作家なら家に籠ってアイデアなんぞ考えてんじゃねえ!!
「作家なら家に籠ってアイデアなんぞ考えてんじゃねえ!!」
は? なんだそりゃ? ふざけてんのかと思いながらこの記事をクリックしたあなた。
いま「アイデアが出ない沼」にハマってるか、あるいは「そろそろ来るぞ……ネタ切れの気配……」とビビっていたりしないだろうか。
ご安心を。このエッセイはそんなあなたのために書いている。
作家にとって“いいアイデア”は、”いい作品”のコアだ。どれだけ文章力があっても、ネタがなきゃ文字は書けない。
ここで問題になるのはそのネタ──つまりアイデアが降ってくるかはかなり運ゲーに近い。はい、実際唸りながら書いてます。
でもその“ひらめきガチャ”の確率を上げる方法がある。確かにある。
神を信じ、ネコと和解せよ。さすれば救われん。多分。
それを実証してくれたのが、あのスタンフォード大学だ。
論文タイトルは「Give Your Ideas Some Legs:The Positive Effect of Walking on Creative Thinking」。
直感で直訳すると「アイデアに足を与えよ:歩行が創造的思考に与えるポジティブな影響」って感じかな? 研究者さんのタイトルセンスも侮れませんねぇ!
ともかく脳みそが天井へ突き抜けているような人たちが「アイデアはこうすれば出るぞ!」って教えてくれた。
その方法は単純明快──歩く。家の外に出て歩く。それだけ。
というわけで、ここからはスタンフォードの研究成果と、「歩く=アイデア量産装置」説を、作家視点で解説していく。
アイデアに悩むあなたはこのエッセイを読んだ後、きっと外で散歩したくなることだろう。
◆
「この話、書きたい!!」
そう思えたときの興奮は、作家の特権だ。テンションが上がって、手が勝手に動き始めるあのワクワク感は何とも言い難い。
でもその“燃えるようなネタ”が、そもそも思いつかないときはどうするか?
そう、そこ。「何を書こう……」の地獄はあまりにも深い。
ネタを探してTwitterをスクロールしてたら時間が溶け、「書く気はあるのにテーマが浮かばない」という不毛な状態でノートを閉じる。
まるで脳内に鍵のかかった倉庫があって、中身はあるのにアクセスできない感覚を経験したことはないだろうか?
で、周囲に相談すると、こう言われる。
「気にしすぎじゃない? そのうち思いつくよ」
いやそれが一番困る。「そのうち」って「いつ」なんだよ!!!!
天から啓示が降ってくる日を待ってる間、我々は何もせず時間を溶かすしかないのだろうか。
いいや、そんなことはない。
それをちゃんとデータと実験で証明してくれたのがスタンフォード大学の「歩くと創造力が上がる」研究だった。マジで歩くだけで脳味噌のアイデアを発送する部分が刺激される。
次の章ではその内容を分かりやすくざっくり説明する。
◆
■研究内容ざっくりまとめ
タイトル:Give Your Ideas Some Legs:The Positive Effect of Walking on Creative Thinking
著者:Marily Oppezzo & Daniel L. Schwartz(スタンフォード大学)
被験者:大学生を中心とした実験協力者たち
やったこと:
・「座ったまま創造的思考テストを実施」
・「歩きながら創造的思考テストを実施」
同じ被験者にこの2つの状態に置き、それぞれ発想系テストやらせてどれだけユニークなアイデアを出せるかを比較したところ、歩きながらテストした方が被験者の81%が創造的思考スコアが向上した。
この場合の創造的思考とは発散思考とも呼ばれていて、より多く、より自由なアイデアを思いつく能力だ。
要するに、10人中8人は歩いた方が頭が柔らかくなったってこと。
■なぜ歩くとアイデアが出るのか?
