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第二十二話 日々


 クエスチョン

 

 忘れた頃にやってくる

 恐怖でドキドキのアイツ

 コッチが苦しくても胸いっぱいでも

 今か今かと待ち侘びているのは……?

 最近若い夫婦が開いた民宿がある白山の麓をバックにして。獣道の方ではなくて、登山用の綺麗に整えられている入り口の石畳を数歩進むと、茜色の鳥居の門前とは違う、ちょっと清廉な空気が漂う。

 よく磨かれた立派な柱と床が見渡せる玄関から入って左の曲がり角に、見慣れた一行の影がある。

「すみません、お忙しい中」

 花江由希子は班長らしく、静々と挨拶に向かう。

「いえいえ、若い子が関心を持っていて嬉しいですよ」

 社会科見学などで使うバインダーを首からぶら下げた子ども達を見て、此方に久方ぶりに取材に来たと神職の息子はニコニコしていた。

 その様子から呼之邉哲は普段らしからぬ仰々しさで一つ呟く。

「文化伝統離れってやつか……」

 グループワークの為の取材に漕ぎ着けたが、祭りの二週間前の今日は、主催となる神社は指導等で忙しいはずなのに、何故かあちらさんは引き受けたので、不思議だったのである。純粋に、興味を持ってくれた嬉しさかららしい。




 開けられた襖の隅っこからチラチラと中を覗く人もおりまして。

「これは取材、取材だから大丈夫……」

 若葉春流は好奇心を携えて目を輝かせた。神社の中に入ったことなんてなく、流石に本殿ではないけれど、神社の建物の中に入るだなんて初めてなのだ。檜と畳の匂いの中に、どこか背筋が伸びるような雰囲気が漂っていて、隅には上等な生地で出来た座布団が積められているこざっぱりとした部屋を眺める。

 襖の上にある透かし彫りが綺麗だなと思ってみたり。あれって何て言うんだっけ……。そうだ欄間って言うって前におばあちゃんが。雑木林の中に堂々とした獅子あしらっていた。月獅子伝説と関係があるのかなぁ……。

「こういう風になっているだなんて知らなかった」

 一人でに感心していると、後ろから溜め息の吐く声が。

「お前も文化伝統離れだな」

 おまけに呆れも一つ入っていまして。私は思わずムッとなる。

「じゃぁ、テツくんは知っているの?」

「知ってるに……いや、ノーコメントってことで」

 何か言いたげにしていたテツくんは、知らぬぞんぜぬと言う風に。

「何よぉ、それ」

 そう、返すしかないわけで。


 三本目の柱を通離すぎた時、襖が引かれた。

「あちらがお囃子のお稽古場です」

 すかし見台が複数配置して、何やら刷られたプリント用紙がその上に置いてある。よく見ると、宿題に出される書き取り帳に記したように漢字で構成されているが、数字の羅列しか書かれていなかった。

「楽譜みたいなモノですよ、数字が音階になっています」

 思わず頭を傾げる。和楽器を弾いたことのないハルルは繁々と眺める。

「漢数字ねぇ、横線とお玉杓子よりも読みやすいかも」

 音楽の授業の前、それも新しい曲を学ぶ前には一つ一つドレミと、スラスラと読譜ができないハルルは書いていく。それでリコーダーの演奏をなんとか乗り切っている自分からしたら、楽でいい。

 呑気にそう思っていたが、心底呆れている目が四つ。

「ハルルちゃん、横線とお玉杓子って……」

「せめて音符と五線譜って言えよな」

 ユキコちゃんとテツくんは、何か可哀想なものを見るように、私へとやけに生暖かい眼差し向けてきた。

「名称をド忘れしただけだって‼︎ ああ、コウヅキに言わな……」

 必死な弁明も、揶揄う手口をヤツに渡さないように願っても、功を成さない。

『オマエなぁ……、さすがに四年生でそれはないぞ』

 願う時は、だいたい遅いのもので。

「『大きなおせわです‼︎』」

 顎下あたりに両手の指先を向かい合わせて、上へ上へと弧を描く『大きな』。やっぱり隠し事が上手くいかないなぁ、私って。


 夏休み中と言えども、一応取材に来ていた。それを忘れていた所為か。

「ハルルちゃん、ちゃんとメモ取りましょうね」

 笑みを貼り付けて米神がピクピクと跳ねているユキコちゃんが、私の肩に手を置く。その手がズッシリと重いような気がするのは何故だろうか……。

「ハイ……、騒がしくしてすみません」

 ユキコちゃん恐ろしい娘だ、そう痛感しながら、すごすごと列の中に戻る。




 丁度、お囃子の稽古が休憩に入ったらしい。襖に足を伸ばそうとした影が映り込む。

「ん……? 君……」

 何処からか爽やかな声を掛けられたような気がして、振り返った。




 



 アンサー


 宿題と気になるあの人


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