱を上げる。朔月は尻尾を揺らし、キティアは湯気を凍らせ氷花を浮かべた。
銀夜が提案する。「連携も恋も温度で鍛える。戦術混浴訓練だ」
私は赤面しつつ頷く。湯気越しに肩が触れ、稲妻の痺れと猫科の体温が混ざる。五感は過積載で眩暈がするのに、もっと熱を欲した。
湯底で金属音。白夜機関の罠札が起動し、湯が沸騰と氷結を同時に起こす。鎖符が雷雅の背痕を締め付け、稲妻が天井を裂く。私は彼の背に腕を回し火輪で鎖を赤熱、銀夜が月鋼刀で断ち、朔月が旋風を起こし、キティアが冷気で爆発を封じた。
「離れない。二度目の人生は君の隣で燃えるためにある」私の囁きに、雷雅は震えながら微笑む。
罠残骸が燃え尽きる頃、湯・汗・血・火薬の匂いが混ざり、一体感が生まれた。
湯屋を出ると封印時計は七刻目。終末は近いが怖くない。肌が触れ合い名前を呼び合う仲間がいるからだ。
屋根から滴る湯雫が石畳を撃ち、湯気立つ屋根は巨大な心臓のように蒸気を吐く。止まれば都は凍え、進めば世界は再び熱を得る。――私は静かに誓う。次の罠でも誰も失わない、と。遠雷が応え、夜空は微かに焔色へ染まった。
(第15話 了)