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服毒して生き残ったら王太子妃

服毒して生き残った王太子妃とのデートの行き先が異国って本当ですか?【連作短編⑦】

作者: 龍 たまみ

前作を読んでいなくてもお楽しみいただける短編です。

【連作短編⑦】に分類しています


 アラマンダ王太子妃が聖獣の猫、メオ様と一緒にシーダム王国の山岳地帯に住む部族の為に学校建設を建てることに尽力したあと。


 一妻多夫の求婚を山岳部族のナウに提案されて、それを退けてからルートロック王太子は、妻であり王太子妃のアラマンダに今まで以上に愛を囁くようになっていた。


(アラマンダの女性としての魅力がいろんな人に認められるのは嬉しいが、求婚されるのは……困る)


 だからこそ、アラマンダに自分の気持ちを真っ直ぐに伝えられるようにルートロックは努めていた。


 そんな揺るぎない寵愛を受けているアラマンダも、王太子妃としてルートロックの公務を手伝うようになっていた。


 最近では、アラマンダがルートロックの執務室に立ち寄る時間も増えてきている。

 予想以上に博識なアラマンダの意見も参考までに聞いておきたいというルートロックとサルフ宰相の意向により、アラマンダは二日置きにルートロックの執務室に顔を出すようになっていた。


 それでも、公務で忙しい王太子のルートロックとは婚姻を結んだ後もデートらしいことはしたことがない。


 ■■■


 執務室でルートロックとアラマンダ、そして聖獣のメオ様が休憩をしている時のこと。


「アラマンダ。王宮魔導士にお願いして、聖獣が住処として出たり入ったりできる指輪を作ったのだが、どうだろうか。私の持っている聖獣のドラゴンもこの指輪から出入りしていただろう?」


 ルートロックの手のひらには、聖獣の猫のメオ様の瞳と同じ翡翠色の魔石が組み込まれた指輪があった。

 デザインもルートロックが所持している指輪と似ているけれど、少し女性らしく繊細な模様が刻まれている。


「まあ! メオ様の瞳と同じ色で綺麗ですわね!」

「にゃ~」


 どうやら、魔石の色自体はメオ様のお気に召したようだ。


(……でも、メオ様は指輪には入ってくれなさそうね……。だって自由気ままな猫様ですから)


 アラマンダはメオ様が自由奔放に出歩くことが好きな猫だと理解しているので、指輪の中に入る機会があるのかと考えを巡らしてみる。

(きっと入ってくれなさそうね)


「うふふふふ」


 思わず考えていたことが、顔に出ていたようで笑いがこみ上げてくる。


「どうして笑っているのだ?」


 ルートロックはなぜアラマンダが笑い出したかわからずに、理由を問うてみる。


「いえ、ルートロック殿下のお気持ちはとても嬉しいです。指輪をわざわざ作って下さりありがとうございます。でも、メオ様は猫でございましょう? いつも夜になるとどこかにふらっとお出かけしているようですので、あまり指輪の中に入る機会はないかもしれません」


「メオ様、指輪の中に入ることも……あるだろう?」


 ルートロックは、アラマンダの膝の上で丸まっているメオ様に直接聞いてみる。


「にゃぃ」


「うふふふ。メオ様。『ない』と今、おっしゃったのですよね?」

 メオ様が人語を話すのは、いまだアラマンダの前だけでルートロックの前では人語で話そうとしない。


(……でも、今、明らかに人語を話しそうになっていましたわよ……。気が抜けているとポロッとルートロック王太子殿下の前でも人語で話すようになるかもしれませんわね)