この論文では直接的な生理学的メカニズムの検証はしていないけれど、別の書籍などでは以下の理由が推測されていた。
・血流が増えて脳が活性化
・脳の“DMN”が活性化される
※DMN=「関係のなさそうな情報同士をつなげて、予測・連想・空想を生み出す力」=「一見バラバラなネタを、無意識に組み合わせる能力」
・体が動いてると、脳が「集中しすぎない」状態になるがこれが重要と考えられる。
どうも「集中して考える」より、「ぼんやり考える」方がアイデアは出やすいらしい。
中国の欧陽脩が言う「三上(馬上・枕上・厠上)」もまたこの原則に合致している。アイデアは「心と体が緩んだ状態」だと自然に湧きやすい訳だ。
風景を見ながらゆるく歩くと、脳が勝手に組み合わせや連想を始める。これは座ってPCとにらめっこしてるときには起きにくい現象。
つまりアイデアが出ないときこそ座って唸らず、立って歩こう。
歩くことで「脳のロック」が緩む。散歩中に思いついた設定、キャラ、台詞、エピソード──物語のパーツを必ずメモして机の前に持ち帰ろう。
◆
ここからは「歩く」ことの実践にあたって私が気を付けていることを簡単に述べさせていただく。
メモと散歩コースの2つだ。
■メモの重要性
アイデアなんて思いついた瞬間は「閃いた!」と思っても形にしなければすぐに消えてしまう儚いモノだ。
アイデアが天から降った時、すぐに形にできるよう手元に紙やスマホなどメモできるものを置いておこう。
尤もこれはよく言われていることだから作者諸氏におかれては既に実践済みかもしれない。
メモは手書きでもスマホでも、文字でも音声でもいい。とにかくアイデアを思い出せるフックを残しておこう。
■散歩コースは「緑が多い場所」がいい
散歩コースはなるべく公園や緑道など緑が多い場所をお勧めする。
グリーンセラピーという言葉をご存知だろうか?
自然環境の中で過ごすこと(特に植物や緑の多い環境)によって、心身の健康を改善・維持しようとする療法なのだが、こいつは「創造的思考の促進」にも関わっているという研究がある。
それ以外にもたくさんの健康上のメリットがある。
・ストレス軽減・不安の緩和
・気分の向上・うつ症状の改善
・認知機能や注意力の回復
要するにコンクリートジャングルより本物の緑あふれるジャングルの方が人間にとっては良い環境なのだ。
結局のところ人体はジャングルでウホウホやってた頃からあまり変わっていないので、数百年前に”突然”現れたコンクリートジャングルに生理機能が対応しきれていないんだろう。
自然の中に歩いていけば頭も心もスッキリする。それをちゃんと科学で後押ししてるのがグリーンセラピー。
ちなみに室内に観葉植物を置いたり、PCの待ち受け画面を大自然の景色にして数分眺めるだけでも脳の疲労を癒すリラックス効果があるとされている。
正直なところ、実践している私自身も”なんとなく気分がいい”レベルの感覚はあるがどこまで効果があるのか有意に数値化できている訳ではない。
ただ、私にとっては”なんとなく気分がいい”だけでも十分メリットはあるし、私よりもはるかに頭のいい人たちが研究し、データをまとめ、論文に起こしているのだからささやかでも確かな効果があると思っている。
鰯の頭も信心からという。信じることでポジティブなプラセボ効果があるはずだ。
だが信じるためにはまず疑ってほしい。このエッセイに限らず。
疑わずに意見を丸のみするのは信用でも信頼でもなく、妄信だ。
むしろこのエッセイをキッカケにこの分野に興味を持ち、一度調べてもらえると幸いだ。そうすれば適当なデタラメを言っている訳ではないと分かって頂けると思う。
一度疑ったうえで信じると決めたのなら、その信頼は「ただなんとなく」信じた時より一層強固になるはずだ。
◆
アイデアは都合よく振っては来ないガチャだ。アタリを引けるかは分からない。
だがガチャのアタリを引く確率を上げ、試行回数を増やすことは可能だ。
歩こう。
「考えたいのに、考えがまとまらない」ってときこそ座らずに外に出よう。
脳はほどよくリラックスさせると生き生きと動き出す。そのためには散歩が最も手っ取り早い。
よってここで最後にもう一度、タイトル回収をさせて頂く。
作家なら家に籠ってアイデアなんぞ考えてんじゃねえ──散歩してこいッッッ!!