 メオもうっかり人語を話してしまいそうになり、「しまった!」という顔をしている。


「ルートロック殿下。いつかこの指輪を必要とする日が来るかもしれません。だから、今すぐには使う機会がないかもしれませんが、常に指輪は身に着けておきますわ」


「あぁ、……そうしてくれ……」


 ルートロックも、メオ様の人語っぽい返事が面白くてツボにはまってしまったようで、まだ顔を横に背けて右手を拳にして口元を隠してクククと笑い続けている。


 アラマンダの指に指輪をはめたルートロックは、思い出したかのように一通の封筒を執務机の上から持ってきて、アラマンダに意見を聞いてみることにする。


「ちょっと、アラマンダの意見を聞きたいんだが……これについてどう思っているか、一読して意見を聞かせてもらえないだろうか」


「はい、かしこまりました」


 アラマンダは、ルートロックから封筒を受け取ると差出人を見て、目を見開く。

 なぜ、こんな離れた王国に送られてきたのだろう。

 それはシーダム王国の南西にある国で、隣国ではない。他国が間にあるので同じ大陸に位置しているけれど少し離れた南の国からの封書だった。


 ゆっくりと封筒から手紙を取り出し、目を通してみる。


「……この手紙の送り主、ファイ国はすでに食糧難に陥っているのでしょうか?」


 アラマンダは、顔を上げてルートロックに尋ねてみる。


「おそらく、餓死者が出始めているのかもしれないな」

「でも、なぜ隣国に援助を求めるのではなくて、離れたシーダム王国に助けを求めたのでしょう」


 アラマンダの心当たりは一つだけ。

 アラマンダの膝の上からゆっくりモソモソと立ち上がって、床の上で大きく伸びをしている真っ白い猫……メオ様を見つめる。

(私が聖獣を召喚したという話は近隣諸国のどこまで広がっているのかしら)


 アラマンダの膝に置かれた手を両手でとって、ルートロックは自分の思っていることを話し出す。


「理由ははっきりとはわからない。恐らくシーダム王国の王太子妃が聖獣を召喚したという話は隣国あたりならもう知れ渡っているだろう」

(そうよね。いつも私が猫を連れて歩いていたら、あれが聖獣かもしれないと気付き始めているわよね)


 でも、メオ様は本当にどこからどう見ても、可愛らしい普通の猫にしか見えない。

 アラマンダ自身も、メオ様の能力を測定した時のレベル9999を上回る強さをこの目で見たことはない。


(人語を話せるのと、私にどこかの地域へ行った方がいいとか助言は下さるのだけれど、メオ様自身はそんなに派手な振る舞いはしていないから、聖獣が猫だと知られていても大した力は無いと思われているはずなんだけど……)


「正直、私自身まだメオ様の御力がどのようなものか全くわかっていないのですが、このファイ国は私の聖獣が猫だとご存じなのでしょうか?」


「それに関してはまだ何とも言えないな。ひょっとしたら、私の聖獣のドラゴンにどうにかしてもらえないと思って封書を送ってきた可能性もある」


 ルートロックもアラマンダもなぜ、離れてあまり交流のないシーダム王国にファイ国が救いを求めてきたのかわからない。


「では、ひとまず私が行って様子を見て参りましょうか?」

 アラマンダは、前回の山岳地帯に行く時と同じように一人で見てくることをルートロックに提案してみる。


「う~む。アラマンダならそう言うと思ったよ。でも、ファイ国とは国交を結んでいないから正直どんな状況なのかわからないし、さすがに王太子妃が行くのは……危険が大きすぎる」


 ファイ国からの手紙の内容は、ババタと呼ばれる虫が大量に発生していて穀物などを食いつぶしてしまって困っている。自国内でできる限りの最善が尽くしたが、ババタの発生に対応が追い付いていないから、助けてもらえないだろうかという内容だった。


 アラマンダは、前世で見た事のあるニュースが頭に浮かぶ。

(森野かおりとして生きていた時に、海外の国で昆虫が大量発生して被害を受けているというニュースだったかドキュメント番組を観たことがあったわね。あれは……バッタだったかしら……。それに似ているような状況が起こっているというのかしら)


 森野かおりの時に見たTV映像では、無数に空を埋め尽くして移動していくバッタの映像が流れていた。その光景を思い出したアラマンダは、ブルッと身震いをする。


(あんな感じで大量発生しているとしたら、確かに恐怖だわ)


「でも、このファイ国からの手紙だと助けてもらえないだろうかとは書いてありますけれど、食糧難に直面しているから食糧を支援して欲しいという意味なのか、ババタの発生を抑える為の対策を手助けして欲しいのか、どちらの意味で書かれたのかわかりませんね」


「そうなんだ。或いは、その両方という意味にも受け取れるがな」


 ルートロックは国交を結んでいない国を支援するべきか悩んでいるようだった。


「ちなみにババタとはどのような生き物ですか? このシーダム王国ではあまり耳にしないですけれど」


 アラマンダは、毒に関わる知識はずば抜けているけれど、昆虫は人並にしか学んでいない。アラマンダ本人の興味がなかっただけなのだが、きちんと図鑑を読み込めばすぐに知識を手に入れることができると思われた。


「ん? ババタか?この王国にも生息はしているけれど、ひょっとしたらファイ国のババタとは気候が異なるから種類が違うのかもしれないな」

「そうなのですね。シーダム王国にもいるのですね。知識不足で申し訳ありません」


 アラマンダは自分の勉強不足をルートロックに謝罪する。


「いや。ちょっと安心した。アラマンダは何でも知っているから虫にも精通していると勝手に思い込んでいたんだ。アラマンダの知らないことがあるなんて、新鮮で、それを恥ずかしがりながら告白する姿が何とも可愛いと思ってしまったよ」


 ババタの話をしていたはずなのに、いつの間にかアラマンダが可愛いと甘い言葉を紡ぐルートロックに、アラマンダは耳まで真っ赤にする。


「私にも知らないことはたくさんございますよ? 知識に関しては偏っておりますので、ルートロック殿下の足元にも及びませんわ」


 アラマンダは、自分の知識が毒に関することばかりに偏っていることを自覚しているので、とても恥ずかしくなる。もとはと言えば、ルートロック殿下の横に並び立てる女性になりたいと願い、命を奪う毒について自分なりに調べていただけなのだが、いつの間にか「毒」に関することは王太子妃の右に出る者はいないと思われているのかもしれない。


 そこで、アラマンダは、ふと思い出す。


「ひょっとして、王太子妃選考会で私が服毒したのを聞いて、毒に関する知識があるなら、そのババタに毒を食べさせて駆除して欲しいとファイ国が思って手紙をよこしたという可能性はありませんか?」


 アラマンダの言葉に、ルートロックもハッと顔を上げる。


「確かに! その可能性はあるな。服毒をしたのに生き残った女性が王太子妃になったという話は隣国には届いているが、もっと離れた国にまでその話が知れ渡っていてもおかしくはないな」


「であれば、やはり私が訪問するのが良いのでしょうか」

「う~む。それは……よく知らない国に送り出すのは……許可できないなぁ」


 ルートロックは、こちらを見上げて話を聞いていたであろうアラマンダの聖獣、メオ様にも確認してみる。


「アラマンダだけで行くのは、反対ですよね? メオ様」

「にゃ~」


 どうやら、メオ様もその意見には賛同できないらしい。

 そもそも、隣国でもない。位置的にも離れすぎている。


(前世なら飛行機があって、ビューンとあっという間に行くことができたでしょうに……あっ!)

 森野かおりだった時の知識を思い出して、一つの方法が浮かぶ。


「では、ルートロック王太子殿下の聖獣ドラゴン様でサクッと行ってくるのはどうでしょう?」


 ルートロックもすでにその考えには辿りついていたようだが、まだ首を縦には振らない。


「いくらドラゴンと共に、すぐに飛んで行けるにしても……どんな国かわからないところにアラマンダを向かわすのは許可できないな……やはり、私も一緒に行く方がいいだろうか」


 アラマンダはルートロックの言葉にギョッとする。

(ここにサルフがいなくて良かったわね。彼がいたら公務が滞るから止めてくださいと絶対、止めるはずだもの)


 でも、ルートロックが一緒に行くのが一番良いのかもしれない。なぜなら、国交を結んでいないなら、これから結んでいけばお互い友好国となり、別の助けを得られることができるかもしれない。


「メオ様。ルートロック王太子殿下と私と一緒についてきていただくことはできますでしょうか?」

「にゃ~」


 メオ様は、前脚で顔を洗いながら了承する。どうやら王太子と王太子妃が二人揃っていくなら大丈夫だということなのだろう。


「ルートロック王太子殿下! 私と一緒に参りましょう!」

「そうだな……今後、国交を結べばお互い支え合える良い国になるかもしれないから視察を兼ねて見に行ってみてもいいかもしれないな。ドラゴンを使えば、すぐに帰って来られるし、身体への負担も少ないだろう」


(サルフは……絶対、泣きながら考え直して下さいと言うだろうが、王太子妃を一人では向かわせられないし、いつも何かを察して助言してくれるという聖獣のメオ様が了承したのであれば、二人で行ったほうが良いと判断したということだ)


 ルートロックは、そう判断しアラマンダと二人で外国へ行けることに内心とても喜んでいた。


(行き先は不安のある国だが愛するアラマンダと旅に出るのは、初めてだ! 本当は素敵な場所に新婚旅行に行きたいが、公務が立て込んでいてまだすぐに行けそうない。今は2人で公務であっても出かけられるだけで幸せだ)


「アラマンダ。今回は、ファイ国に挨拶だけしたらすぐに帰ってこよう。どこまでが信用していい話なのか判断材料が足らなくて、安心ができない。長居は無用だ」


「かしこまりました。うふふふ。それでしたらサルフ宰相もお許し下さるでしょうね」

「まぁ……そうだな。それにしても、私はアラマンダと二人でデートできることの方が嬉しいな」


「確かにそうですわね。一緒に外にお出かけする機会がございませんでしたものね。殿下とのデート、私もとても楽しみですわ」


 こうしてルートロックとアラマンダのデートの行き先が未知の国、ファイ国に決定した。


 この後。


「王太子妃とのデートの行き先が異国って本当ですか?」

とサルフが声を荒げて叫んだのは言うまでもない。


 ■■■


 アラマンダは私室に戻ってきてから、メオ様と今回のファイ国の旅について話をする。


「メオ様。本当にファイ国では食糧難に陥っているとお思いですか?」


 聖獣であるメオ様はヒゲを前脚で撫でつけ、しばらくしてから返事をする。

「ん~。多分、食糧難なのは本当だと思うにゃ」


(もしや、あのおヒゲは何かしらのセンサーになっているのかしら?)

 そんな疑問がアラマンダの脳裏に浮かび上がる。


「それでしたら、私の聖獣が猫であるメオ様だからシーダム王国に助けを求めてきたという可能性もありますか?」

「ん~。そこまではわからないにゃ。我の力をどこまで調べているかは……行ってみないとわからないにゃ」


 もともと、『聖獣召喚の儀』で猫様を召喚したいとアラマンダが望んだのは……猫の神様は豊穣の神様でもあるからだ。

 アラマンダは、まさか「シーダム王国の王太子妃が豊穣の神様を召喚した」と理解した上で、わざわざ国交もないこの国にまで助けを求めてきたのかどうか、それが知りたかったがメオ様にもそこまではわからないらしい。


(前世の記憶でも、確かにバッタの大量発生で食糧難になっている国があったわよね。……その時はどうやって駆除したのだったかしら……蝗害(こうがい)……よね。思い出せるだけの知識で対応できるかわからないけれど、できそうなことをやってみるしかないわよね。あとで書庫でもファイ国について調べておかないといけないわね)


 ルートロックとアラマンダの二人で対応できそうな蝗害(こうがい)対策だけお伝えして、さっさと帰ってこようと心に決める。


(私自身がまだメオ様の能力を把握しきれていないのに、メオ様の能力を他国に見せるのは危険かもしれないわ。聖獣であるメオ様か、もしくは王太子妃である私の身柄を拘束しようとすることも出てくるかもしれないわ)

 ルートロックが危惧していた通り、ファイ国に関する情報があまりに少なすぎるのだ。


 そこで、アラマンダは一つの考えに思い至り、メオ様にいくつか質問をする。


「ファイ国は、メオ様の能力をどこまで知っているのかはまだ不明ですよね?」

「そうだにゃ。行って様子を見てみないとわからないにゃ」


「……ということは、白い可愛らしい猫のお姿を顕現した状態でお連れするのは……あまり良いことでは……ありませんよね?」

「むむむ。そうかもしれないにゃ」


「あら? で、あれば早速、この指輪の中にメオ様は隠れて、私と一緒に行くという方法が良いと思うのですけれどいかがでしょうか」

「……仕方がにゃいけれど……それがいいかもしれないにゃ……」


(やったわ! 早速、ルートロック殿下が王宮魔導士に作ってもらった指輪が役に立ちますとルートロック王太子殿下にお伝えるできるわね! きっとお喜びになりますわ!)


 アラマンダは聖獣の住処となる指輪を作ってくれたルートロックの優しさが、すぐに活躍できることを嬉しく思って心の中で歓喜の拳をふりあげた。


「本当は……自由に歩き回りたいにゃ。本当は」


 指輪を眺めて喜んでいるアラマンダの横で、残念そうな顔をしているメオ様にアラマンダが気付くことは……無かった。



読んで下さりありがとうございます。

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出発後の話は【連作短編⑧】にて投稿予定です。

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